48話 俺の推測その一
一キロ先から変異樹の消失を確認したのだろう。
自ら確認役を買って出たと言う、おそらく毒味役とされたであろう猫神父が、少し息を切らして駆け付けてきた。
「にゃは! 思ったより、だいぶ早かったですね! ――では、住人の皆様方を戻すといたしましょうか。それにタコさんも、ミュウさんにその宿った力を見てもらいたいですものね!」
「あぁ。でも、その前に――今のこの、二人だけの状況でキィと話がしたいんだけど、良いか?」
「にゃ……にゃん? ま、まさか――愛の告白とやらですか!? あの、体育館裏で、タイマンで行われるという!?」
「体育館裏のタイマンは決闘的なやつだろ!? てか、何でそんなこと知ってんだよ! ――告白でも無くてだな……」
「えぇえぇ。皆様の前では干渉判定されて、話したいことを話せませんものね! わかっております」
「わかってるなら、ちょくちょく変なの挟むなよ!」
「うふふ。重要な話なのでしょう? 少しでも和やかな雰囲気の方が話しやすいでしょうからね。ワタクシがこんな性格なのも、いろいろと計算してのことなのですよ? 決して、ただ明るいだけではありませんからね? ね?」
どこまで計算しているのかはわからないが、今までの人生の中で、誰よりも話しやすいのは確かだ。
こんな先生、あるいは幼なじみの美少女でもいれば、俺の人生……などという妄想は後でゆっくりするとして。
「キィに聞きたいことが三つある。確認、と言っても良いかもな」
「何でございましょう?」
「まず一つ目。俺たちは、キィを――神父たちを信じても良いのか?」
「にゃは! いきなりとんでもない確認ですこと! ――えぇ。『ワタクシたちを信じて下さい!』などとは申しません。ワタクシたちは、嘘は言いません。述べるのは全て事実です。
ですが、全てを述べることは出来ませんし、皆様が求めることを述べることも出来ない可能性が高いでしょう。ですから、信じるか信じないか、それはあなた方次第です」
「俺たちに委ねる、か。……でも、嘘は言わない。それはきっとそうなんだろうと、俺も信じてる。そして、その上で二つ目の確認だ。
――お前たちを創り出したのは、『この世界を創った神』なんだよな?」
「――えぇ。それは紛うことなき事実でございます」
「――わかった。まずは安心した」
「うふふ! きっと、タコさんはこのような心配をしたのでしょう。――『もしかしたら、あの可愛い猫たち……厄災が生み出したんじゃね?』と。
たしかに、世界の始まりには『生命を失った女神』と『力を封じられた厄災』が封印されています。それは童話にも書かれている事実です。
ワタクシたちが其処に選ばれし力を導く理由、そして、叶えたい願い。それが『厄災の解放』である可能性も、考えられることでしょうからね」
「――じゃあ最後、三つ目の確認だ。キィは今、俺を世界の始まりに導いてくれるか?」
「――答えは『否』です。何故なら、残念ながらタコさんはまだ、選ばれし力を有しておりません」
「そっか……うん、わかった! あぁ、いろいろ心配事とかあったんだけどな、取り敢えず、今のところは『わかった!』で良いや」
「にゃはは。――もしかすると『生命力を吸収する力』も、神さまの願いを叶える可能性があるのでは? そう、お考えでしたか?」
「あぁ、そのとおりだ。ここからは確認じゃなくて、ただの、俺の憶測だ。何も答えられないだろうから、ただ聞いてくれれば良い」
「うふふ。面白い話を希望するにゃん!」
「ぶっ! 面白いか面白くないか。それは、あなた次第です」
猫神父は何も言わずにずっと、微笑みを浮かべたまま聞いてくれた。
――俺の推測。
これは昨晩、火炎瓶をつくりながら一人考えていたことだった。
皆で対面して話していたときに感じた『何か引っかかるモノ』に気付いたのだ。
キィはあのとき、『女神さまを生き返らせるだけの生命力は、神さまにも生み出すことが出来ないのです』と言っていた。
つまり、それだけの生命力を生み出すことができれば――そんな生命力を有していれば、女神を復活させることも出来るのではないか?
だから、復活の手段としては、『蘇生の力』『時を戻す力』を選ばれし力として、そんな力を持つ人間を導くこと。
そしてもう一つ、『神の生命力を高めること』でも可能なのではないか。
俺がさらに気になったのは、『最終的な力の行き場』だった。
同時期にこの世界にやって来た七人の力、それは、最後には生き残りの一人が全てを持つことになる。これもキィが教えてくれたことだ。
でも、じゃあ、その先は? その一人が死んだら、その七つの力は何処に行く?
――そもそも、生き残った一人をどうして世界の始まりに導く必要があるのだろうか。
そこで、俺はとある推測を立てた。
まずは事実から。
神は、この世界にやって来る人間が、選ばれし力を持っていることを願った。
もしも持たなくても、そんな力を持つ変異種を討伐することで、その願いは叶う。
だけど、この二千年間それが叶わなかったように、もともとそれは可能性が低い願いだと、神にもわかっていたのではないだろうか。
ここから憶測だが――そこで、神はその他の手段を考えた。
それが、自身の生命力を、女神を復活できるまで高めることではないか。
生命力を高めるには、誰かの生命力を吸収するか、何らかの力を生命力に変換するか。考えられるのはそんなところだろうか。
例え、異世界の住人たち全ての生命力を吸収し続けたところで、必要となる莫大な生命力を得るのは到底不可能なのだろう。
でも――余所の世界からやって来る、神の力をも超えるような力を生命力に変換すれば、それは現実的になるのではないか。
だから、生き残りに七つの力を集めて、その人間を世界の始まりに導くことにした。
そこで何が待ち受けているのかはわからない。大神父も教えてくれないことだ。
でも、童話には、『神はその力の選択を見守る』と書いてある。
俺が考えたその選択肢、それは、
『直ちに、七つの力を神の生命力に変換する』
『七つの力を持ち続けて、変異種を討伐し続けて、神の生命力となる力をさらに得る』
の二択だ。
そもそも、この世界にやって来た人間には、神の願いを叶える以外の選択肢など用意されていないのではないか。
こんな話をしたら、女子たちはまた舌打ちをして、『何て理不尽な、最悪な世界なの?』と言うことだろう。
おそらく、生き残りが変異種にやられても、寿命で死んでも、その力は神の生命力に変わる。
ただし、力が大きな生命力に変わっても、この二千年間で所要量を得られていないということは、女神の復活に要するのはかなり莫大なものだと推察される。
それでは――百年前に現世に帰った墓男は何だったのか。
それについても、俺なりの考えがあった。
墓男は生き残っただけで、選ばれし力を有していなかった。
だから、世界の始まりで二つの選択肢を迫られることになった。
『何て理不尽な世界だ』と思ったことだろう。
『こんな世界は早く終わらせなくてはならない』とも思ったことだろう。
でも、おそらくだが墓男に宿る力では、変異種を討伐し続けるのが難しかったのかもしれない。
というか、そもそも初めから持っていた力以外が、どんな力だったのかを知る術が無かったのかもしれない。
そこで、墓男は考えた。
わかっているのは、五十年に一度、日本からこの世界に何らかの力を宿した七人がやって来ること。
これまで選ばれし力はやって来なかったし、これからもそれがどうなるかはわからない。
でも――その可能性を高めることは出来るのではないか?
その手段として考えられるのは、二つ。
一つは、やって来る人間の数、あるいは頻度を増やす――すなわち力の数を増やすこと。
もう一つは、やって来る力を選ぶこと。
そこで、墓男は願うことにした。
自身が持っていた『自分の願いを叶える力』を使って、その手段を確立するために。
その願いは、『人の願いを叶える力を持って、現世に帰りたい』というものだろうか。
現世に帰って、選ばれし力、あるいは変異種討伐に役立つような力を得たいと願う人を見つける。
その願いを叶えて、力が宿った人間を、この世界に寄越すのだ。
犠牲者を増やすのは心が痛む決断だったろうが、早く終わる可能性を高めることを選んだのだろう。
でも――そんな墓男の願いは叶わなかった。
墓男の力には限界があったのだ。その力は、神をも超える力であることは違いないのだが、『個数制限が無い』代わりに、『叶う願いに上限が有った』のだ。つまり、質より量の力だった。
そんな中、墓男の願いを叶えたのは、神だった。
神の力の範囲内で、『願い事を聞く力』を与えて、現世に帰したのだ。
とはいえ、神にも、人間を現世に帰す力は無かった。
神は、そんな力を持った人間を、現世に生み出したのだ。




