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46話 謝りたいこと

「にゃ! コリーは、確かにそうですね。行商人を装い、方々を巡っております。レイちゃまを見つけたのも、コリーの日頃の行いの賜と言って良いでしょう!」

「は? 行商人を――装っている? まさか、コリーが大神父だなんて言わないよね!?」


 レイは立ち上がると、遙か上に位置するコリーの威圧感漂う目を睨み付けた。


「がはは! こんな見た目だからな。いきなり『俺、大神父!』とか言っても、威圧感に不審感が追加されるだけだろ? 特にレイには逆効果だったろうからな。だから、済まん。黙ってた!」

「にしても――一か月も経つってのに、あんたこの世界のことほとんど教えてくれなかったじゃない!」


 レイの右ローキックがコリーの左ふくらはぎに炸裂した。

 コリーは蹴られたところを痒そうにポリポリと掻くと、『がはは!』と豪快に笑い出す。


「まぁ、そう言ってくれるな。実は、神さまからは五十年に一度の、『その日』の知らせがあるんだ。あの男のせいで、それも今回から二十五年に一度になっちまったけど。

 んで、おそらくあの辺りに一人くらい現れそうだなって山掛けてみたら――案の定、レイを拾えたんだ。まずは俺と出会えて、命あることを有り難く思うんだな!」

「確かに、あのときはコリーと一緒に行動する以外、助かる道は無かった。……でも、それはそれだから! 全く、もう……ありがと、ね……」


 『にゃーん! 可愛い!』と甲高い声を出す猫を、睨むだけで黙らせるレイ。

 『ツン』が最狂レベルのせいか、ごく希に出る『デレ』が最強レベルの可愛さに感じてしまう。



「と、ところでコリー様。あなたは、どちらの国の大神父様なのです? ここ、黄の国には猫様がいらっしゃいますし――」


 じいさんが震えた声で、俺たちが気になることを聞いてくれた。


「おぉ。俺は、赤の国の大神父だぜ? あの国じゃ、神父も強くないとやってけねぇからな!」

「おじいさん、こんなやつに様なんて付ける必要無いよ! ていうかその名前、赤とは何の関係も無い気が――って、ところであんた! じゃあ、何で緑の国に居たわけ? 今は黄の国に滞在してるし、自由すぎじゃない?」

「あぁ、俺は自由なんだ! ――そもそも大神父なんて、その国に居ても居なくても変わらんだろ。がはは!」


 『確かに……』と、全員が大きな欠伸をする猫を見て、大きく頷いていた。



「でも、緑の国に居たのにはちゃんと理由があるぞ。どんな力がどの国にやって来るか、そんなことは俺たちにもわからない。でもな、普通に考えりゃ、その力は討伐出来る変異種が居る国に現れると思わないか?

 ――赤の国の変異種ゴーストも厄介だったけどな、壺に封印されてたし、ほっといて良いだろ。んで、緑の国はあれだ、不死の力だ。これを相応しくないやつに討伐なんかされたら……な? なんか、面倒臭そうだろ?

 ――ってことで。緑の国に来るやつを一早く見極めようと思ってな。居たわけだ!」

「それで……私の力って、そのインプってやつの討伐に役立つわけ?」

「がはは! くその役にも立たん。お前じゃない方だったみたいだな! ――赤、青の国の討伐で何となくわかっただろ? 思ったとおり、それぞれの国に、そこの変異種を討伐出来る力がやって来てたんだ。

 赤、青、緑には二人ずつだったけどな、男が期待したのは片方の力だけだろ。もう片方は、今後の変異種討伐に大いに役立つってやつだろうな。もちろん、レイも後者だ。

 でも――実際、すっげぇ力だぜ? 予知を続けりゃ、変異種を討伐する方法だって見つけられんだろ!」


 やっぱりか――俺の悪い予感は当たったようだ。

 赤の国には反発少女。緑の国にはカリスマイケメン。青の国では、おそらくミュウの力が期待されたけど、結果はじいさんが追い払った。


 そして、黄の国には――そう、俺一人しか転生していない。


 つまり、そういうことだろう。でも――え? 俺の物語りスキル、何がどう変異樹討伐に役立つわけ?



「ねぇ、じゃあ、変異樹を討伐出来るのって――このタコロスってこと?」

「俺、コタロウだからね? 何、タコロスって? 何やら殺意が込められているようですが?」

「にゃはっ! レイちゃまの問いにはワタクシがお答えしましょう。――タコさんの力には『この世界に干渉出来ない』という制約が付属されています。覗きしか取り柄のない、こんな最弱なタコさん。変異種に辿り着く前に、石畳を歩くだけで生命に危機が及ぶのです!」

「いや、覗きって表現はちょっとリアルでアレじゃない? あと、石畳トラウマを何回も出さないでもらえる!?」

「――タコさんが変異種にやられることは、呼吸することと同じくらい容易いでしょう。ですが――果たして変異樹は、そんなタコさんの生命力を吸うことは出来るのでしょうか?」


 そうか……俺は、この世界には干渉出来ない。

 逆に、俺には干渉し放題だ。現に、女子たちは俺に殺意を込めた言葉と視線を無制限に浴びせてくる。


 それに、俺が死んだところで、この世界には何の影響も及ばない。

 だから、変異種にも、石畳にでさえも容易く殺されてしまうだろう。


 それじゃあ、変異種を討伐することは干渉判定されるのか?

 ――答えはノーだろう。変異種の力を奪えるという理があるのだから、それは可能なはずだ。

 もしも『力が欲しいなら、干渉しないように討伐してね!』などと言われたらそれは無理ゲー且つクソゲーでマジ勘弁だ。


 そして、変異樹が俺の生命力を吸収する行為。それ自体は干渉行為ではないとも思われる。

 でも――それは俺からすれば、『変異樹に俺の生命力を与える』ということでもある。


 生命力を与えることで、そいつは『延命』することになる。

 それは、この世界に干渉判定される可能性が極めて高い行為ではないか。


 ――何故、討伐は良くて、延命は駄目なの?

 それを問われたら説明するのは難しいが、猫神父ならこう言いそうだ。

 『だって此処、そんな世界なんだもーん! ――えぇ、仕方が無いことです』と。




「ここで――皆様に一つ、謝りたいことがあります」

「――え? 一つ?」


 レイとミュウが口を合わせて呟いた。

 これが、後に語り継がれることになる、初めての『最狂シンクロ』なのであった。

 ――って、本の第二巻に書いたら怒られるよな。


「にゃ!? まるで『もっと謝ることがあるでしょう?』とでも言いたそうですね! ――皆様。神父会議が開催されることはありません。全て、今日この場で皆様と対面するための口実だったのです」


 ――たしかに此処は、俺が居たオネショの村とじいさんたちが居たブルベの村の中間に近い位置だ。

 レイも都合良く――いや、これはコリーの導きというか算段どおりだったというわけか。


 って、うわ……レイちゃま、コリーを見るその目はヤバいぞ?

 黄の国に連れて来られた理由が、『その身を案じて』とかじゃなくて、ただただ『対面会場に近いから』だもんな。

 いや、気持ちはわかるけど――


「そして、ワタクシにはお願い事も一つ、あるのです。実は明日が変異樹の枝葉が落ちるその日なのです。――わかりますね、コタロウ様?」


 様付けで呼ぶということは、そういうことだろう。ていうか、具体的に言って欲しいのだが。


 ――つまり、明日には枝葉が全て落ちる。変異樹は勝手に自身を傷付けるということだ。

 再生するためには大量の生命力が必要。いつもは猫神父がその生命力をチューチュー吸わせるのだが、今回は――


「半径一キロ圏内には、タコさん一人を残します。時間がかかっても構いません。燃やすなり、切るなり、好きに討伐しちゃって下さい!」



 なんてこった――俺の力というか、この制約が役に立つとは。

 ていうか俺、異世界転生と物語りしか願ってないぞ? これって、墓男はかおとこが変異樹討伐のために俺に勝手に付けたオプションってこと?

 ――いや、他の人にも何らかの制約があるし、こんな制約が付されるのも必至事項だったのかもしれない。


 でも――もしかして、討伐出来れば『自己再生』の力が手に入るってことか?

 石畳と激しいキスをしても死なないようになるのか?


 あ――でも、再生するのに生命力が必要なんだよな……詳細はわからないけど、寿命を使うとかもありそうだ。

 ――ん? まさか、生命力を吸収するスキルも付属したりする?


 『最強の引きこもりニート、ここに爆誕』ってやつか――

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