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45話 変異樹

「さてさて。ワタクシのおかげで、この世界のことがわかってきたところですね! おや、タコさん? まるで『本書く必要無かったかもな』なんて顔をしていますね?

 ――うふふ。長い目で見て、考えて下さい。もしもあなた方が全滅しても、後にやって来た方々は、その本を読んでこの世界を知ることが出来るのですから!」


 いや、全滅って、言い方を考えて下さい。

 ていうか、神父たちが伝えてくれれば何の苦労も無いんだけど、それが出来ないってことなんだよな――


「ところで、リタイアした子って、あの高校生くらいの女の子でしょ? で、ここには私たち四人が居て……残りの二人は何処で何してるわけ?」

「えぇ。タコさん情報によると、赤の国で仲良く、鋭意変異種調査中だそうです! ちなみに、目つきの悪い少年は『何物をも一撃で終わらせるような絶対的な拳』を。レイさんの思い人は『誰もが言うことを聞くカリスマ性』を願い得たようです」

「ふーん。あの子が居ない今、唯一の攻撃手段を持つのがあの目つきの悪いやつってことか。でも、ヤンチャそうだし、何となく近付きたくないな。

 ――そして、私の思い人は……えっ、元々カリスマ実業家なのに、さらにカリスマ性が増したってこと? きゃーっ! ――って……何で私の思い人だってわかるわけ!?」


「タコさん曰く、『バスで乙女な目線でチラチラ見てたし、独り言にもよく出て来た。だから、俺の勝手な推測だ。絶対に本人には言ってくれるなよ?』だそうです。あ、言っちゃいました!」

「おいっ!! ふざけるな――って、うわ……」


 レイを見ると、『ゴゴゴ』という効果音が似合いそうな様相で俺を睨んでいた。


「――今後、私の物語を読むことを禁じます。わかった?」

「は、はぃ――」


 レイの目に、生まれて初めて身の毛もよだつ恐怖というものを覚えた。

 それは石畳で転んで絶命した記憶を上書きするほどのトラウマとして、俺の心臓に刻まれたのだった。




「と、ところで。もう一体の変異種とはどんな生き物なのです? どうやらここ、黄の国に生息しているようですが?」


 あ、さすがナイスだ、じいさん!

 うまく話をそらしてくれた。しかも俺も気になっていたやつだ。


「うふふ。レイちゃま、さっき『きゃーっ!』って言ってましたね! 可愛いにゃーん!」


 おいこら、何を蒸し返して……ほらぁ、レイちゃま、戦闘力五以下ならその眼力だけで討伐出来そうな目してるじゃん……


「――四体目の変異種を知る者は、実はごく僅かしかいないのです。何故なら、人に害が及ばないように、ワタクシが上手い具合に隠してきたのですから。

 その変異種とは――樹木なのです。変異樹へんいじゅと、ワタクシはそう呼んでいます」

「変異樹!? ただの木ってこと? そんなの、燃やしちゃえば良いんじゃないの?」

「うふふ。真っ先に物騒な手段が浮かぶ辺り、さすがは霊長類最狂女子のミュウちゃんですね!」


 この猫神父、わざと最狂女子を怒らせてないだろうな……ほらぁ、ミュウちゃん、まるで虫けらでも見るような目で俺のこと……って、おい、何で俺だよ!

 たしかに、教えたのは俺だけど、言ったのは猫神父だぞ!



「――この町の中心に、それはそれは大きな木が生えているのを見ましたか?」


 そう言えば、樹齢何百年ではきかなそうな、馬鹿でかい木が生えているのを見た。

 ――まさか、あの木が変異種だとでも言うのだろうか。


「変異樹は、『自身を再生する力』を持っています。例え切断しても、燃やしても、傷付いたところからすぐに再生してしまうのです。

 もしも他者をも再生することが出来るのなら――ワタクシたちも血眼になって、討伐する手立てを検討するのですが」

「でも、じゃあ……そんなの放っておけば良いんじゃないの? ただ生えてるだけなら、人に害を及ぼさないのなら、何の問題も無いでしょ?」

「レイさんの言うことはよくわかります。ですが――変異樹の再生には、養分を必要とするようなのです。それも、変異樹が求める養分とは、人の生命力なのです」

「まさか――近付いた人の生命力を吸収するとでも!?」

「えぇ。下手に傷付けると、その再生をする分の養分として、近くに居る生命体から生命力を奪うのです」

「そんな……で、では、人を全員遠ざけて、再生する力が無くなるまで傷付け続ければ良いのでは?」

「マサアキよ――変異樹が生命力を吸収する範囲は、半径一キロメートルにも及ぶのです」


 だから、何でじいさんだけ呼び捨てなの?

 何か段々面白くなってきたんだけど?



「――人が近付かないようにすることは容易いでしょう。でも、誰も一キロ以内に近付かずに傷付け続けることなど不可能なのです」

「それこそ、放っておけば? 何もしなければ何もしないんでしょ?」

「厄介なことに――樹木は定期的に、自分で自分を傷付けるのです。それは脱皮のようなものでしょうか。年に一度、その枝葉が全て地面に落ちるときがあるのです。

 その前兆が見られたとき、住人全てを一キロ圏内から避難させてきました。不老のワタクシが一人犠牲となり、その可愛い生命力をたんまりと与えてきたのです!」


「……猫ちゃん、百年もの間ずっと、そんなことを続けてきたんだね。ごめん、私、何の役にも立たないただのマスコット的存在だと思ってた――」

「にゃーん! 可愛いしか取り柄のない猫ちゃんで間違い無いですけど、せめてキィとお呼び下さい!

 ――えぇ。ワタクシの無限の生命力が吸われるだけで済むのです。住人の方々には、枝葉が落ちると気持ちの悪い害虫が大量発生するとだけ言ってあります。ですから、誰もそれが変異種だとは気付いていない様子」


「そもそも、問題があるのなら誰も近くに住まないですものね。こんな、国一番栄えている城下町のど真ん中に生えているのです。しかも――半径一キロの避難というのは、まさかお城に暮らす王族も避難させるのですか?」

「えぇ。さすがに王族の方々には事実をお伝えしております。うふふ、年に一度、丁度良い運動だと捉えているようですね。先人たちが築き上げたこの土地、やはり離れることは出来ないようです」


 高校三年生の避難訓練のように、ダラダラとお喋りしながら避難する王族の姿が目に浮かぶ。

 この世界にも『おはし』が根付いているのだろうか。たしか、『押さない、走らない、喋らない』だったか。


 ――あ、三狂女子には是非ともこの『おはし』をお願いしたい。

 『怒らない、発狂しない、塩対応しない』



「大神父様には申し訳ありませんが――このまま同じように対処くだされば、他には何の問題も無いですものね……」

「マサアキの言うとおりですが。問題があるとすれば――貴重な変異種の一枠がずっと埋まったまま、ということだけ」

「それは……別の国の、討伐可能な変異種を討伐し続ければ良いのでは?」

「百年も討伐出来ない変異種が居るのですよ? 力が及ばない可能性の方が高いのです。討伐出来る確率、そして求める力が現れる確率を上げるためには――国にたった一体だけ呼ばれた変異種を、何とかして討伐し続ける。それが、神さまの願いを叶える唯一の近道なのです!」


「近道って……結局、あなたたちは口だけってことでしょ? それとも、何か出来るの?

 例えば、その変異樹をどうやったら討伐できるわけ? あぁ――私たちの、誰かが、その力を持ってるんだっけ?」

「にゃは! 手厳しいですね、レイちゃま。――そうです。残念ながら、ワタクシたちは導く力以外、神さまからは何も授かっておりません。今を知る力すら持っていない。

 この目で見て、耳で聞いたことしか知り得ないのです。本当に、それは申し訳無いと思っております――」


 猫神父は申し訳無さそうに、顔を掻きながら頭を下げた。

『導く力以外に授かったもの。強いて挙げるなら、この可愛さですかね!』

 などと言うかと思ったが、その表情からは、いつもの神父度マックスな雰囲気は消えていた。



 ――二千年もの間、自身の力では何も出来ないことを一番思い知ってきたのは、大神父自身なのだ。

 女子たちも、そんなことはちゃんと理解している様子で、だが、またも抱いたやり場の無い思いを何かにぶつけたかっただけだろう。


 そんな雰囲気の中――突如、コリーが立ち上がった。

 二メートルを優に超えるその巨漢は、初めてその口を開いた。


「――何も出来ないのは確かだ。でもな、レイ。俺たちが何もしていないと思われるのは心外だぜ?」

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