44話 当然の疑問
「あの……大神父様の話だと、ワタシの力は人を生き返らせることが出来ないように聞こえますが? でも――」
「そうだよ。おじいさんの『人の願いを叶える力』で、病気で亡くなった人が生き返ったんだから」
それは紛れのない事実だ。俺も、じいさんの記念すべき一つ目の願い事で復活させてもらったのだから。
「にゃん! それは抱いて仕方の無い疑問ですね。――神さまにも、この世界の人を生き返らせるだけの力はあります。生き返らせるというよりも、そのからだに相応しいだけの生命力を、新たに生み出し与える。そう言うべきかもしれません。
でも――残念ながら、女神さまを生き返らせるだけの生命力は、神さまにも生み出すことが出来ないのです」
なるほど、戦闘力が一とか二の俺みたいな雑魚は簡単に生き返らせることが出来る。
でも、戦闘力が一億を超えるような女神を復活させることは出来ない。
――ここで俺の頭の中には、何か引っかかるモノがあった。
でもそれは、次の猫神父の言葉ですっかり消えてしまったから、大したモノでは無かったのだろう。
「――実は、タコさんもこの世界に大はしゃぎをして、記念すべき第一歩目で躓き絶命してしまったのデス!」
「あ、いや、それは間違い無いけど、言わなくて良くない? すっげぇ恥ずかしいんだけど? ――って、俺のこの場での第一声これ!?」
こんなどうでも良い言葉しか口に出来ないのも、何故か恥ずかしい気持ちを後押ししてしまう。
顔もタコのように赤くなっているに違いない。
「――マサアキは初日、復讐女……じゃなくて、ミュウさんの亡骸を見て、復活を願いました。あのとき、マサアキは自分以外の転生者の無事をも願っていたのでしょう。
その願いは、復活が確定していたミュウさんではなく、既に死に絶えたものの、自身の再起を願っていたタコさんに届くこととなりました。
――うふふ。この無表情の裏側で、タコさんはマサアキに、大きな恩義を感じていることでしょう!」
唯一首だけが動いたので、『本当にありがとう!』という感謝の気持ちを込めて、大きく頷いた。
俺の拙い感情をわかってくれたのか、じいさんは嬉しそうに目頭を赤くして微笑んだ。
ていうか、この猫神父――何でじいさんの名前だけ呼び捨てなの?
「――話を戻しましょう。あなた方を呼び寄せた男性が選んだ力のことです。この世界の四つの国には、変異種が一体ずつ、いずれも百年以上前から生息しております。ただし、そのうちの二体はこの一か月の間に既に討伐され、もう一体も討伐の手段が確立している状況です。
その三体とは、『実体を持たないゴースト』『呪いを与える人魚』そして『不死のインプ』です。どうでしょう、もう、お気付きでしょうか?
――そう、そんな変異種を討伐できる可能性を秘めた力こそが、あなた方が願い得た力――選ばれた力なのです!」
やはりそうだったか。
でも、そう言えば……もう一体の、黄の国の変異種のことは一度も聞いたことが無いな。
――これまでの三体に充てられたのは、反発少女、復讐女、カリスマイケメンの力だろう。
じいさんの力が人魚を世界の外に転移させたのは、選んだ側にとってもイレギュラーだったに違いない。
残る変異種は誰の力で討伐出来るのだろうか……ていうか、何となく嫌な予感がするのは俺だけだろうか。
「よくわからないけど、残る一体の変異種も、私たちのうちの誰かの力で討伐可能ってこと? ――でもさ、何で変異種を討伐する必要があるわけ?」
「おやおや、レイちゃま? ――あぁ、まだ知らされていないのでしょうね。仕方の無いことです。あなた方、そして変異種は皆、何かしらの力を持っています。あなた方が変異種を討伐すると、その力は討伐したその人に宿ることになるのです」
「何それ……それって、逆もあるわけ?」
そう言えば、それは聞いたことが無かった。
変異種を討伐してその力を奪えるのなら、その逆だってあり得る気がする。
「それよりも先に、お伝えしておくべきことがあります。それは、力を持った人が、別の、力を持った人を殺めた場合。
――変異種を討伐したときと同様に、その力は殺めた人に宿ることになるのです」
「……何て、嫌な世界なの? でも、そこまでして殺し合う、力を奪い合うメリットなんて無いんじゃ――あぁ、そっか。生き延びたら現世に帰れる……ほんと、何て嫌な世界なの……」
じいさんとミュウも、このことは予測していた。
それでも、その予測が事実だと知ると、レイと同じように俯き顔をしかめていた。
「では、レイちゃまの質問に答えましょう。――あなた方が変異種に命を奪われても、その変異種に力が宿ることはありません」
「――え?」
「――そっか、そこだけはまだマシってことか……」
「ですね。あの人魚のように意思を持ち、会話が成立する変異種もいることでしょう。もしも力を奪えることを知ったなら――」
変異種が俺たちを襲う理由がある、ということか。
ミュウが『まだマシ』というのも頷ける。
だがここで、新たな疑問が生じた。それはミュウも同じだったようで、
「じゃあ、変異種にやられた人の力は何処にいっちゃうわけ? それに、もしもわたしたちが寿命で亡くなったら、その力はどうなるの?」
ミュウは伏し目がちに、じいさんを見ながら言った。
天の国に最も近そうなのはじいさんだから、それは仕方が無いかもしれないが……確認するだけで別に、じいさんを見る必要は無いのでは?
「当然の疑問ですね! ――力を持つ者が、もしもその力が宿る先の無い死を迎えた場合。その力は、同時期にこの世界にやって来て現存する人数分に分かたれます。そして、その方々の身に宿るのです」
「えっと、それってつまり……え?」
なるほど――ただ生き延びるだけでも、力を得る可能性があるということか。
俺たちを例にとると、まず反発少女が一抜けした。
反発少女が持つ二つの力は、それぞれ現存する六人分に均等に分かれて、その六人の身に宿る。
宿るとはいっても、それは六等分されているから、その力を使うことは出来ない。
これが繰り返されることで、他人の力が『六分の一』から、最終的には『六分の六』、つまり『一』になり、その力そのものが宿ることになる。
――生き残った一人は、他の六人の力全てを使えることになる、ということだろうか。
「おじいさんの名残が宿ったとしても、それを力としてちゃんと使えるようになるのは、まだまだ先の話――ってことか」
こら、勝手にじいさんを殺すんじゃない。
じいさんもじいさんで、ミュウの酷い呟きに頷くんじゃない。
「ちなみに、現時点で誰が生き残っているかなんて、私たちには知る方法が無いの? 何かさ、『あ、宿った!』みたいな感覚があると良いよね」
「……これまでの一か月間……いえ、初日ですが。何かが宿る感覚を覚えましたか?」
「――え?」
猫神父は悲痛な表情で、反発少女の初日リタイアを、その場の全員に伝えた。
俺が伝えたそのままの内容だが、『何も知らぬが故のリタイア』に、誰もがこの世界の理不尽さを恨むような表情に変わっていた。
「この世界がどうしようもないのはわかった。言っても仕方が無いのもわかってる。でも……せめて、あんたが私たちに干渉出来れば……」
俺が他の人に干渉出来れば、この世界のことを伝えることが出来れば……もしかすると、反発少女もリタイアすることが無かったかもしれない。
それは、俺だってよくわかっていることだ。レイも、それが出来ないことはよくわかってくれている。
それでも、口に出さないと、そのやり場のない思いを抑えることが出来ないのだろう。
「――あぁ、ダメか……」
「どうしました、ミュウさん?」
「うん。わたしね、おじいさんの力で新たに『力を知る力』を得ることが出来たでしょ? だから、この男がこの世界に干渉出来るような、そんな新しい力を願えばって、そう、思ったんだけど……はぁ。こいつ、転んで死んで、生き返らせてもらってるんだよね」
「――そりゃ、俺だって……」
「ミュウさん。それも、言っても仕方の無いことですよ。他にも方法があるでしょう? ほら、変換すれば話すことも出来るのです。それに、大神父様を介すればそのままを伝えてもらうことだって出来ます」
ありがとう、じいさん。
あと、『めんどくさっ!』って顔してる女子二人――本当に済まん!
「――大神父たちは、その目と耳で自分たちの国の今を知って、力の所在、生き残りを把握してきた。携帯電話も使えないこの世界で、今を知ることは、すごく重要で貴重な力。
とにかく、そこの男……タコだっけ? 一つだけ、これだけは言わせてね。――そんな力を願い得てくれて、ありがとう」
「……俺の名前、コタロウだからね?」
まさか俺の人生で、人に御礼を言われる日が訪れるとは……最狂女子二人の目も、不審者を見るそれから、クラスの変なやつを見る目にランクアップした気がする。
じいさんに至っては、俺のこれまでの人生など知らないだろうに、涙を流してくれている。
でも――何というかこれ、俺が主人公みたいじゃないか?
俺、皆の物語を読むだけで良いんだけど?
それに俺――本書く必要、無かったかもな――




