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42話 ショーンの宿屋

 俺が要れば、大神父はただ一人でもその役目を果たせると言う。

 二千年という長い歳月を生きて、この世界には飽きているとも言う。

 でも――役目を果たす一人は自分が良いと言う。

 そして、最重要ヒントは、この世界の神父の性分は変わらないこと。

 

 つまり、大神父の考えは――


「まさか、大神父四人で何かを競ったりしてないよな? 例えば、誰が先に選ばれし者を見つけるか、とか。誰が先に導いた、とか」

「うふふ。そのようなことを考えるなど、当然のことではありませんか!

 ――四人の役目が同じということは、神さまの期待も綺麗に四等分されています。ですが、いかにその役目を果たしたか、最終的には神さまもその優劣を付けることでしょう? それに、それしか楽しみがにゃいんだもーん!」


 たまに見せる猫っぽさが可愛くて仕方が無いのだが――なるほど、『神父度マックス』とはこのことだったのか。

 いい加減さというか、ユルさというか。現世の神父っぽくない感じがこの世界の神父度ってことか……


「諦めろ。たぶん、四人とも同じこと考えるだろ? 俺を四等分しようとか、そんな無理なこと言って会議終了だろ」

「四等分……考えましたね!」

「いや、考えちゃダメなやつだからね?」




 ――話せば話すほど、猫神父の威厳が大から小に変わる中、ショウベン……じゃなくて、ショーンの宿屋に到着した。

 フロントと思わしきカウンターからは、金髪の中年男性が首から上だけを覗かせている。


「おおっ、大神父さま! 本日もお目見え麗しゅう」

「ごきげんよう。こちらに、ワタクシの次くらいに麗しい女性が宿泊しておりますね?」

「あぁ、レイちゃんのことですね? 既に三週間くらい滞在していましてね。

『この部屋気に入ったから、わたしに頂戴!』

 なんてお願いされちゃってて。困っちゃいますよね……って、何かご用で?」


「えぇ。とても大事な話があるので、彼女の部屋の鍵を貸して下さる?」

「大神父様のお願いなら仕方無いですけど……あの子、内側に別のじょうを付けてるんです。だから、この鍵だけでは開けることが出来ませんよ?」

「なんと――心の錠なら、幾つでも開ける自信があります。ですが、さすがに本物は……ワタクシ、コソ泥スキルは身に付けておりませんので。ここはタコさんの出番でしょうか?」

「いや、俺もコソ泥スキル持ってないからね? それにタコさんて、ウィンナーかよ――どうするも何も、ノックすれば良いだけだろ? 何で強襲しか考えないんだよ」

「……ノックをしても、急に部屋に入っても、ワタクシの可愛さに驚くのは同じことでしょう? ワタクシはちゃんと考えた上で、強襲を選びました。結局は気を失うことには変わらないのです。急に現れた方が早くて楽でしょう?」


 ふと、路線サイトの乗り換え候補に『早』『楽』という参考表示がされてたな、というどうでも良いことを思い出した。

 何というか、うん。修羅場を回避するためにも、ここはノックさせるしか無い。




 ――取り敢えず部屋の鍵は借りずに、部屋の前に案内だけしてもらった。


「ところでさ、ミィちゃんは予知子よちこちゃんと干渉出来るのか?」

「ミィではありません、キィです。何ですかその、三毛猫の代表格みたいな可愛い名称は?

 それでその、予知子ちゃんというのがこの部屋にいる、お目当ての方の名前でしょうか?」

「あぁ、そうか……予知子ちゃんてのは、俺が勝手に呼んでるだけだ。絶対にその名前で呼んでくれるなよ? ――彼女は、二十四時間先までの自分の行動の結果を予知することが出来る」

「にゃはっ! ――今回はなかなかどうして、生存に特化した有能な力が多いようですね。ふむ……ワタクシが干渉できるのは、神さまの願いを叶える可能性のある人。

 とは言え、例えそんな力を持つだけでは『厄災』を解き放ってしまう可能性もあるでしょう。そのために、力だけでなく人を見極めるために、ワタクシたち大神父が居るのです。

 予知子さんが相応しい人間かどうか。それはつまり、干渉出来るかどうかで計られる。もしも干渉出来なければ――大人しく帰るといたしましょう」


 普段は、その目と耳で見極めるのだろう。

 でも今はドアの向こうだし、干渉出来るかどうかで見極める、と。




 ――『コンコン』


 どうやらドアをノックする行為は可能なようで、だが三度目のノックをするも、うんともすんとも反応が無い。

 予知子ちゃんの視界からは、ドアに耳を付けて様子を窺っていることはわかっていた。


「ワタクシは、この国の大神父です。少しお話をさせていただきたいのですが、ドアを開けて下さいませんか?」

「――宗教の勧誘ですか? 結構です。お引き取り下さい」

「――え? 何、この子?」


 驚いた顔で、猫神父は俺を見てきた。

 当然の反応だろうが、予知子ちゃんの反応も当然のものだろう。

 

 でも、まずは話し掛けることも出来たのだ。

 この時点で、予知子ちゃんは干渉に相応しい人間だと認定されたのではないだろうか――



「って、おい、予知子ちゃんが予知を始めたぞ? ――あぁ、やっぱり、ミィが干渉出来るようになったみたいだな。神の家で、みんなの前で二人で……何で口論してんだよ!」

「おや? ワタシの方が可愛いと、言い争っているのでしょう。仕方の無いことです。それと、ミィではなく、キィです」


『……誰なの、この綺麗な猫。何で言い争って……それに、あの二人の黒髪って、バスに乗ってた……』


 予知子ちゃんが独り言を始めた。

 このドアを開ければ、黒髪の二人とも会うことができるのだ。

 やはり干渉不可能な俺の姿が映らなかったのは仕方が無いとして。

 これは、ドアが開くのも時間の問題だろう。あとは猫神父が余計なことを言わなければ――


「ワタクシは黄の国の大神父、キィと申します。予知子さん、あなたにお伝えしたいことがあります。この世界のことです。

 それに、会って頂きたい方が三人もいるのです。さぁ、このドアを開けて下さいますね?」

『……ん? よちこ?』


 あ、こら、その呼び方は駄目だって言っただろ! 機嫌損ねたら出てこないぞ?


『まさか、わたしの力を知っているの?』

「えぇ。何故なら、ワタクシは大神父なのですから。あなたは二十四時間先までの、自分の行動の結果を予知出来るのでしょう? 何と素晴らしい力をお持ちなのでしょう」


 人に教えてもらった情報、ということは微塵も感じさせないその物言い。

 ドア越しに会話をするだけでは、この猫神父の性分も計り知ることが出来ないだろう。

 ――予知子ちゃんは二つの鍵を開けるとドアを開け、その顔を覗かせた。




「ごきげんよう、ワタクシの次に麗しいお嬢さん」


 猫神父は、初見には眩しいと錯覚させる美しい微笑みを浮かべて、その顔を出迎えた。

 予知子ちゃんは猫神父を見ると、その大きな目を大きく見開き、小さく息を飲んだ。


「うふふ。見惚れるのも仕方の無いことです。――あら、黒髪を染めてしまったのですね? でも、とても綺麗な赤紫色ですこと。あなたによくお似合いですよ!」


 状況はわからないが、何やら誉められたことは認識したようだ。

 少し表情が和らぐと、すぐにチラ見した横目と目が合った。

 その目は細く、何やら品定めをするような、怖い目へと変わる。


 俺も、せめて微笑みくらいは浮かべたかったのに、表情筋がピクリとも動いてくれなかった。

 まるで睨み返しているように見えてしまっているだろう。


 ――あぁ、やっぱり、リアルのこの子もこわっ!

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