41話 黄の国のキィ
「まず手始めに。あなたは今、こう思っている。――『何この猫神父ちゃん、超可愛いんだけど!』と」
「―――」
「―――え? 違います?」
「えぇ、違います」
一つわかったことがある。
この世界の神父は、大とか可愛いとかイケメンとかヨボヨボとか関係無く、その性分はほとんど変わらないのだろう。
「にゃーん! ――えぇ、仕方が無いのです。ワタクシ、人の心を読む力などは持っておりませんので!」
「可愛いだけってことか……あと――でも、あんたたちの役目は『見極める』『導く』って言ってたよな?」
「うふふ」
猫神父は妖艶に微笑んだ。
さっきまでの威厳はどこかに吹っ飛んでしまったが、気品だけはまだしっかりと漂っている、気がする。
もしかするとこの猫神父――というか、大神父は皆そうなのだろうが。
その役目とはつまり、俺たち『黒髪の力を見極めて』選ばれし力を『世界の始まりに導く』ということではないか。
それは、神が求める蘇生の力か、あるいは七人のうち生き残った力なのか。
さらには『導く』という役目には、直接的に導く以外にも、『神の願いを叶えるために必要となる情報を伝える』ことも含まれるかもしれない。
見極め方としては、第一段階として神父に神の子認定されること、童話を読むこと。
さらには、神父会議への参加もその一つなのかもしれない。
これらに、大神父の何らかの見極めが加わるのではないだろうか。
――そして、おそらくだが。
この大神父は俺のように、転生者との直接的な干渉が出来ないのではないかと考えていた。
選ばれし力を持つもの、あるいは相応しい者だとわかって初めて、そこでその人と干渉が出来るようになるのではないか。
神父の性分は置いといて、役目とはそんなところだろう。
おかげさまでバッチリ目を合わせることも容易くなり、聞きたいことをこちらから聞いてみることにする。
「あのさ、超可愛いと思ったのはそのとおりだ。でも、疑問に思ってたのはそんなことじゃなくて――」
「えぇえぇ、わかりますとも。美少女に見えてしまうのは仕方の無いことです。――でもその実、中身はババァだと、化け猫だと、そう思っているのでしょう?」
「化け猫とは思ってないけど……大神父たちは、大昔からその役目を担ってきたんだろう? ずっとそのからだで生きているのか、あるいは魂的な何かが新しい肉体を渡り歩いているのか。それとも、知識だけを受け継いできているのか」
「うふふ。気になりますよね? 仕方の無いことです。――ワタクシたちが神さまに与えられたのは、役目と不老の力、それだけなのです」
「そうか――じゃあ、この世界がつくられてから、ずっと生きてるってことか……改めてそう考えると、たしかに化け猫だな……」
「にゃはーん! ――この世界がつくられたのは、はるか昔のことでございます。ですが、ワタクシたちがつくられたのは、そのずっと後のこと。
神さまが願いを持たれたときに、その願いを叶えるための可能性の一つとして、ワタクシたちをおつくりになったのです」
「――見極めて、導く……役目を終えるとき、それは即ちこの世界が終わるとき。つまり、まだこの世界が続いているということは……」
「そうです。未だに、選ばれし者が現れていないということ。――うふふ。ワタクシはあなたに、この世界の、これまでのこと全て教えましょう。だから、あなたはこの世界の、今のことをワタクシに教えて下さい」
俺は大神父のお眼鏡に適ったのだろうか。
それとも、この世界に干渉出来ない同士での干渉は許されるからなのか。
いずれにせよ、俺はこの美少女と二人でこの世界攻略を目指す!
――などという、俺が主人公みたいな物語もありかもしれない。とは言え、今の状況を教えるだけの役目である俺が、物語の主人公になどなり得るわけが無いのだが。
「ところで、お目当ての方は今、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「あぁ、俺も、神の家からの道筋はわからないんだけど。『ショーンの宿屋』ってところの二階だ」
予知子ちゃんの視界から、今もその宿屋で鋭意休息中であることはわかっていた。
――ていうか、ショーンって……黄色から連想するショーンって、アレだよね?
オネショもそうだけど、他に思い付かないのだろうか。そのうちションベとかショベンとかも出て来そうだ。
「にゃーん、本当に便利な力ですね! ……これは、もしもの話ですよ? 結局、神さまの願いが叶わないまま、あなたが寿命を全うするときが来てしまったなら――そのときは、ワタクシにその力を……」
「寿命で死ぬ直前に、あんたが俺にとどめを刺して力を得るってか!? ――まぁ、その方が良いだろうけど。すごいこと考えるよな、大神父のくせに。ていうか、大神父たちで取り合いになりそうで怖いな」
「にゃはは! ――それでは、宿屋に到着しましたら。うふふ、ワタクシの権力で部屋に突撃しましょうぞ!」
「……いや、ノックして普通に入ろうね?」
あの三狂の中でも、最も気が強いであろう予知子。そんな彼女の部屋を強襲などしたら……考えるだけでも恐ろしい。
彼女の視界への出禁で済めばマシかもしれない。
でも、今朝の予知子ちゃんの予知には大神父が現れていないし、大惨事にはならないのだろうけど――いや、待てよ?
突撃しようがノックしようが、大神父と俺の訪問って、予知子ちゃんにとっては分岐点となり得るイベントじゃないか?
でも、今朝見た結果は、『夜にコリーが帰ってきて、そのお土産に顔をしかめる自身の姿』だった。
何故、大神父と俺の姿が見えなかったのか。
しかも、彼女は神の家にすら行っていないのだ。
――あぁ、そうか……俺たちは、彼女の物語に干渉出来ないからだろう。
俺と、今の大神父の姿は、彼女の予知映像に出演することは無いし、接触したとしても、その結果を見ることが出来ないのだろう。
――音も無く宿屋へと歩く猫神父は、またも急に立ち止まった。
「あぁ――ワタクシとしたことが、お伝えすべき事を忘れておりました。ワタクシ、実はあなたと同様に、この世界に干渉することが出来ません」
「あ、やっぱり? それって、直接的に干渉が出来ないんだろ? 見たり聞いたりして得た情報で見極めて、そいつが導く対象だとわかったら、干渉出来るようになる」
「にゃは! まさにその通りです。なかなか考察力に優れているようで。ちなみに、あなたに関しては見極めなど関係無く、何の制約も無く、干渉が出来るようです。
おそらくあなたに何を伝えても、あなたはそれを他の人に伝えることが出来ない。つまり、この世界に干渉したことにならないのでしょう。でも一方で、あなたから得る情報は非常に有用なもの。それこそ、大神父が四人も要らないくらいに。うふふ。一人だけ残して、しばしの眠りに就いても良いと思いません?」
大神父たちは、今の世界のことは見聞きした情報でしか知ることができない。
それほど大きくない世界とはいえ、四つの国全ての情報を得ることは難しいだろう。
だから、役目は同じまま、神はその負担を分担した。
ていうか――
「しばしの眠りって……そっか、不老だから、不死では無いんだよな。ずっと長い間、この世界で役目を果たすべく生きてきたんだ。そりゃ、疲れるよな――」
「そうなのです。役目は大事ですが、二千年も生きていればさすがに飽き……休みたくもなるものです。と、いうことで――タコロウさん」
「いや、俺、コタロウですけど?」
「失礼、コタロウちゃん」
「ちゃん?」
「ちなみにワタクシのことは『キィ』と呼んで下さい。黄の国のキィ。思うところはあるでしょうが、わかりやすくて良いでしょう? 何より、他の大神父より格段に可愛いので、それはもうお気に入りなのです。だから……気の毒な目で見るのはやめるにゃん!」
気の毒というか、安易なネーミングだな、という目で見たのだが。
「――オホン。コタロウ様にお願いがあります」
「今度は様付け? ――まさか、あんたが眠りに就けるように、他の大神父を上手く説得しろとか言わないよな?」
「にゃにを仰るのです? ワタクシは眠りになど就きたくありません! あなたにお願いしたいのは、
『可愛いキィちゃんと二人で、この世界を攻略してやんぜ! だから、他のご老体はご心配なさらず、安心してお眠り下さい!』
って、宣言しちゃえよユー! です」
「――はい?」




