39話 視界への出禁
じいさんと復讐女の画面を大きくすると、音量も上げて注目した。
『――会議って、かしこまったやつ? スーツとか、正装する必要ある? ――って、持ってないけど』
『ミュウさんは何を着ても美しいですじゃ。それはもう、何も着なくとも……』
『じゃあ、神父さんを皮ごと剥いで――その毛皮で豪華な服でもつくってもらおうかな!』
『ふぉっ!?』
『いつもの白い、簡素な服装で良いのでは? 美白肌のミュウさんによく似合っていますよ』
俺はまだこの世界の神父を二人しか知らないが、その性分はほとんど同じなのかもしれない。
それにしても――この子、神父への当たりがキツ過ぎない?
そして、じいさんのフォローはさすがだ。
――でも、そうか。フード付きの毛皮のコートでも身に着ければ、黒髪も隠せるだろう。
ここは羊の神父の尊い犠牲で――だがここで、予想外の展開を目にすることになる。
『まずは、城下町のイソラで大神父と合流します』
イソラ……青い空……青イソラ……?
『その後、黄の国の城下町経由で黄の国の神父二人とも合流して、緑の国を目指しますじゃ』
『緑の国は青の国と対角にあるから、赤か黄の国を経由するのは、それはそうだよね。でも、何で黄の国なの?』
『それは――』
黄の国の治安が良いから、だろうか。
――いや、この世界の神父のことだから……可愛い大神父と道中を共にしたいんだもん!
とか言い出しそうだ。
『黄の国の大神父は、それはもう可愛いネコちゃんなのですじゃ! 時には目の保養も必要。普段、じじいと狂……いや、ミュウさんは十分保養の対象なのですが、如何せん狂……いや、ほら、ね?』
やっぱり。というか、じいさんの視界に映る復讐女の狂暴な目つきが怖いんだけど?
あっちの神父はよくも平気でそんなことを言えるものだ。
『――それで、大神父って? そっか……さすがに、こんなクソみたいな神父ばっかりだと、神さまが疑われるもんね。ちゃんと飼い慣らしてくれる立派な神父が必要ってことだね!』
なるほど、飼い慣らすという表現で合っているということか。
それにしても、この子もオーク超えの女?
転生女子って本当に、漏れずに怖いんだけど。
今は亡き反発女子も気が強そうだったし、この世界の三強ならぬ三狂か……
『――おや? まるでちゃんとしていない神父がいるような言い振りですな。わたしを含め、誰もがちゃんとしていますとも!』
『……』
『……』
『――えぇと。少なくとも、この国もそうですし、大神父は神父度マックスの神父ですじゃ』
『何ですかその、神父度マックスと言うのは?』
『各国に一人、どこの国も城下町ですが。国中の神父をまとめあげる神父が一人おりまして、その方が大神父なのです。この国の大神父はイケメンのワンちゃん神父ですじゃ!』
『え、イケメン!? ――あーあ、どうせわたしにはあいつにしか見えないんだろうけどね。写真とか無いの?』
『はて、シャシンとは?』
黄の国の大神父は美少女猫で、青の国はイケメン犬か……じゃあ、赤の国と緑の国の大神父が気になるな。
……美少女とイケメンがもう一人ずつか。それとも、他の要素が追加されるのか。
考えられるのは、屈強、母性、知性、ロリ、ショタ、メカ、幻獣種……うん、会議が楽しみになってきた。
『――と、言うことで。黄の国経由ですし、余裕を持って十日前には出発しましょうかね』
『やけに急だし、余裕取り過ぎな気が……って、まさか徒歩で行くなんてしないよね?』
『ふぉっ! まさか、徒歩で行かないなんて思ってないですよね?』
俺たちと同じやりとりの末に、二人ともウッホ旅を諦めたようだった。
――まさか、俺を含む四人もの転生者が一つの町に集うことになるとは。
俺と青の国の二人は、対面出来るかは置いといて、取り敢えずは何もしなくても合流することになる。
出来れば、予知子ちゃんを含む四人が面と向かう場をつくりたいものだ。
最悪、俺がどう干渉出来るかに寄らず、予知子ちゃんとあの二人の対面は実現させておきたい。
二人は童話の存在を知っているから、その情報を予知子ちゃんに共有してもらうのが最優先事項だ。
さらに、復讐女の力で、予知子ちゃんが自身の力をより詳細に知ることも優先される。
一方で、予知子ちゃんは黒髪が危険だということを知っている。
それがわかっていて髪を染めているから、復讐女も自分の黒髪を懸念材料として認識することだろう。
予知子ちゃんは、自身の行動の結果しか見ることが出来ない。
それでも、彼女と一緒にいるだけで、この世界での生存率が格段に上がるはず。
それに、彼女が尻に敷いているオークはこの世界最強の種族だし、しかも行商人だ。
この世界を巡りたいという二人にとって、予知子ちゃんと行動を共にすることは、これ以上無い最適解と言えるだろう。
それを選択するかどうかは本人たち次第だが。
――俺は取り敢えず、この本を手渡せればそれだけでも良い。
干渉の程度は、まずは二人と対面出来るかどうかで計り知ることが出来る。
次に、予知子ちゃんとはどうやって対面するか。
神父に頼んで、今は赤紫の髪色に変わった予知子ちゃんを連れてきてもらうか――かなりの美人だと伝えれば、ホイホイと頼みを聞いてくれそうだ。
実際に美人だから、あとで小言を言われることも無いだろうし。
例え俺が何の行動も起こせなくても、対面が叶いさえすれば、復讐女に俺の力が伝わっているはず。
何も言わず真剣な表情でその場を立ち去れば、少なくともじいさんくらいは心配して後を付いてきてくれるだろう。
もしも二人との対面すら叶わないときは――うん、諦めよう。
――オネショの村を出発して三日目の夕方。
ようやく黄の国の城下町、レモーヌに到着した。
たった二回とは言え、箱入りニートな俺にとっての野宿は、全くと言っていいほど気が休まるものでは無かった。
今日はレモーヌの神の家に泊まって、明日の朝すぐに発つらしい。
久しぶりに屋内で休めることがわかり、素直に嬉しかった。
石畳で転んで絶命しないよう、慎重に、重くなった足を運ぶ。
じいさんたちの目線から、二人が少し前に、既に神の家に到着していることは知っていた。
それに、可愛いという猫神父の姿も、実は既に拝見済みだった。
普段ならネタバレを嫌がる俺だが、いくら目線画面の解像度が高くても、やはり肉眼に勝るものは無い。
雰囲気とか、感じる何かがあるだろうし、今から楽しみでならない。
それに、何よりも――この世界に来てから、実は獣人以外と会っていないのだ。
この町にもチラホラと人間がいるようだが、一刻も早く転生者と話をしたいと、切に願っていた。
でも……まさかそんなことを考えるとは、思いも寄らなかった。
これまでの人生、自分の部屋に籠もって、何もしないで、部屋の外との関わりを絶っていた俺が、まさか人間と話したいだなんて――
「そろそろ神の家に着きますぞ。おや、タロさん? 何やら緊張しているようですな。――一つ、忠告しておきましょう。あまりに可愛いからと言って、大神父に色目を使ってはなりませぬぞ?
――怒らせると怖いのです。わたしなど何度、彼女の視界への出入りを禁止されたことかわかりません。何なら今も鋭意出禁中なのですが」
「えっと――それ、俺への忠告じゃないよね? 自分自身への戒めだよね?」
視界への出禁とは、目を合わせてくれないということか。
文字通り視界に入ってくれるなということか。
そんなどうでも良いことよりも、俺は取り敢えず、二人と対面出来るか。
ただそれだけが気掛かりだった。




