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03話 各転生者、一斉に、異世界生活スタート!

 四人の視界が、俺を乗せた荷車を押してくれていた。

 似たような街並みがしばらく続くと、他の建物と同じレンガ造りの、だが他よりも大きな建物が現れた。

 扉の前で荷車が止まったから、神の家とやらに到着したのだろう。


 四人がかりで、俺はその建物の中へと運ばれた。

 誰もが頻繁に訪れる場所なのか、あらためて中を見回すような視界は無かった。

 だが、俺を四方から持って運んでくれている四つの視界が、都合良く周囲を見回す働きをしてくれていた。


 そこは学校の教室くらいの広さで、真ん中には二メートルくらいの通路があった。

 左右には三人掛けくらいの木製の長椅子と、奥行きのひどく短い同じく木製の長机が、それぞれ六セットずつ置かれている。


 異世界人の憩いの場なのか、はたまた神への信仰心が強いのか。椅子には五名もの異世界人が腰掛け、それぞれ目の前に手を組み瞑想していた。


 通路の奥には、教壇のような一段高くなったスペースが設けられているようだ。

 その壇上には、教卓のようなものが一つ置かれている。

 視界が通路の奥に到着すると、俺はその壇上の床の上に仰向けに置かれた。


 神の家は、一見すると現実世界の教会のようだが、確実にそれとは違う箇所があった。

 正面の壁には、この町……いや、国のシンボルだろうか。何かが描かれた大きな旗が一つ、掲げられていた。

 そして、その旗の横には大きな肖像画が一枚かけられている。


 ここが神の家で、これらに向かって祈りを捧げている人がいる。

 つまり、肖像画の人物こそが神なのだろう。だが、その人物はどう見ても人間だった。とすると、この地を治める王様のような人物が、神として崇められているのかもしれない。


 誰かが呼んでくれたのか、正面向かって右奥の扉が開くと、一人の老人が現れた。

 まさに『ザ・神父』と言える、白を基調とした衣を纏った、山羊をモデルとしたような獣人だった。

 真っ白で、眉毛の部分とあごひげの部分の体毛がひどく長い。



「どうされましたかな?」


 温厚で優しい声の神父は、その場の誰かに尋ねた。


「この者は、道で倒れて頭を打ち、絶命したようなのです。四人で協力して運んできました」


 誰かがそう答える。


「ご苦労様でした。あとは、わたしにお任せ下さい」

「お願いします。この者に、神のお導きがありますように……」

「あなた方にも、神のお導きがありますように……」


 それだけのやりとりが終わると、どの視線も神父と俺を一瞥して、出口へと向かった。


 ――って、おい! 俺はこれからどうなるんだ?


 どう頑張っても、神父の視覚を表示することは叶わなかった。

 やはり、自分の肉眼で見なければ、異世界人の視界を借りることはできないらしい。


 どうやってもこの先の自分を見届けることができないと知り、とりあえず目を閉じて、一息ついた。

 変な期待などせずに、この快適環境で物語を読むのが俺の人生の最適解なのだ。

 でも……もしも転生者六人が死んでしまったら、物語が更新されなくなる。

 異世界人は残るが、何やら平和そうな人生なんかを見ても退屈そうだ……



 ――神のお導き、か……


 一瞬だけ、あらぬ期待をしそうになり思考を切り替える。

 まだ始まったばかり、先のことなど考えても仕方が無いのだ。

 いや、俺は終わったばかりだけど。



 目を開けると、その意識を転生者のものと思われる六つの画面に向けてみる。

 だが、その画面は依然として真っ暗なままだった。

 小さくため息を吐くと、自分を運んでくれた異世界人の視界を見続けることにする。

 まずはこのスキルを使いこなす必要があるし、同時に異世界の生活スタイルを知ることもできるだろう。


 神の家を後にした四人は、扉を出たところで世間話を始めたようだ。


「しかし、変な格好をしていたな」

「他の王国から来たんだろ?」

「いくら神のお導きがあっても、さすがに死んでしまったら生き返らないかな……」

「そうね。せめて、祈りましょう」


 神のお導きとやらに幾ばくの期待を抱きかけたが、どうやら生き返るのは無理ゲーだったらしい。


 ――しかし、異世界モノのお約束だけど、日本語を喋ってくれるのはありがたいよな。でも、みんなが好きなように喋り出すと聞き取れないかもしれない。


 四人はその後、二つのグループに分かれると、それぞれ会話を始めていた。

 さらには、これまで注目していなかった五人目の異世界人も、見知らぬ獣人と会話をしている。

 思ったとおり、それらの視覚、会話を全て見聞きすることは不可能だった。


 ――どうせなら一度に複数の物語を読める能力もくれりゃ良いのに。せめて一度に複数人の言葉を聞き分けるとか……あぁ、やっぱり、あの偉人は異世界人だったのかもな。


 『教科書に出てくるあらゆる偉人が、実はみんな異世界人だった』

 異世界ものが流行し始めた頃に、そんな都市伝説みたいなことを面白おかしく書いた小説があった。

 たしか、レスリングだかの霊長類最強女子だけは現実世界の人間だった、って終わり方だったか。



 ――どう頑張っても、二つの会話すら聞き分けられないな。それなら、せめてこうして……


 イメージすると、異世界人の会話が画面に文字として表示された。

 助かるのは、視覚の持ち主の言葉だけでなく、相手の言葉も文字表示できることだった。


 ――視覚と聴覚で、いくらかは複数画面を見聞きできるようになったか。でも……はぁ。視界は、やっぱ主観だけか。それに、その人が思ってることとか、感情なんてものは聞こえないし表示もできないみたいだな。

 読むことができるのは、その人の視覚、聴覚のみ。……まぁ、仕方無いのか? このスキル、物語には干渉できないんだからな。感情移入などという行為も不要だと言うのだろう。



 その後は、異世界人のとりとめのない会話を聞きながら、音量、文字の大きさ、画面の大きさやら位置やらを調整した。

 どうやら自分にとっては、画面を縦に並べるよりも横に並べた方が見やすいらしい。

 文字は黒枠で白抜きの丸めのゴシック体。

 物音が聞こえたり、視界が大きく変わるようなことがあれば、画面が震えるようにもしてみた。


 すると早速、震える画面が……


 ――キタァ! って、同時に六画面かよ!


 ずっと真っ暗だった画面に色が付いたのだ。どれも真っ青な空を映し出している。


 ――とりあえず、異世界人の皆さんとは一旦お別れか。運んでくれて、本当にありがとな。


 異世界人にお礼を言うと、転生者以外の五つの画面を非表示に設定した。


 ――俺は直立スタートだったけど……みんなは、どうやら仰向けスタートっぽいな。しかし、一斉スタートってどういうことだ? 確かじいさんがいたよな? 年寄りって早起きじゃなかったのかよ。



 とりあえず、横一列に並んだ六画面全てに注目する。

 まだ夢を見ていると勘違いしているのか、再び目を閉じる視覚もいれば、からだを起こして自分の置かれた状況を確認する視覚もあった。


 ――あぁ、楽しみだな。こいつらはどんな物語を紡いでくれるんだ? とりあえず、同時に見聞きするのは不可能だから……最初に第一声を発した人のから見るか。

 あとは追っかけで録画を見りゃ良いだろ。なんたって、時間はいくらでもあるんだからな。



 すると、左から二番目、02と表示した画面から、


「ここは……どこなの?」


 という、異世界における第一声のテンプレートのような声が聞こえてきた。

 予定どおり、他の画面のサイズと音量を小さくして、その画面に注目する。



 ――おっと……開始宣言しないとか? おほん。各転生者、一斉に、異世界生活スタート!

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