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35話 わたしの願い

「もしもだけど……七人が何かを争い合うことなんて、考えられないかな?」

「それは……恐ろしい考えですね。もしかすると、童話に書かれていた『選ばれし力』のことですか?」

「――うん。これはきっと、復活の力を指しているとは思うの。でもね、『選択を見守る』っていうのが気になるんだよね……」

「たしかに……神が見守る選択とは、『始まり』『終わり』『破滅』のいずれかだと書かれていましたね。女神を復活させれば、世界が終わる。大いなる厄災の封印を解けば、世界が破滅するのでしょう。

 でも、始まりとは……例えば、現世に戻ってもう一度人生を始めることが出来る、とか?」


「わたしもそれを考えた。始まりの地には、現世に帰る方法がある、かもしれない。もしもだけど、選ばれし力っていうのが、七人の生き残りを指していて――その人だけが始まりの地に導かれて――その人だけが現世に帰るチャンスを得ることが出来るとしたら?」

「……帰りたい人がいたら、絶対に生き残りたいと思うでしょうね。それこそ、他の人を殺してでも……」

「さすがに考え過ぎかもしれない。でもね、童話をそっくりそのまま皆に伝えて、わたしたちのこの考えが正解だなんて思い込んでしまったら? あの頭の悪そうな……じゃなくて、ヤンチャそうな少年ならあり得るよね――」

「考えたくはありませんが、その可能性は考慮しておきましょう。伝え方も考えるべき、ということですね」


「――あと、もしかしたらだけど。不老不死の力を持つ人がいてもおかしくないと思わない?」

「生き返ることが出来るミュウさんがいますからね。では、この世界を巡れば、もしかすると――ここで長く生きた人が見つかるかもしれませんね」

「うん。まずは、童話で知ったことを伝えるというよりも、他の人と会うことを優先するのも良いかもね」

「情報の共有は重要ですからね。えぇ、それは良い考えです」


「でも、おじいさん、覚えてる? 一緒のバスに乗ってた他の人のこと」

「見ての通り記憶力には自信が無いのですが――あぁ、でも、テレビで見たことのある人が二人もいましたね」

「あぁ、イケメン実業家と可愛い過ぎる棋士さんだよね。たしかに、あの二人なら見ればわかるか。あとはヤンチャなガキと、目つきの悪い女の子、あと白豚風の不審な男……って、わたしは結構覚えてるかも」

「覚え方に悪意がありますが。でも、そんな覚え方も不要かもしれませんよ?」

「うん?」


「ほら、この世界では黒髪が珍しいのですよね? それって、力を持ってやって来る人間以外には黒髪が居ないということかもしれませんよ?」

「おじいさん、冴えてる! そっか、そうだね――おじいさんみたいに薄い……じゃなくて白髪混じりもいるけど、もしかすると瞳の色が黒いのも、わたしたちだけかも!」



 ミュウが言ったような恐ろしいことは考えたくないが、もしもあり得たとしたら……黒髪を隠すという選択もいずれ必要となるかもしれない。


「ところで――今日は、もうお願い事が叶わないんだよね?」

「えぇ。おそらく一日一回のお願いは、検証で使いましたから」

「わたし、お願い事を考えてみたの。おじいさんの意見も聞かせてくれる?」

「まさか――現世に帰りたい、ですか?」

「ううん。わたしはそんなこと、これっぽっちも望まない。もしも『おじいさんと二人で帰る』って願いが叶うなら、それはそれで良いけど。

 ――実はわたし、別に、現世には復讐以外の未練なんて無いの。むしろここに居たいくらい」


「――まさか、ワタシが帰れることを願ってくれるなんて言わないですよね?」

「ふふっ。どう? 奥さんと、子供と、お孫さんと会いたいでしょう? 普通の余生を過ごしたいでしょう?」

「――ふっふ。ワタシは、人の幸せを望むのですよ? そんな、自分のことなんて……そんな……会いたいに、決まっている……」


 人の幸せを願い、叶えることができる。

 それは、たしかに素晴らしい力だし、ワタシ自身で願い得た力だ。


 でも、やっぱり――帰れるのなら、帰りたい。

 例え平和だとしても、こんな訳のわからないところで生活を送るよりも、現世の、自宅の庭で何かをひっそりと育てていた方が幸せに決まっている――



「わたしは、おじいさんの幸せを願うよ。だから、ね?」


 ミュウは、ワタシの手を握り、微笑んだ。

 気が強くて冗談が通じない、真面目な女の子。

 これまで人の気持ち、自分の気持ちすら疎かにして、優れた未来だけを目指して生きてきたと言う。

 そんな彼女が、ワタシのことを考えてくれたのだ。

 自分のことよりも、まず先に、こんなワタシなんかの幸せを考えてくれたのだ。


 ――涙が落ち着くと、ワタシの気持ちも固まっていた。


「もしかしたら、ですが。この世界が終われば、ここにいる全員が現世に帰ることが出来るかもしれない。ワタシの願いは、それで叶います。ワタシは、不確定なことばかりの、訳のわからないことばかりのこの世界で、もう少し抗ってみようと思います」

「――良いの?」

「はい。というか……ふっふ。そんな願いが叶うかも怪しいですしね。それに、ミュウさん自身の願いを叶えてあげたいと、心からそう思っていますから」


 そう、自分が人の幸せを第一に願えるかは別として。目の前のこの心優しい女の子の幸せを第一に考えるのは、何よりも容易いのだから。



「ふふっ。おじいさんらしいね! じゃあ、聞いてくれる?」

「――何を?」

「わたし自身の願い。たぶんこうなると思って、それも考えてたの」

「――はい? な、何でしょうか……」


「この世界で抗うにも、必要なのは、この世界で生き残ること。その一つが、願い得たこの力。だよね?」

「そうですね。ミュウさんの力の詳細はまだわかりませんが、もしも無限に生き返ることが出来るのなら最高ですね」

「そう。それでね、例えばなんだけど。この世界にやって来て、わたしたちみたいに童話を見ることが出来るとは限らない。自分の力に気付かない可能性だってあるよね? もしもその人が『復活させる力』を持っていたら?」

「せっかくの選ばれし力を、知らないままに終えてしまうかもしれませんね……」


「この世界で生きていくには、まずは情報が必要。そして、自身の力を知って、うまく使うことも必要。

 わたしは――力を知る力があったら良いなって思ってるの」

「力の、詳細ですか。たしかに、ミュウさん自身のその力は、検証しようにも難しいですもんね。――じゃあ、ミュウさんの願いって、もしかして?」


「うん。わたしの願いは、力を知ること。でもね、それはわたし自身に限らない。おじいさんの力も、他の人の力も、変異種の力も、ちゃんと詳細に知りたい。――って、願えば叶うかな?」

「おぉ……」


 ミュウは、勉強が出来るだけでなく、考える頭も抜群に良い。

 回転が速いし、物事を多方面から考えることが出来るのだ。


 力を持つ者の、その力を知る力を得る。

 この世界にやって来たわたしたちは、自身の力を、その身を持って知る事しか出来ないのだ。

 さっきの、ワタシの幸せだけでなく、他の人のこと、引いては世界のことを考えた願いをも考えていたのだ――



「お見それしました。ところで、変異種の力、とも言ってましたよね?」

「うん。変異種って、強大な力を持っているんでしょ? ほら、人魚にしたって歌声で呪いをかけるとか。あれって、何かしらの力を持っているってことじゃないのかな?

 もしもその力を知ることができたら、やっつけることも出来るかもしれないでしょ?」

「なんと……素晴らしい願いです! では、あとはどのように情報を得るか、具体的に考えるとしますか」

「それなんだよね。たぶん変異種は壁の外にいっぱいいるでしょ? 全ての情報が流れ込んできたら、わたしの頭、パンクしちゃうと思う。だから、『この目で見た人、変異種の力の情報だけが脳に記憶される』みたいなのが良いかもね」




 ――次の日、わたしは心の底から願った。


「わたしは、この世界の全ての人、変異種、その他諸々の、力の詳細を知りたい。この目で見たら、力の詳細な情報が自動的に脳に記憶されるような、そんな力が欲しい!」


 そして、おじいさんはわたしの願いが叶うようにと、同じように具体的に口にしてくれた。


 すると――突然、自分の力のことがわかるようになった。

 急に思い出したような、そんな感覚だった。


 おじいさんの力で、わたしの願いが叶ったのだ。

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