表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/184

34話 ワタシの力

 あり得ない願いが叶い、わたしたちは、おじいさんの持つ力が本物であると確信した。


「ふぉっふぉ――マッさんは神の子なのかもしれませんな。いや、子というには老い過ぎていますが。どれ――」


 神父は礼拝堂の奥のドアに消え、そしてすぐに戻ってきた。

 その手には何やら本のようなものを手にしている。


「これは、この世界の全ての神の家に伝わる『童話』です。ですが、神に遣える者にしか、その存在は知らされていません」

「そんな、大事なものを――ワタシなんかが見ても?」

「えぇ。あなただから、見せるのです」

「じゃあ、わたしは席を外した方が良いよね――っていうかわたし、存在を聞いちゃったけど……記憶を消されたりしないよね?」

「ふぉっふぉ! 後頭部を殴打する良い口実ができましたな! ――なんて、そんな物騒なことはしませんから、ご安心を」


 何か、この神父さん怖いんですけど……これからは、もう二歩分くらい距離を取ろう。わたしはそう決めた。


「ミュウさんもきっと、神の導きを受けてこの村に来たのでしょう。滅多に見られない黒髪ですし、マッさんとほぼ同じタイミングでやって来たのですから」


 どうせ後で、無理にでもおじいさんに教えてもらおうと思っていた。

 だから、遠慮無く見せてもらうことにした。


 二人が読んだそれは、この世界の成り立ちを記したものだった。




 ――夕食を取り終えると、わたしとおじいさんは、おじいさんの部屋で話を始めていた。


「わたしたちは、願い得た力を持ってこの世界にやって来た……ってことだよね」

「そのようですね。人選の基準はわかりませんが、この世界の神に呼ばれたということでしょう」

「でも、なんて言うかあのパワースポットって、誰かのお墓だったよね? 神とは思えないけど」

「あれはきっかけに過ぎないのでしょう。おそらくですが、この世界で有用となるような力を強く願う七人が選ばれて、あの場に集められたのではないでしょうか。とすると――あの場に集った他の五人も、同じようにこの世界にいるのでしょう」

「この世界に呼ばれた理由は、神様の願いを叶えるため。そしてそれは、女神様を復活させること。――何じゃそりゃ! って感じだよね」

「そうですな。まさか、普通ならあんな本を見ただけでは信じませんが。ですが羊の皆さんを見て、あなたの死体を見て、でも復活した姿を見て。そして、ワタシの力のこともあります。――もはや、信じるしか無いのでしょう」

「うん。じゃあさ、思うんだけど。おじいさん、女神様の復活を願ったら、速攻で解決するんじゃない?」


「――神様の願いを叶えるということですね? でも……まず、神様に出来ないことがワタシの力で叶うとは思えません。それに、もし出来たとしても、この世界がどのように終わるのかわかりません。

 女神様は、この世界を終わらせることが出来る。……ワタシは今、幸せです。とても平和に時間が流れて、可愛い孫が一人増えたようなものだし……」

「わたしも、おじいさんと会えて良かった。あいつに復讐したい気持ちは今も強く残ってるけど、でも、それ以外のことも見えるようになった。今を楽しく生きたいと思えるようにもなった。だから、出来るのなら、このままここで過ごしても良いかな。そう、思ってるよ」


「――とりあえず、様子を見たいと思います。それに、この力のことをもっと知らないといけないでしょうしね」

「そうだね、わたしもそう。この世界の全ての男があいつに見えて、死んでも生き返る。でも、生き返るのが一回きりかも知れないから、迂闊に死んで試せないし……」

「ワタシの力は、人の願いを聞いて、その願いが叶ったら良いなと口にする。――直接その口から聞く必要があるかというと、おそらく違うでしょう。神父伝いの願いも叶いましたからね。それに、恋愛が成就しなかった女の子の件があります。もしかすると何か制限があるのかもしれませんね」

「……一日に叶える回数とか、人数とか?」

「えぇ。幸い、ワタシのこの力は試しやすいものです。人を不幸にするような願いを口にしなければ良いだけですから」


「でも――もしも制限があるとしたら、迂闊には試せないかもしれないね。例えば一人につき一つだったら、本当に叶えるべき願いを叶えることが出来ないから」

「ですね。では、ミュウさんの願いは特によく考えて叶えることにしましょう」




 ――その後は、ワタシの力の検証をした。

 まずは、神父の他の願いを叶えてみることにした。


 ワタシの力を確信し、神父は願い事ランキングなるものを書いた紙を、こっそりとワタシに手渡していたのだ。


「ほんと、何なのあの欲まみれ神父……ていうか、不老不死とお金持ち以外は小さい願いばっかりだね。神父さんっぽくて可愛いけど。でも、百位まで書くってふざけてるよね」

「取り敢えず、ランキング三位の『老眼を治して欲しいですじゃ』にしますか」


 神父の切なる願いだと思い込み、その願いが叶えば良いと口にした。

 でも、それは叶わなかった。


 翌日、またそれを口にするが、やはり叶わなかった。


「マッさん、ちゃんと心から願ってくれていますか?」


 と訝しげに言う神父は、ミュウに強く睨まれると黙り込んでいた。

 だがその代わりに、住人の一人が口にしていた『頻尿に困っている』という悩みを解決することは出来た。


 その後も、住人のちょっとした願いを叶えようと口にしたが、一つも叶うことは無かった。

 でも、これで自身の力が何となくだがわかった。

 一人につき一つ、そして一日に一人、ということではないか。




 ――その日の夜は、わたしの部屋でおじいさんと話をした。


「童話を目にするには、神父から神の子認定される必要があります。おそらくその存在を知ることすら難しいのではないでしょうか。となると、まずは他の人を見つけて、この世界のことを伝えるべきでしょう」

「それはそうかもしれないけど――でも、考えた方が良いかも」

「どうしてです?」

「何かが引っかかるの。――おそらく、この世界は大昔から存在する。この世界には五十年に一度、七人の人間しかやって来ないけど、累計ではそれなりの人数が来ているはず。医療も発達していなさそうなこの世界で、人間が長生きするのは難しいよね?

 だから、同じタイミングでやって来た人以外とは、会うこと自体が難しいと思うの。

 ――それにしたって、後からやって来る人のために、何かヒントとか情報を残していても良いと思わない?」


「それが、童話なのでは?」

「それなら、例えば『黒髪の人には絶対に見せるように!』とかしてほしくない?」

「たしかに……」

「何も残さない理由――それは『ただただ知らなかったから』が一番多いとは思うけど、あとは、知っていたけど残さなかった理由……残す手段が無かったとか」

「……ですが、知っているということは、童話を見ているということ。神の子として認定されている、ということでもあります。つまり、神父さんとの交友もある程度深いのでは?」

「そうだね。たしか神父さん、『定期的に神父会議が開かれる』とか言ってたよね? これをうまく使えば、神父さんを使って後世に何かを伝え残すことも出来そうだよね」

「えぇ。残す手段が無いとは言えませんな」


「あとは……この世界のことを知って、『残すも何も、俺がこの世界を終わらせてやるぜ!』っていう血気盛んな人が多くて、全滅した可能性もあるかな。――そう言えば、バスの中にもヤンチャそうなガキがいたよね」


 これはわたしの偏見だが、あんなヤンチャそうなやつほど、この世界で真っ先に命を落とすのではないか。

 とは言え、ものすごい力を持っていたら話は別だが。



 ――そこで、引っかかっていた何かがわかった。

 どうやらこれは、恐怖と不安が合わさった何かだったようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ