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26話 世界をも滅ぼす力

「始め!」

「死ね!」


 開始と同時に、三メートルほど離れた熊の獣人に向かって右ストレートを空振りさせる。

 これまでの相手は衝撃波で壁に叩き付けて終わったが……さすがに決勝の相手はそうもいかないらしい。

 衝撃波を両手でブロックすると、たった五メートルほど下がるだけで踏ん張っていた。

 既に地面を蹴っていた俺は、ブロックしたままのその両手に右ストレートを直接叩きつけた。

 まるで相撲取りのぶちかましを受けたかのように後方に吹き飛ぶと、熊の獣人は壁に激突した。


「マジかよ! 誰だよあいつ!?」

「相手は優勝の大本命だったバレッドだぞ? 信じられん……」




 ――遡ること五日前。

 城下町では『百年間眠り続けていた人間が一斉に目覚めた』という騒ぎが起きていた。

 でも、それ以上に騒いでいたのは俺の方だった。


「すげぇ……外国ってこんな感じなのか!」


 まずは城下町に入り、その街並みを見るなり一人はしゃいでいた。

 だが、それもすぐに終わり、


「……は?」


 今度は二足歩行して日本語を流暢に話す動物たちを見て、その目を稼働限界までかっ開いて驚いた。


「これが外国人……なわけ無ぇよな。ってことはやっぱここ、異世界か? ……すっげぇ!」


 明らかに強そうな、ライオンや熊っぽい獣人を見ると拳が疼き、一人別のところで大騒ぎしていたのだった。




「俺たちはこれから団長のところに報告に行く。ロキも一緒に来てくれないか?」


 壺を確認するだけ、という地味なめいを受けた二人は『スポカ』と『アポー』と名乗ってくれていた。

 俺の親くらいに老け顔なのに十八歳だというアポーとは、すぐに打ち解けて仲良くなっていた。

 そんなアポーが声をかけてきたのだ。


「行く! おい、アポー。団長って強いのか?」

「当たり前だろ? 強いから団長なんだ。でも、お前の言う『強い』が何を指すかにもよるかもな」

「ん?」

「ここ、赤の国には二人の騎士団長がいる。一人は誰よりも『武』の力に優れ、一人は誰よりも『知』の力に優れているんだ」

「強いって言ったら武力に決まってんだろ? もしかして、これから行くのは知力の方ってか?」

「あぁ、そうだ」

「……たしかにお前ら二人、運動より勉強ができそうな見た目してるもんな。はぁ……」



 騎士団本部、三階の一番奥の部屋。

 その中には、いかにも勉強ができそうな線の細い男が立っていた。

 知力とか言うから、仙人みたいなヨボヨボじいさんをイメージしていたが……おそらく五十代くらいの、でも思ったよりかなり若々しい男だった。

 燃えるような赤い髪と瞳をしており、その瞳に宿る強さには計り知れない何かを感じる。

 ついつい身震いしてしまい、それが怖れなのか武者震いなのかわからないが、そんな自分に驚く。


「二人とも、ご苦労だった。この騒ぎだから、既に結果は予想できるが。では、報告を頼む」

「はい。わたしたちが村に到着したとき、村を覆う結界には異常が見られませんでした。中に入ると中央広場に直行し、壺が倒れているのを発見しました。壺の封印は解かれており、その中には何も入っていませんでした。村の中に異常が無いかどうか確認することも考えましたが、状況を速やかに報告すべきだと判断し、すぐに村を出ました」

「うむ。正しい判断だった。壺が倒れていた以外に、気付いたことはあったか?」

「いえ。壺の周囲は、草が倒れている様子すら見られませんでした。それから、村を出るときには変わらず結界が張られていました」

「村を出てからしばらく、荷台に載ったわたしが村の結界を見ていましたが、結界は張られたままでした」

「二人が村に到着したときの、影の位置は?」


 その問いに、アポーが何やら背後の床を指さした。


「……わかった。君たちの報告を踏まえて、わたしの考えを話そう」


 団長は人差し指をピンと立てると、眉間に当てた。

 キザな仕草だが、やけに様になるのがなぜか悔しい。



「魂を刈られた人々が目覚めたのは、君たちがチェーリに到着する少し前のようだ。壺は倒れ、中身は空で、でも村の結界は残ったまま。つまり、討伐した何者かは……君たちが村を出たときに、まだ村の中にいた可能性が高い。

 その何者かは、ゴーストを討伐する際に怪我を負ったか、あるいはただ疲れ果てたのか。どこかの家に入って休んでいたのではないだろうか」

「ちょっと待った! 何でそうなるんだ?」


 訳がわからなすぎて、とうとう俺は口を挟んだ。

 団長とはさっきからチラチラと目が合っていたが、報告が終わるまでは詮索を避けているのだろう。


「……一先ず、説明してあげよう。結界が張られたのは『百年前』だと言われている。あぁ、『ねん』と言ってもわからないだろう。空が闇から再び闇へと変わるまでを『一日』と呼ぶ。そして、この一日を三六五回、つまり三六五日のことを『一年』と呼ぶんだ。まぁ、これは王族と騎士団しか知らないし、知ってもあまり意味がないことだがね」


 馬鹿にすんな!

 と怒鳴りたかったが、その言い方からは一切の悪意を感じなかったため、とりあえず頷いた。


「結界を張った人物は、周囲の気配を察知する力も持っていたという。その力も一緒に封じ込めて、内部に何者の気配も察知されなくなったら消えるような、そんな結界を張ったという」

「そうか、アポーたちには結界が見えるんだっけ? で、それは最後まで消えていなかった。じゃあさ、すげぇやつを倒せるすげぇやつがまだ村にいたってことか。見たかったなぁ……」


「――ゴーストはこの百年封印されたままだった。それはつまり、百年もの間、討伐できる者が現れなかったということ。その何者かは我々にとっての救世主……と言い切れないのが心苦しいがね。少なくとも英雄には違いない」

「そんな英雄が怪我をしている可能性もあるのですよね? では、すぐにチェーリに戻らないと!」

「その必要は無い。目覚めた村人から当時のことを聞き取り終えて、つい先ほど、村へと送る準備を始めたところだ。間も無く十班体制でここを出ることになる。お前たちはゆっくり休むと良い」

「わかりました」


 報告が終わったらしく、スポカとアポーは少しホッとした表情を見せた。



「ところで、この少年は何者なんだ?」


 その問いにはアポーが答えた。


「はい。村に向かう途中で拾った『ロキ』という少年です。名前以外は何も覚えていないようですが、なかなか面白い、見所のある少年です。資格が無いはずなのに、なぜか結界に入ることができました。だから、ここに連れて来たのですが……」

「……わかった。一先ず、わたしが預かろう。二人は外して、休んでくれ。ご苦労だった」

「はっ」


 敬礼のような仕草と共に、二人は部屋から去った。

 まさか一人残されるとは思いもせず、しばらくは二人の出て行った扉を眺めていた。

 すると、団長が徐に口を開いた。


「……わたしが知の団長になったのは十年ほど前のこと。前の団長は、名前を『キイチ』と言い、君と同じ黒髪の男だった」

「へぇ。何か、キイチって日本人っぽいな。でも、黒髪なんていっぱいいるだろ?」

「ここに来るまでに、黒髪を一人でも見たかな?」

「あぁ、俺の初恋……は置いといて。えっと……ん? そういや派手な色の髪しかいなかったな」

「だろ? わたしは生を受けて五十余年、数多くの人間を見てきた。でもね、黒髪は未だにキイチと、他には一人しか見たことが無い。そんなキイチも、君と同じように突然この国に現れたと聞いたことがある」

「ふーん。そいつは怪しいな……もしかして俺みたいに力を持ってこっちに来たってやつか?」

「力? そうだな……キイチは、人の心を読むことができた」

「へぇ……って、何だそのすげぇ力!?」




 ――騎士団に入ることができるのは、通常、年に一度の入団試験に合格した者のみ。

 武と知のいずれかの団を選択し、実技試験の結果のみで選ばれる。


 武の団長とやらには興味があるが、それよりも変異種とやらを見つけて討伐してた方が楽しそうだ。

 だが、意外にも知の団長『マダル』は真面目な顔で俺に言った。


「騎士団に入ってくれ。君の力が必要だ」


 俺の力のことは知らないはずだが、まさかこいつも心を読めるとか?


「いや、わたしは心を読めない」

「読んでるじゃん!」

「ふっ。これでも知の団長だからね。先を視る目は誰にも負けない自信がある。正直に言おう……君のその強さが危ういんだ。それは、使い方によっては世界をも滅ぼす力。違うかな?」

「あぁ……俺、頭悪いからな。悪いやつに良いように使われたら……やっちまうかも! てか、俺は強いやつと闘えればそれで良いんだけど?」

「騎士団に入ればいくらでも闘える。それは保証しよう」

「マジか! 強いやつばっかなのか?」


「武の団員のほとんどがオーク、そして戦闘に特化した獣人だ。中でもオークの『ビエニカ』――武の団長は化け物みたいに強い」

「おぉ……」

「それに、まさにちょうど良い機会に来たな」

「なんだ? 団長とやれるのか?」

「そうじゃない。ゴースト……変異種が討伐されただろう? すぐに次の変異種が現れる。まずはその生体を調査する必要がある」

「死に際に卵でも産んだのか?」

「それならわかりやすいんだがね。この、世界の四つの国には、常に一体の変異種が生息する。大昔から、絶えずにね」


 さっき、マダルが討伐した何者かを『救世主と呼べない』と言っていたのはそういうことか。

 危険な変異種を討伐するのは良いが、また次の変異種が生まれてしまう。

 ゴーストの場合、魂が刈られた人間がいるものの、封印されたままの方が人々にとって幸せだったと言えたのかもしれないのだ。



「そうか、騎士団が新しい変異種を討伐するんだな? よっしゃ、行こうぜ!」

「おぉ、やる気だな。でもな、まずは調査隊をつくるんだ。討伐隊が一番危険だが、この隊も死と隣合わせと言えるだろう」

「相手が誰だかも、どんだけ強いかもわからないからな……で、その調査隊ってのは誰なんだ? 団長たちか?」

「あぁ。この臨時の隊に入るのはわたしと、知の団員一人、そして武の団員二人だ」

「まずは見つけて、遠目で見て、ちょっかい出して逃げるみたいな感じか? なんか面白そうだな。うっかり討伐しても文句言われないんだろ?」

「はははっ! 文句どころか大金をもらえるぞ?」


「よし! じゃあ俺、騎士団に入る。もちろん武の方な!」

「わたしが認めよう。ビエニカにはわたしから言っておく。それで、武の隊員の選抜なんだが」

「……選抜?」

「あぁ。いくら調査とは言え、武の団員にはかなりの危険が伴うだろう。逃げ足もそうだし、武力も求められる。だから……希望者全員でトーナメント戦をやって、上位二人を選ぶ」

「――!!」


 声にならない声を上げると、俺は思わず両手を突き上げた。


「くははっ! なんて面白い世界だ! 殺ってやんぜ……待ってろ、騎士団……じゃなくて、変異種!」

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