24話 闇鍋ガチャ
最後に青の国の二人の初日を語ると、第一回目の物語りを終会させることにした。
昨日までの三日分を語る予定だったのだが、初日を語った時点で、時間としてはちょうどアニメの一話分くらい。
何より、初日の情報量が最も多いのだ。
もちろんその場の雰囲気を鑑みてだが、詰め込み過ぎずに『乞うご期待』とするのが最適解であると判断したのだった。
奥の扉を開けると、神父と二人でダイニングへと向かった。
「ふぉっふぉ。大盛況でしたな」
「……面白かったか?」
最終的に、神の家の中には座席数以上の住人が集まり、立ち聞きをする者もいた。
ただそれは、おそらく『珍しいから』集まっていたのではないか。
もしかするとこの世界には『童話』や『小説』の類いが無いのではないかと思ったのだ。
「ふむ。まるで現代版の童話のようで興味深かったですぞ」
「童話あるんかーい! ――って、そう言えばこの世界には紙どころか『本』もあったよな」
初日に見せてもらったこの世界の地図。それ自体がA3サイズの紙製で、しかも、おそらくだが印刷されたものだった。この世界にも印刷技術があるのだろう。
そしてそれよりも、そう言えばその丸まった地図の四隅を押さえていた重しが『本』だったのを思い出したのだ。
「そうですな。この世界の書物は主に教養に関するものですじゃ。先ほど童話と言いましたが、この世界にはたった一つ、神のお導きを綴った話があるのですじゃ。それをわたしたちは童話と呼んでおります」
「……なんかそれ、すげぇ重要なアイテムなんじゃないか? まさか、世界の中心の謎とかも書かれてたりして?」
「ふぉっ!」
どっちだよ!
相変わらずマイペースな神父につっこみたい気持ちを落ち着かせると、その反応の続きを待った。
「実際に目を通すのが一番でしょう。あなたの部屋に置いてありますから、移動しましょうか」
ダイニングを出ると、元物置である俺の部屋に入った。
神父は部屋の隅に置かれた箱の中から一冊の本を取り出すと、俺に手渡した。
ハードカバーの中には十ページほどしか無く、見開きの左のページに文字が、右のページに挿絵が描かれた、まるで絵本のようなつくりだった。
「これって、この世界の人なら誰でも知ってるものだったりするのか?」
「うんにゃ。この本は世界中にありますが――神の家にだけ伝わるものなのです。内容はもちろんのこと、その所在も神に遣える者にだけ伝えられるのです」
「その割には、物置の箱に無造作に置かれてたみたいだけど?」
「ふぉっふぉ! 厳重に保管でもしてみなさい。悪いやつに盗まれてしまうでしょう!」
「この国にそんなやついるのか? まぁ、そういうことにしといてやるよ。ところで、じゃあ何で俺に教えてくれたんだ?」
「当然のことですじゃ。あなたは、神のお導きを受けたのですから」
「あぁ、じいさん……じゃなくて、神に生き返らせてもらったからか」
この本は、神の家に代々伝わるもので、門外不出だという。
とすると……もしかして、これまで転生者の誰の目にも触れたことが無いのかもしれない。
まさか、本当に世界の中心についても書かれているのではないか。
ニコニコと微笑む神父に見守られながら、そんな期待を込めて本に目を通した。
――世界の成り立ち。
万物の神がおつくりになったのは、始まりの地から四色に広がるこの世界。
――変異種。
神が戯れにおつくりになった生物は、予想だにしない強大な力へと変異した。人々はその生物を変異種と呼んだ。
――世界の壁。
神はこの世界に透明な壁をつくり、変異種全てを外の世界に封じ込めた。
――大いなる厄災の誕生。
あるとき、神の力をも超える変異種が生まれた。破壊の力を持つそれを、人々は『大いなる厄災』と呼んだ。
――大いなる厄災の封印。
神は、対を成す女神の御身を代償とし、大いなる厄災を始まりの地に封じ込めた。
――始まりの終わり。
万物の神は、始まりをもたらす存在。神は、終わりをもたらす女神の復活を、そして、始まりの終わりを望んだ。
――新たなる地。
神は、女神を復活させる術を持たなかった。神は、新たなる地に力を求めた。
――契約と力。
神は、新たなる地との契約を取り交わした。五十の年に一度、七つの力がこの世界に与えられるという。
――選別、そして選択。
神は、選ばれし力を始まりの地へと導かれる。そしてその力の選択を見守るだろう。
汝が願うのは終わりか。始まりか。それとも、滅亡か。
……なるほど。この童話からいろいろとわかったことがある。
つまり、こういうことだろう。
「全部書いてあるじゃん!」
理由はわからないが、この世界の神は『終わり』を望んでいる。
神が望む『終わり』を迎えるためには、女神の復活が必要となるが、始まりの神にはそんな力が無い。
何かをつくり出すことはできても、再生することはできないのだろう。
そんな不可能を可能とすべく、新たなる地に力を求めた。
それが地球で、しかも日本ということか。
神は新たな地から与えられる力、すなわち転生者を選ぶことが出来ない。
おそらくだが、選ばれるのは『強い思いを持つ』七人だと思われる。
そしてその七人が、願い得た力を持ってこの世界に転生するのだ。
わかりやすく言うと、五十年に一度だけ引くことが出来る、七連の闇鍋ガチャ。
その中で神が求めるのは、蘇生を可能とする力。
それは正真正銘の蘇生か、あるいは『時を戻す力』でも良いかもしれない。
要は、女神が復活さえすれば良いのだ。
ここからは俺の推測だが……いくら待ち望んでも、そんな力を持つ者が現れないかもしれない。
そこで神は『変異種』をも利用することにしたのではないか。
強大な力を持つ変異種を討伐することで、その力を得ることができるというルールをつくったのだ。
変異種は神の予想を超える力を持つというから、蘇生の力を持つものが現れても不思議ではない。
かと言って、変異種全てを解き放ったら、それこそ世界が滅びるかもしれない。
それに、転生者も全滅してしまうかもしれない。
そこで、四色で分かたれた国それぞれに一体ずつを解放することにした。
……神は願ったことだろう。
女神を復活させることができる人間の出現を。
あるいは、そんな力を持つ変異種と、それを討伐することができる人間の出現を。
最後に、神は力を選別し、そしてその力の選択を見守ると書いてあった。
世界の中心には、大いなる厄災とやらも封じ込められているのだ。
間違ってでもその封印を解かないように、立ち入る者を選別するということか。
女神を蘇生できる力を持つ者は無条件に入れるとして、それ以外は七人の生き残りか、あるいはそこに入る力を持った者のみ立ち入り可能としたのだろう。
なぜそれ以外の力の立ち入りを可能としたのか……わからないが、いずれにせよ、立ち入った者はそこで何かを知るのかもしれない。
それか、何かを目の当たりにするのかもしれない。
そして、そこで何かを選択することになるのだろう。
その選択は……おそらくこんな三択ではないだろうか。
『女神を復活させて、この世界を終わらせてあげる!』
『力を持ったまま現実に帰る!』
『厄災を解放して、この世界を滅亡させる!』
そう言えば……緑の国のドクターは、百年前に一人、世界の中心に立ち入った人間がいたと言っていた。
そしてそれは、ある時期に転生した七人の生き残りだとも。
その人間は戻らなかったと言う。
この世界はこのとおり終わってなどいないし、滅亡もしていない。
つまり、ドクターの言うとおりその人物は現実に帰ったと考えて間違い無いだろう。
――ここで俺は、とある憶測を持った。
その人物はただの生き残りで、『蘇生の力』を持っていなかった。
選択肢も憶測なのだが、この人物は三つのうち『現実に帰る』という選択しかできなかった。
でも、その人物もそこで『この世界を終わらせたい』という思いを持ったのではないか?
その人物こそ、俺たちが願ったあの墓に眠る人物ではないか?
そして、現実世界で何かしらの力を使って、闇鍋ガチャの確率を上げようとしたのではないだろうか……なんて、考え過ぎか。
とりあえず、思いがけずにこの世界のことがわかった。
そうとわかれば、俺がこれから取るべき行動も自ずと……自ずと、決まる?
いや、俺、この物語に干渉できないじゃん!




