22話 緑の国 7
力を得るための、現実へ帰るための無情な手段。
ドクターは、他の転生者を殺めることでその転生者の力を得たのだという。
「でも、転生者同士の殺し合いはできないはずだろ?」
「そう、転生者同士は、な。例えば……あぁ、目の前にちょうど良い例がいるじゃないか。シンジのその力で、研究室に出入りする人間に『ドクターを殺せ』とお願いをする。そいつは、シンジの言うとおりにじじぃを殺すだろう」
「……でも、その場合、ドクターの力はその人間が得るんだろう?」
「それじゃあ、転生者は他の転生者の力を得ることができないだろ? 要は、転生者を殺める原因をつくった転生者が、その力を得ることになるってことだ」
納得できることがあった。黒髪に懸賞金をかけているのはドクターだ。
いつからかそれが変な噂に変わり、今や死んでいてでも連れてさえ行けば良い『デッドオアアライブ』とされている可能性もあるというのだ。
つまり、こんな噂を聞いた誰かがお金目当てに転生者を殺めた場合、その力は噂を広めたドクターが得ることになるのだ。
なんとも、本当に一切信用してはいけない人物のようだ。
「じじぃは俺が知る限りでも、二人の転生者の力を得ている。『不老』ともう一つ『成りすます力』だ」
「え? 願い得た力が不老じゃなかったのか?」
「はははっ! じじぃ、嘘ばっかだな。あいつのは『答えがわかる力』だ。不老は……まぁ、これはじじぃが殺めたとは言えないんだが。だけどな、もう一つは間違いなくじじぃがやったことだ。
いずれにせよ、生存に特化しただけの力しか持っていないけどな。とは言え……あれから百年も経っているんだ。もしかすると他にも持ってるかもな」
「とりあえず、ドクターが悪い人間だというのはわかった。ところで、さっき『僕の力をもっと早く知っていれば』って言ってただろ? あと、ドクターが僕に『それ』をさせないために嘘を言ったとか」
「あぁ。これも俺の憶測だ。でも、ドクターが阻止しようとしたのなら、この憶測は正しいはず。
あいつは百年以上、様々な方法でインプを殺し続けてきたんだろう? どうすれば本当に死ぬか、その答えを知っているはずなのに。きっと、その答えへと導く手段が、見つからなかったんだろう。
その答え、きっと『自殺』だろう。会話が成立しないから、なんとかして投薬とか催眠術とかで言うことを聞かせようとしたんじゃないか? でも、それは未だに叶っていない」
「そこに、インプを手なずける僕が現れた……もしも僕が『自殺しろ』と言ったら、ギャたちは『ギャ!』とだけ言って喜んで……」
「そう。でも、それだと不死の力はお前のモノになってしまう。しかも新しい変異種が生まれる……ってのはじじぃには関係無いか。不老のじじぃは、なんとしても不死の力が欲しい。そりゃ、百年以上もそればっかりに固執してるんだからな」
「もしかして……僕、ドクターにとって邪魔な存在になったのか?」
「間違い無いな! 俺のことも間違いなく邪魔だと思ってるだろう。邪魔物同士、俺とお前は一緒に行動するべきだ。な!」
目の前で歯を見せて大笑いするゴロウ。
少なくともゴロウは信用できるのだが、少し気になるところがあった。
「ゴロウは、何でドクターが転生者を殺めたことを知ってるんだ? そして、得た力のことも」
「あぁ。同期だし、二百年前からの付き合いだからな。……ちょっと長話だが、聞いてくれるか?」
僕が頷くと、ゴロウは当時のことを思い出しながら、話をしてくれた。
それは二百年間の、でも、ゴロウにとってはたった五年ほどの間の話だという。
――俺がこの世界にやって来たのは二百年前。
長くなるから、どうやって来たかとか、どうやって生活していたかとか、そんな経緯は省く。
とりあえず、俺は『封じ込める力』を願い得てやって来た。
最初に俺が居たのは、赤の国だった。
当時そこには、『時を止める力』を持つ変異種がいた。見た目はただの白ウサギのそいつは、周囲五十メートルの時間を五秒間止めることが出来た。
五秒間のインターバルの後に、また五秒間止める。食欲がすごくて、すばしっこいそいつは、国中の農作物を荒らしながら数年間逃げ生きていた。
そこで、俺の力の出番だ。俺の初陣でもあった。
自分の力に気付いてから、いろいろと試して気付いたのは、この力の影響範囲が八十メートル以内であること。
だから、ウサギの力が及ばない八十メートル先から、そいつの周りに結界を張ってやった。
しかも俺の結界、すごいんだぜ? 空気の出入りも制限できるからな。
二分くらいでそいつは窒息死した。恐ろしい力だろ?
圧縮して殺すとか、そんな直接的なことはできない。
でもな、窒息もそうだし、餓死、長い目で見れば寿命を待つことだって出来るんだ。
ということで、変異種を討伐して大金を得た俺は、各地を転々とした。
この世界に来て一年後くらいか、緑の国にやって来た。
そこで、二人の男女に会ったんだ。
男の名は『ゴンゾウ』、女は『ユキ』と言った。
当時、ゴンゾウは五十歳、ユキは二十六歳だった。
まずこの世界に来て気付いたのは、黒髪が自分以外に一人もいないということ。
そんなときに出会った二人は、黒髪だった。
話してみると、やっぱり俺と同じ日本人で、しかも俺と同じく一年くらい前にこの世界にやって来たと言うんだ。
じゃあ、二人とも何かしらの力を持っているのだろう。
そう思って、俺は自分の『封じ込める力』のことを話した。
ゴンゾウは、「全ての答えを知ることができる」と、何やらすごい力であることを教えてくれた。
一方で、ユキは自分の力がまだわからないと言っていた。
ゴンゾウにも、そのユキの力を知ることはできないらしい。
しかも、俺に対しての問いも、何の答えも得られないらしいから、どうやら黒髪同士は力が及ばないことがわかった。
その後、数日間ともに行動してわかったのは、この二人が愛し合っていることだった。
邪魔者はさっさと消えてしまおうと思った。
すると、
「ゴロウくん。君は力をもう一つ持っているのか?」
唐突に、ゴンゾウは俺に言った。
何を言っているのかわからず問い返すと、
「わたしは『君に何かしてやれないものか?』という問いを持った。すると『事実を教えること。二つの力を組み合わせることで時を超えることが出来る』という答えを得た」
どうやら、黒髪自身に関する問いや、不利益を与える問いでなければ答えを得ることが出来るのかもしれない。
『時』と聞いて、俺はピンときた。時を止めるウサギを討伐したことを話すと、
「変異種というのを討伐すると、その力を得ることができるらしいな」
この世界への問いには、答えを得ることができない。ゴンゾウはそう言っていた。
でも、具体的な問いなのか、あるいは人が干渉することで答えが生まれるらしい。
しかも、ゴンゾウはその力の使い方まで教えてくれた。
止まれと思い、息を止めるというのだ。
やってみると、ゴンゾウは目を半開きにしたまま五秒間止まっていた。
「自分自身を封じ込めた結界の中で、時を止める。すると、その力は結界内に閉じ込もり、効果が消えないのだろう」
ゴンゾウが聞いたというその答えを試してみることにした。
封じ込めたものは、解除を時限式とすることもできる。
自分で解除する他に、黒髪が触れることでも解除できることがわかった。
そのときは試しに、一時間後にゴンゾウに触れてもらい、解除してもらうことにした。
その場に立ち上がると、自分をすっぽりと覆う結界をつくった。
この便利な力は、結界と一緒に中のモノを圧縮することが出来る。
でもそれは押しつぶすのではなくて、モノの大きさを変えること。だから、そのモノを壊すことは出来ない。
結界を圧縮して掌サイズまで縮むと、俺は、息を止めた。
急に目の前が真っ暗になり、目の前に光が戻ると同時に、息を吐いた。
目の前には、つい先ほどと変わらない光景が広がっていた。
そこにいたのは、ゴンゾウとユキの二人。だが、明らかに違うところがあった。
ゴンゾウの髪の毛が真っ白に変貌していた。
だが、初めての封じ込めに体力を使い切ったのか、俺の意識はそこで途絶えた。
目覚めてから教えてもらったが、どうやら、あれから一年が経っていたらしい。
ゴンゾウは、約束どおり一時間後に結界に触れたらしいが、解除できなかったという。
そのことを問うと、『最低一年は解除できない』という答えを得たようだ。
触れても解除されないその結界を、ゴンゾウはなぜか厠の収納の中で一年間、大事に保管してくれていたらしい。
そんなゴンゾウは、訳のわからない世界での生活で、かなりの気苦労があったのだろう。
ハゲない代わりに白髪頭になっていたのだ。
ユキはまだ若いからか、特に何も変わらなかった。




