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21話 緑の国 6

 酒を飲み盛り上がる同期転生者の二人。

 酒に弱い僕は、キュリー汁を片手におよそ二時間をかけ、現代の日本のことを教えた。

 ずっと上機嫌だったドクターも、とうとう酔いに負け、ソファで寝てしまった。


 自らと時の流れを百年間封じ込めていたという男は、その様子を見るとすぐに真顔に戻り、立ち上がった。

 男は、ドクターに毛布を、僕に「行くぞ」という声を掛けると、テーブルに置かれたモノを手に取った。


 一つは、ずっしりと重そうな布袋。

 その中には、男が百年前に変異種を封印した時に得た大金が入っているらしい。

 二つ目は、この建物に自由に出入りできるという許可証。

 最後に、頭部を覆う用の布を二枚取ると、その一枚を僕に手渡した。


 ドクターは、転生者と出会う機会をつくるために、黒髪に懸賞金をかけたというのだ。

 騎士団員のみに伝えた話だったらしいのだが、百年も経つと、世界中に変な噂で伝わってしまっていた。

 今では黒髪が下手に出歩くだけで、危険な目に遭う可能性があるというのだ。



 布を頭部に巻き付けると、部屋を出てエレベーターに乗った。

 男が何も喋らないのは、おそらく建物を出るまでは何かを警戒しているからだろう。

 ロビーの階に止まると、許可証を掲げ建物を後にした。


 そのまま男の後に付いていくと、どこかの建物へと入った。

 男が「二人部屋で良いよな?」と問いかけてきたから、そこは宿泊施設なのだろう。

 頷くと、手続きを済ませた男の後に続き、部屋へと入った。


 木造の洋室に二つ置かれたベッドにそれぞれ腰掛けると、男は改まり表情を和らげた。


「さて。遅くなったが自己紹介をしよう。俺は『月舘つきだて五朗ごろう』だ。まぁ、この世界には名字が不要みたいだから、ゴロウって呼んでくれや」

「僕は『真田さなだ慎治しんじ』だ」

「シンジだな。よし、シンジ。いきなりだが、俺と行動しないか?」

「ゴロウと? それは、僕にとっては良い話だけど。でも、君にとってメリットはあるのか?」

「それはわからん。でも、確率を高めることはできるはずだ。俺は――別の方法で世界の中心に入ってみせる」



 この世界のことは、ドクターが教えてくれた。

 ほとんどが憶測とはいえ、今はその話が真実であると思うしかない。


 五十年に一度、七人がこの世界に『願い得た力』を持って転生する。

 同時に転生したこの七人のうち、唯一生き残った一人にだけ、世界の中心に入る資格が与えられる。

 そして、そこから現実世界へと戻ることが出来るというのだ。


 この世界で取るべき行動は、まずは生き残ること。そのために必要となるのが、言うまでもなく自身のその力だ。

 願い得たその力は、生存するのに特化したものもあれば、それ以外の限定的な使い方しかできないものもあるだろう。

 だが、そんな力をさらに追加する手段が二つあった。


 一つは、この世界の四つの国に必ず一体は生息する『変異種』を討伐すること。

 変異種は何かしらの力を持っており、討伐することでその力を得ることが出来るのだ。


 そしてもう一つ。それは、転生者がただ生き延びることを許さない、無情な手段だった。

 転生者を殺めることでも、その人が持つ力を得ることができるのだ。


 変異種を討伐し、生き延びる力を得るか。転生者を殺めて力を得るとともに、その数を減らすか。

 もちろん、何もせずに隠れて生きることも可能かもしれないが、それを邪魔するのが『黒髪』だった。


 この世界に転生するのは、全て日本人だという。

 もしかすると髪を染めて来る人もいるかもしれないが、地毛は黒なのだ。

 そしてその黒髪は、転生者以外この世界に存在しない。つまり、一目瞭然だし、自然とその存在が噂で広まってしまうだろう。

 ドクターのような……そうだ、同じバスに乗っていた老人も黒混じりの白髪だった。そんな人間は隠れ潜むことができるかもしれないが……


 ゴロウの言うとおり、別の方法があるのなら――もしも殺し合わなくても済むのなら、それに越したことは無い。



「そんな方法があるって言うのか?」

「これは、俺のただの憶測だ。世界の中心への立ち入りを阻む、透明な壁。それは、俺の結界と似たようなものだと思っている。おそらくこの世界をつくった神とやらが張ったんだろう。

 でも、俺の結界とは決定的に違うところがある。俺のは転生者を封じ込めることが出来ないし、転生者は結界に自由に出入りできる。でも、世界の中心のその壁は、転生者をも阻む。唯一生き残って資格を得ない限り、入ることができない。

 でも……その壁を通り抜ける『力』があってもおかしく無いんじゃないか?」


「なるほど! 結界を張る力があるなら、解除する力があってもおかしくない。他にも壁をすり抜けるとか、どんなものでも破壊する力とか?」

「そのとおり! なんか、あり得そうだろ? な?」

「でも、ゴロウもドクターも、まだこの世界にいるってことは……」

「そうだな。とは言え、俺はまだこの世界で五年くらいしか生きてない。それに、この世界のことをじじぃから教えられたのは百年前のことだしな。そんな力を持つ転生者にも、変異種にも出会えていないだけだ」


「じゃあ、何でさっきドクターに聞かなかったんだ? 一番長生きしてるし、他の転生者と一番関わりがありそうだよな? 俺なんかの話よりよっぽど重要じゃないか」

「あぁ……あのじじぃが教えたこの世界のことには、嘘は無いだろう。でも……あいつのこと、信用するなよ? こんな方法はとっくに思い付いてるはずだ。でも、あのじじぃ、お前にそんな話をしたか?」


 たしかに、現実に帰るには生き残るしか無い、と言っていた。

 こんな可能性があるのなら、殺し合わなくても済むかもしれないのに。



「ドクターは何をしたいんだ? もう終わりにしたいって言ってたのに……」

「今言えるのは、終わりにしたいなんて言葉はただの嘘ってことだけだ。まぁ、それは追々わかる。それより、シンジの力を教えてくれないか? 俺から話すでも良いぞ?」


 ドクターから聞いた話では、ゴロウは願い得た『封じ込める』力と、変異種二体を討伐して得た力を持っている。

 変異種から得たうちの一つ、『時を止める力』を使って時を止めつつ自身を封じ込めることで、この二百年を生き存えているのだ。


 もう一つの力も気になるが、教えられてばかりの立場は嫌だった。

 僕は、まだ確証は持っていないが、自身の力について説明をした。


「というわけで……なんだか、ゴロウが求めるものとはかけ離れているよな。役立たずで済まない」

「お前、馬鹿か! あの気持ち悪いやつら……インプだけどな? 俺もドクターも、あいつらの言葉はなぜかわかるけど、会話なんて成立したことがない。

 網から出すなんてもっての外の、災害と呼ばれる変異種だ。それをお前は、あいつらを膝の上に乗せて子供みたいに扱ってやがった。しかも、あいつらもお前にやけに懐いていやがったな。お前の、シンジのその力はすごいぞ? わかるか?」


「もしかして……他の変異種も、僕の言うことを聞くって言うのか?」

「あぁ。でも……たぶん、言葉が通じるやつに限るだろうがな。あ……くそっ! もっと早く知ってれば!」

「どうかしたか?」

「インプのことだ。じじぃは、百年以上あいつらを殺し続けているんだろう? 千にも及ぶ手段を試したに違いないのに、でも、インプは未だに生きていやがる」

「でも、本当に殺せたらドクター自身も死ぬかもしれないんだろ? 不老不死の力がこの世界に二つあるのはイレギュラーだって言ってたぞ?」


「んなの、嘘に決まってるだろうが! あぁ、お前にはそう言ったのか……お前のその力が何となくわかったんだろう。その上で、お前に『それ』をさせないための嘘だ。インプは不死で、あいつは不老。似てるようだが全く違う。あいつは殺されれば死ぬ」

「それ? でも、殺されれば死ぬって……これまでの二百年、こんな世界でよく無事だったな」

「別の力のおかげだ。あいつは『答えを知ることが出来る』からな」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 別の力って何だ? ドクターは、他の力も持っているというのか? 生存に特化しただけの力……不老なだけなんだろう? それで変異種を討伐なんて思えない。まさか……」



 不老なだけだから、不死の力を得るために、インプを殺し続けているだけ。

 もはや生きることにも現実に帰ることにも興味が無いから、みんなで帰ることができる可能性を言わなかっただけ。

 それだけなら、『必要なことを言わない人』と思うだけで済んだのに。

 

 ゴロウの口からは聞いたのは、一番聞きたくなかった言葉だった。


「あいつは……転生者を殺めて、その力を奪った」

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