01話 六人の主人公を紹介
――目が覚めると、そこは異世界だった。
異世界への転生を誰よりも望んでいたから、誰よりもその覚悟があったから、男はすぐに気付くことができた。
周囲を見回すと、そこにはアスファルトで舗装された道路も、コンクリートで固められた建物も存在しなかった。
男は、石造りの建物に挟まれた石畳の道の上に立っていた。
道を歩く住人は、獣の耳が生えていたり、尻尾が生えていたり、この異世界には多様な種族が存在するらしい。
その世界はまさに、男が思い描いた異世界そのものだった。
あとは、ここに自分の居場所をつくり、六人の物語を読んでいるだけで良い。
そう、男の願いが叶ったのだ。
七人の願いは墓前で全て叶い、だが、一人の男の願いによって、異世界へと転生されたのだ。
男は、物語を読み始めた。
それは、プロローグ。六人の主人公を紹介するものだった。
――スキル『絶対的強者』を得た十七歳の少年。
その拳は、一振りで全てを吹き飛ばすことができる。どんな物理、魔法、兵器による攻撃も、その一振りで消し去ることだろう。
最強の矛は、最強の盾にもなり得るのだ。
その拳で弱者を助けるも良し、ただ強者を求めるも良し。
その拳一つで、この世界の平和の象徴になることもできるだろう。
ただし、使い方を見誤れば、悪の象徴ともなり得てしまうのだが。
――スキル『結果予知』を得た女性棋士。
二十四時間後までに限るが、全ての事象の結果を知ることができる。
一国の王お抱えの占い師になるも良し。自らが国を統べるも良し。
彼女のスキルでこの世界の命運をも変えることができるだろう。
ただし、決して覆すことのできない最悪の結果に直面しなければの話だが。
――スキル『絶対的カリスマ性』を得た二十八歳の実業家。
彼の命令で、全ての人間が思い通りに動く。
一度に動かすことができるのは十人まで。そしてその効果は一日が経過するまで消えない。
発動させるには、人への恩義を持ち続けることが絶対条件となる。
それでも、一国の王をも動かすことができるそのカリスマ性により、彼の思い通りの世界をつくることもできるだろう。
彼の重んじる、恩義を持ち続けることができればの話だが。
――スキル『完膚無きまでの復讐』を得た二十歳の女子大学生。
彼女は、一日一回、死んでも生き返ることができる。そして、彼女を殺めた人間に呪いを与え、不幸にすることができる。
彼女は最も恐ろしいスキルを持った。
彼女の目には、この世界の男性は皆、自分の首を絞めた忌まわしい男の姿に映ってしまうのだから。
――スキル『人の幸せ』を得た六十一歳の男。
その男は、人の願いを叶えることができる。
それは、一人につき一つまで。そして、一日に一人まで。
人の願いを叶えていけば、いつか、彼の望むものが手に入るかもしれない。
だが果たして、彼は最後まで、人の幸せだけを望むことができるのだろうか。
――スキル『絶対的反発』を得た十六歳の少女。
少女は、全てのモノを跳ね返すことができる。
あらゆる物理攻撃、魔法攻撃を跳ね返すのだ。人から向けられた悪意をも跳ね返す彼女のスキルは、彼女が反発する相手が放つモノに限られる。
それでも、あらゆる物事に反発する彼女は、この世界で最強と言っても過言では無いだろう。
反発していない相手からの反発。そう、裏切りが無い限り。
――スキル『物語り』を得た三十二歳のニート。
男は、同じ異世界に転生した六人が紡ぐ物語を即時に読むことができる。
記録された物語を読むこともできるが、これから起こる事を読むこと、物語に干渉することはできない。
ただ一人、その物語を読み続けるも良し。物語りとして各地を旅するも良し。
ただし、物語には必ず最終話がある。果たして、男が巻き込んだ六人の最終話は、ハッピーエンドか。それともバッドエンドか。
はたまた、物語りのリタイアによる、打ち切りか。
この先、六人の主人公がどのような異世界生活を送るのか。いずれ、主人公同士の関わりも出てくるだろう。
誰かが世界を滅亡へと導き、誰かがそれを阻止すべく立ち向かうかもしれない。
自らのその能力を封印して、ただ平和に過ごすことを望むかもしれない。
これから、リアルタイムで更新されていく物語。
大きな期待だけを胸に抱き、男は異世界生活の記念すべき一歩目を踏み出した。
普段、部屋とトイレの往復しかしないその男は、石畳のでっぱりを回避できず、躓いた。
運動不足のその巨体を支えることは叶わず、男は石畳に頭を強く打ち、絶命した。




