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183話 準備(三)

「草原の交わりが……ゴール、だと!?」


 アオイに説明されたのは、新しい異世界の終わり方、いわば終着点。

 その中でも一番単純で簡単なのが、草原の交わりに立ち入ることなのだという。

 ただし、さすがのロキでも、それが不可能であることはわかっていた。


「でもよぉ……草原の交わりって、見えない壁に囲まれてて入れねえよな? オレのスーパーパンチでも破れなかったぜ」

「名前だっさ! でも……そう、自分たちの世界の交わりには、これまでどおり絶対に立ち入れない。でもね、相手の世界の交わりには、自由に立ち入ることが出来るの」

「そうか……そのために世界を分けたんだな。……でもよぉ、それだと、すぐにゴールしちまう異転者やつもいるんじゃないか? ヒトにも魔物にも、空飛ぶやつとか、走るの速いやつもいるし」

「さすがロキくん、よく気付きました。パチパチ、ヒューヒュー、スゴイデスネ」


 ニヤニヤと棒読みで褒めるアオイに、だが、ロキは悪い気はしない。

 刺々しく硬質な後頭部を右手の指で掻くと、金属が擦れるような、耳を塞ぎたくなるような異音が発生し、その手を止める。

 しかめ面を覗かせたアオイは、次には時計の表示に目を見開く様子を見せた。



「新しい異世界の一周は、五千キロメートルあるの。つまり、半周――交わりから交わりの距離は何キロメートルあるでしょう。はい、ロキくん?」

「えっと……三千キロくらい?」

「二五〇〇キロメートルだけど……四捨五入すれば、確かに三千くらい……? まぁいいや。うん、かなりの距離があるよね。でも、あんたが言うように、これだと種族によっては数日でゴール出来ちゃう。だ・か・ら――」


 仮想モニターには、何やら箇条書きの文章が表示された。


 ――一つ、魔物は、魔物の世界の交わりの近くにいるほど、能力値が上昇する。最大でなんと二倍!!――


「すっげぇ! レベル五十のオレだと……レベル百くらいになるってことか」

「ま、まさかの正解!? ……そう、この仕様のおかげで、魔物は交わりの近くでウロウロするようになるでしょう。そして、能力値二倍の猛者がウヨウヨいる交わりの近くに、ヒトは簡単には近付けない。でも、それだけだと魔物に有利。だ・か・ら――」


 ――一つ、魔物は、魔物の世界の交わりから離れるほど、能力値が下がる。最大でなんと四分の一!?――


「なんだと!? レベル五十のオレだと……レベル二十くらいになっちまうってことか」

「四捨五入しても違う! 高校生なんだから、せめて二桁の計算は当てよう? ……具体的には、世界の境目で、四分の一まで下がる。でもね、せめてもの救いだけど、その先、ヒトの世界に入ってもそれ以上は下がらないようになってるの」

「ヒトも魔物も、ゴールさせる気ないだろ絶対! でも……コリーなら、余裕でゴールするんだろうな……」




 ――ロキが異世界の地を踏んだのは、運営開始から二か月が経過してからのこと。

 コリーという化け物じみた異転者が異世界で暴れまわっている、という話を聞いたのがきっかけだった。

 

 案内人のアオイから、コリーの大種族が『ヒト』であることを聞くと、迷わず『魔物』を選んだ。

 ひたすらにヒトを襲い続け、たったの二か月間でレベルを五十まで上げると、予定どおり、魔族の上位種である悪魔への転種も果たす。


 コリーのレベルが六十五まで上がっていたが、色々と無頓着なコリーは上位種族への転種はせずに、オークのままを貫いていた。

 オークも十分に強いのだが、ロキが転種したのは肉弾戦最強格の種族。ただ真っ向勝負するだけならば、そのレベル差でも対等に闘えるはず。


 と、いうのが、アオイの目論見だったのだが――


「ぶわっはっは! お前、つえぇな!」


 接敵直後、コリーに誉められ悪い気がしないロキだったが、喜びはつかの間。

 次に続いた案内人との会話に、耳を疑い激昂する。


「――半分、てとこか。おい、レイチェル、えっと……レベル二十で!」

「いや、二十五だからね? いい大人なんだから、せめて二桁の計算は当てよう?」


 あろうことか、ハンデとして、自身のレベルを相手の半分まで下げると言うのだ。

 しかも、案内人のツッコミを無視して、宣言どおりに半分以下のレベル二十まで。


「よ、四分の一まで下げやがった!?」

「半分でも四分の一でもないからね?」


 怒りが沸点を超えると、だが、ロキは逆に落ち着きを取り戻した。単細胞で深く考えないのが、ロキの短所であり長所なのだ。


現実あのよで後悔しろや!」



 三十分にも及ぶ激闘の末に、コリーはロキの実力を認め、レベルを元に戻す。

 だが、圧倒的な力の前に、一瞬にしてロキの意識は途絶え、勝敗は決したのだった――

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