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17話 緑の国 4

 またも良いところで話を止めると、五分間の休憩を挟んだ。

 物語りに集中しすぎて気付かなかったが、神の家には語り始めたときの二倍、四十人もの獣人が集まり俺の話を聞いていた。


「ゴースト、成仏したってことか?」

「跳ね返す女の子が何かしたのよ!」

「桜の国のドクター、世界のことを詳しく知っていそうだな」

「青の国は後回しで良いから、ドクターの続きを話してほしい!」


 異世界人のザワザワは、もっともだ。

 俺も昨日までの出来事を読み、この世界のことを知ったときには大声を上げて驚いたものだ。

 その後すぐに、完全武装した神父が部屋を確認しにやってくるほどだった。


 五分の休憩の後、俺は物語りを再開した。

 当然それは、ザワザワリクエスト第一位。

 緑の国、ドクターとの対面の続きだった。



「――転生者……やっぱり、ここは異世界なのか?」


 ドクターと呼ばれていた白髪の男性が言い放った問いが、その事実を物語っていた。

 『ギャ』たちを筆頭に、この世界には現実離れした物事が多すぎる。

 予想はしていたものの、やはりすんなり受け入れることは出来ない。


「くくっ。混乱するのも無理は無い。それに、この国が一番現実に近いだろうからな。でも、例えあり得なくても、もはや君もこの世界で生きていくしかないのだよ」


 ドクターの足下、網の中では、


「死ぬまでにあと何回なんきゃい瞬きできるキャ……」

「あと何回なんきゃいギャって言えるキャ……」

何回なんきゃいオナラできるキャ……」


 ギャたちは、最後まで全力で生を謳歌するようだ。

 こいつらがいつの間にオナラをしていたのかは置いておくとして、まず一番気になったことを質問する。



「それで、なぜ僕が転生者だと?」

「おや? さっき、聞いていただろう。ただ珍しいからと言って、黒髪をここに連れてきた者に大金を払うと思うか?」

「なるほど……と言うことは、転生者は漏れなく黒髪。日本人、ということですか?」

「この世界では、そうなのだろうな」

「この世界……」


 何やら含みのあるその言い方が気になるが、今はそれよりも気になることだらけだ。


「僕は、まさに今日、この世界にやって来ました。願いを持った七人が乗るバスが、たぶん、事故に遭って……」

「そうか、今回はそんなパターンか。しかし、インプと一緒にここにやって来るとはね。君の運命もなかなかのものだ。いや、わたしの運命、と言っても良いかもしれないな」

「……あなたも、転生者ということですよね?」


 ドクターの年齢は五十代前半と思われる。その頭髪を初め、あごに蓄えたひげも見事な白髪だった。

 まさか、転生者だと悟らせないために、わざわざ白く染めているのではないだろうか……


「くくっ。いろいろと訳がわからないだろう? 初日にわたしに出会えるとは、君は幸運の持ち主だよ。わたしが知る範囲で、この世界のことを教えてあげよう」


 ドクターは先ほど入って来た扉を開けると、奥の部屋に案内してくれた。



 そこは応接室兼ドクターの居住スペースらしく、何の革かわからない革張りのソファがテーブルを囲んでいた。

 流しと調理スペースが付いていて、やたら古臭い冷蔵庫や洗濯機のようなものも置かれている。

 部屋の正面にだけ扉が付いていて『かわや』と書かれていた。

 壁から壁に張られた縄には、洗濯物が干されている。


 やたらと生活感が溢れたその部屋は、先ほどの研究室とのギャップがすごい。

 他に目に付くのは、部屋の隅にある古びた樽だった。

 ぬか床か、あるいは酒でも貯蔵しているのだろうか。


 ドクターは、冷蔵庫から何やら緑色の液体が入った容器を取り出すと、二つのコップに注ぎ、うち一つを僕の目の前に差し出した。


「キュリー名産のキュリー汁だ。キュウリと言うよりキウイに近い。甘くて美味しいぞ?」


 それ証明するように、まずは自分のコップに口をつけ、「うーん、甘い!」と唸っていた。




 ソファに腰掛けると、ドクターは先に「これは全て憶測だ」と断り、この世界のこと、まずは『転生』について話してくれた。


「五十年に一度、何らかの手段で七人が集められる。いずれも『強い願いを持つ者』というのが共通点だが、詳しい人選はわたしにもわからない。その七人は現実世界で命を失い、この世界に転生する」


 何らかの手段というのが、今回はパワースポットのご開帳ということか。


「その七人は、いずれも願い得た『力』を持って、四つの国にバラバラに転生する」

「願い得た力だって!? まさか、僕にもそんな力が?」

「ん? まさか、まだ自分の力を知らないというのか? くくっ。それで、よくもインプに殺されなかったものだ……それが、君の力なのかもしれないね」


 墓前で願ったこと。

 それは、人への恩義を忘れずに、全ての人の道標になることだった。

 絶対的なカリスマ性を得たい、とも考えていた気がする。


 ということは……よくわからないが、僕の模範的な行動に、周りの人が従ってくれる。そんな感じだろうか?


 そうか……ギャたちと会話できるのは謎だが、従順で素直だと思ったのは、それが僕の力だったと言うことか。

 ここに連れてきてくれたあの三人も、僕の質問には何にでも答えてくれた気がする。


「気付いたかな? あぁ、君のその力を明かす必要は無い。この世界では転生者同士、敵とも味方ともなり得る。自分のその身、守るのはその力だけだからね」

「……敵? でも、なぜあなたは……」

「わたしの力は、攻撃にも守りにも向かない、ただ生存に特化したもの。敵をつくるより、味方をつくる方を選んだのだよ。あぁ、一つ教えておこう。転生者の力は、転生者にだけは危害を及ぼすことが出来ない。危害には操作のようなものも含まれる」


 と言うことは、ドクターに何かをお願いしても聞いてくれないと言うことか。

 危害に操作を付け加えた辺り、もしかすると僕の力になんとなくの見当をつけているのかもしれない。



「この世界、一言で言うならば――無情だ。転生者自身は平和を望み、その力を使わないことを選択することも出来る。だが、それを許さない転生者もいるのだよ」

「何を言って……なぜこの世界に転生されたか、その理由、目的はわかりません。でも、転生者同士が敵対する理由なんて……」

「それが、あるのだよ。まずは――この世界、四つの国には『変異種』と呼ばれる生き物がいる。それは聞いているかな?」


 その話は、キュリーまでの道中で聞いていた。

 他の国のことは詳しく聞いていないが、少なくともこの緑の国の変異種は、目の前でキュリー汁を飲み「甘いギャ!」とはしゃぐギャたち。

 『不死のインプ』なのだ。


「変異種が討伐されるとすぐに、別の変異種が生まれる。国には必ず、変異種が一体は存在するんだ」

「……たしか、今の変異種たちはどれも、百年以上生きていると聞きました。つまり、ここ百年は討伐されていないということですか?」

「うむ。相性もあってね、ここ百年、変異種を討伐できていないのだよ。くくっ、何度殺しても生き返るんだ。こんなの、どうやって討伐したら良いと思う?」

「もしかして百年もの間、こいつらを殺し続けているのって……不死の薬をつくるためではなくて、インプを殺す手段を探しているのですか?」

「くくく。そのとおりだ。とは言え、薬の開発もちゃんとやっているさ。表向きにはそうしておかないと、王に追放されてしまうからね。インプを討伐してしまったら、新しい変異種が生まれてしまうのだから。変異種は災害と同じ扱いなんだよ」


 力を持って異世界に転生する、その目的が変異種を討伐するため?


 いや、少なくともギャたちを討伐する理由など無いのではないか。

 攻略法がわかっているし、不死の謎を解明する貴重なサンプルだし、新たな変異種をわざわざ生み出したくないだろう。



「まさか……変異種を討伐するメリットがあるとでも? そうか、討伐すると現実世界に戻れるとか!」

「わたしもね、長く生きてはいるが、全てを知っているわけではない。これは全て、起こった出来事から知り得たものだ。推測に近い部分もある。

 まず、変異種を討伐するとどうなるか――その変異種が持つ『力』を得ることが出来るのだよ」

「――!? つ、つまり……ギャたちを、インプを討伐すれば、不死の力を得ることができると!?」

「そうだ。わたしと一緒にこの世界にやって来た六人。今、生きているのはわたしともう一人だけになってしまった。その、もう一人はね……変異種二体を討伐して、二つの力を得ている」


 つまり、元々持っている何らかの力と合わせて、三つの力を持っているということか。

 ……転生するタイミングは、五十年に一度。

 目の前のドクターの姿から、おそらく五十年前に転生したのだろう。


 変異種を討伐する意味、いや、メリットがわかったとして――問題は、『転生者が敵対する意味』だ。

 考えられる理由は二つあった。


 そのうちの一つは、考えたくもない最悪の憶測だったのだが……

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