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177話 或る意識世界

 青く美しかった球体――今は、まるで命の灯火が消えてしまったかのように暗く、灰色に佇んでいた。

 もはや変わり様のないその映像は、時を刻んでいるのか、はたまた停止しているのか。

 やがて、仮想モニターの映像は暗転した。



 果たして、映像には何の意味があったのか。

 会場の異転者いてんしゃたちは、ただ首を傾げると、次の展開を待っていた。

 それは、会場の中央でその視線を司会者へと向ける、ランキング上位者四人も同じ。


「……せ、静粛に。とり、とりあえず、お、お、落ち着くべし」

「うん。とりあえず、アオちゃんが落ち着こうか」


 会場の一部は、司会者の美少女がひどく慌てる姿にざわつき始めた。


「まさか、さっきの映像は司会者にも知らされていないものだったのか」

「何か良からぬことが起こる前兆ではないのか」


 などと騒ぐのは、そのうちのごくごく一部。

 その多くは、


「あの、表情も感情もダイヤモンド並みの硬度を誇ると言われる美少女が慌てているだと?!」

 

 という、まるでツチノコでも見たかのような反応をして騒いでいたのだ。



 さらに、次の瞬間。どこからともなく大きな声が上がり始める。


「おい、転送出来ないぞ?!」

「嘘!? まさか、も、戻れない!?」


 何故に、このタイミングで現実に戻ろうと思ったのか。それは不明だが、そんなことを試した誰かが、その事実を証明した。


 さらにさらに。続いて、


「ちょっと待って……感覚が、あるんだけど?」


 一人の呟きに、会場のざわつきは騒動へと転ずることになる。




 意識世界につくられた異世界には、大きく二つの制約があった。

 一つは、異世界に転送可能なのが一日に最大八十分までという、時間的な制限。


 もう一つは、異転者同士――厳密には同じ大種族であるヒトとヒト、魔物と魔物の間では、危害を加えることが出来ないこと。

 そもそも、触れることすら出来ない仕様となっていた。


 そして、これは制約ではないが、移転者には痛みを含めた一部の感覚が付与されていない。

 ヒトが魔物から致命傷を負えば命を落とすこともあるが、まさか、死ぬほどの痛みをリアルに再現など出来ないのだから。


 それが、今は――どうやら、異転者同士が触れ合うことが出来て、しかも感触やら感覚もあるというのだ。


 また、ご丁寧に、現状を把握すべく上空に飛行する鳥タイプの異転者も現れた。

 結果は大方の予想どおり、およそ高度500メートルで、見えない壁に遮られた。

 とはいえ、そんな行動の副産物として、もう一つの重大な事実が判明する。



「はぁ、はぁ……ああ、疲れた…………疲れた、だと?!」


 真っ先に飛行して元の席に戻った鳥人が、息を切らし漏らした独り言。これも、驚愕の事実を表すものだった。


 異世界には、疲労という概念が無い。

 これは、限られた時間を最大限有効に使うための一仕様だった――筈なのだ。

 



 これらの事実たちが明らかとするのは、たった一つの真実。

 ただし、異転者たちがその真実を受け入れるには、もう一つの事実――原因を知る必要があった。


 それでも、異転者の多くは原因それすらも予想が出来ていた。

 何故ならそれは、ついさっき見たばかり。見せられたばかりなのだから。



 いつの間にか、先程までの騒動もざわつきもどこへやら。異転者はまたひっそりと、司会者二人の様子を伺っていた。

 未だに慌てた様子を隠せない美少女と、それを宥めるイケメン。

 その様子が、今の非常で異常な事態を物語っていた。


 美少女の呟き――それは、問答に似たもの。

 だがそれは、異転者が原因と真実を知るには十分な情報だった。




 切り離された意識が、この意識世界で本体へと成り代わった。

 何でそんなことが起こったのか、説明がつかないのは分かってる。

 だけど、だからって、それこそあり得ない……あり得ないけど……でも、そう考えるしか、無い……?


 あの映像は、現実リアル

 だから……異転者が戻る地球げんじつが、本体からだごと滅亡したから……。

 死してなお、この意識世界――いや、異世界で生を得た現象。


 それ則ち――異世界転生……?

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