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175話 必然

 墓男はかおとこが謎世界で生き残ったのは、偶然に違いない。

 ただし、その導きの始終を見ると、全てが必然だったようにも思えてしまう。


 二十四年と二か月の後に生き残りとなった墓男は、キィの導きを受けて、世界の始まりに立ち入った。

 管制室を交えた議論の末に、墓男は願い、胎児として元の世界へと戻った。

 赤子として意識世界に再び生を受けたのは、およそ十か月後。


 謎世界をつくった誰かは、五十年、そして七という数字に妙なこだわりを持っている。

 墓男が産まれたその時は、五十年という歳月のちょうど中間、二十五年が経過する瞬間だったのだ。



 墓男は、以前の意識世界での、さらには謎世界での記憶を一切有していなかった。

 それは、導き手であるキィも言っていたことであるとともに、本来の意識世界における転送のルールでもあった。


 管制室では極力、墓男には干渉しないことを決めていた。余計なことをすると、せっかく持ち得た力を失う可能性もあったから。


 それでも、たった一つだけ。謎世界の記憶だけは、男の意識へと戻すことにした。


 ただし、戻そうにも、謎世界で送った日々の記憶は一切の情報化がされていない。

 戻したのは、世界の始まりでの記憶――フタバが瞬きすることなくしっかりとその目で捉えていた、視界映像だった。



 物心がつくと、男は、自身が異世界からの転生者だと悟ったようだ。

 同時に、自身の寿命が五十年だと悟る。

 そして、余計な願いを叶えることの無いように、自身の耳を潰した。


 全てが、世界の始まりで考えたシナリオどおりだった。それでも、残された人生の過ごし方には、決まりなどは設けられていなかった。

 男は、ただ穏やかに、幸せな時を過ごした。



 五十年を目前としたある日。

 男には妻子、そして十歳になったばかりの孫がいた。

 男は孫に、お願いをした。それは、男の最初で最後の願い。


 自分が死んだその日――五十年後の命日に、自分の墓に、強い願いを持つ七人を連れてくるように、と。

 たかだか十歳の孫が、そんな願いを実現するとは到底思えない。墓男も、そんなことはわかっていた。

 墓男の願いは、世界保存機関が叶えた。


 機関は、村に大金を払い、男が埋葬された地を買い占めた。

 そして、人の立ち入れない施設を建設すると、その中に、男の墓を設けた。


 五十年後、男の墓前で、願いは叶うことだろう。

 体は朽ち果てても、その意識は墓石に残されたまま。そして、意識に付随するように、願いを叶える力も残り続けるのだから――




 世界の始まりでの議論は、およそ半日間続いた。

 謎世界を終わらせるには、女神を復活させる必要がある。

 そのために必要となるのは、蘇生の力、あるいは女神が生きていたその時まで戻す力。

 女神を復活させる力を持った時点で、おそらくだが、大神父により世界の始まりへと導かれるのだろう。


 ならば、出来ることは、そんな力を有する黒髪が現れるのを待つことしかない。それとも、そんな力を持つ変異種を見つけ、討伐するしかない。


 やはり、管制室では、指を加えて見ていることしか出来ないのだろう。

 何故なら、謎世界をつくった誰か――その神でさえ、その力を待ち望んでいるのだから。


 ただし――果たして、ただ待つだけで、そんな力が現れるのだろうか。

 蘇生の力が現れたとしても、果たして、女神を復活させるだけの力量を持ち得ているのだろうか。


 それは、伊君伊蔵イキミイゾウの力により抱いた疑問。

 あまり考えたくはない。謎世界攻略が簡単ではないと思わされる回答しか導けない、そんな、疑問だった。



 イゾウの力は、触れた対象の時を最大で一年間戻すことが出来る。一度戻すと、その対象を再び戻すには、半年間のインターバルが必要。

 その力では、女神が生きていた時まで戻すには、現実的ではない期間を要する。

 だからこそ、生き残りとなるまで、導かれることもなかったのだろう。


 それでも、イゾウのそれは、女神の復活に最も近い力と言える。

 今はまだ、力量を持っていないだけ。 

 そう――変異種の一新という事象により、その力量を高めることで、女神の復活を可能とするかもしれないのだ。



 大神父の事後報告では、変異種が一新すると、謎世界の外側の見えない壁が移動する。そこに生息する変異種を討伐し吸収しながら、外側に移動するというのだ。


 一新することで、黒髪の力は強化される。新たに現れる変異種は、これまでよりも比較的に強くなるのだという。


 それは、力も変異種も、レベルが上がるようなものではないか。

 つまり、一新により、いずれも力の力量が上がっていく。

 そしてそれは、新たにやって来る七人の力だって例外ではないのではないか。

 初期の力量も、比較的に高いものとして宿るのではないか。


 勿論、変異種がどんどん強くなるのは厄介すぎる問題だ。

 それならば――




 議論の末に、管制室は今後の方針を決定した。

 それは、かなりの長期に及ぶであろう計画。

 そのために、墓男には『人の願いを叶える力』を宿し、元の、四百年前の意識世界へと戻ってもらうことにした。


 神とやらが、七人を送る五十年という周期のちょうど中間に、新たな周期をつくりあげる。

 墓男の墓石に願い、必要な力を七つ、謎世界へと送るのだ。


 それは、女神を復活させる力ではなく、変異種を一新させるだけの力。

 その時に生息する四体の変異種を討伐する力に加えて、必須となる力が二つあった。


 一つは、見えない壁を切り取る力。

 目的である変異種の一新を果たしたら、速やかに、七人全員で世界の始まりに立ち入るのだ。

 立ち入った時点で、現世の保存装置内の七人は仮死状態へと戻る。保存装置の電源を切るだけで、七人は謎世界から帰還出来るのだ。

 次にはまた、五十年という周期で、その時の変異種を一新する力を送る。


 ただ、それを繰り返すのみ。

 いつか、イゾウの力が強化され、一度に数千年という時を戻すことが可能となるかもしれない。

 より強い力が選ばれるようになり、いつか、蘇生の力が現れるかもしれない。

 だから、ただ、繰り返すことを決めたのだ。



 必須となる、二つ目の力――いや、それは力ではなく、単なる願いだった。

 異世界生活を熱望し、他の六人と共に、死して異世界へと転生する、という強い願い。

 そんな願いが叶って初めて、謎世界の攻略が始まる。


 誰よりも謎世界の攻略を願い、誰よりも異世界転生を望む男――ヤマダタロウは、謎世界へと向かうことを決めた。

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