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173話 百年前の出来事

 ……あ、か……赤、い……?


 誰かの心の声が聞こえると、管制室は安堵の溜め息に包まれた。

 だが、直後には、大きな疑問も抱くことに。


 謎世界をつくった誰か――時止めの無効化やら解除やら、強制転送やら、こちらの意識世界には干渉し放題な、誰か。

 そんな誰かは、何故、我々のこの行動を許容したのか。

 組み込んだ機能を排除することなど容易かった筈なのに――



 もしかすると、その誰かは、本当に『女神の復活』を望んでいるのかもしれない。

 だから、敢えて有利となるような機能を残した……?

 でも、それならば、さらに有用となる再生機能こそ残したのでは……?


 もしかすると、全てが些事であると、見逃されたのかもしれない。

 たかだかそんな機能で、謎世界の攻略など出来る訳がない。そう、判断されたから……?



 その答えは、すぐにわかった。

 場の空気を読んでか、暫しの間黙っていた集中管理意識体が言い放った。


「一部機能の実体化は許容してやった……ってこと? この人――いや、たぶん七人とも、特殊な力を宿していない」


 その後に判明したのは、七人とも、組み込んだ機能は見込みどおりに実体化したこと。

 そして、誰一人して、機能以外には一つの力も宿していなかったこと。


 つまり、答えは警告。余計なことはするな、というところだろうか――




 三十余年が経過した。

 当時最年少だった少女が生き残りとなり、黄の国の大神父キィに導かれ、世界の始まりへと立ち入った。


 久しぶりに起こされたフタバにとって、およそ百年振りの来客だった。だが、事情を知るからか、その姿は消したままだった。


「――大変でしたね。疲れたことでしょう。ですから、えぇ、端的にお話します。

 生き残りとなったあなたは、そうですね――選択する、権利を得た。そう……次の人生を選ぶことが出来るんだにゃーん! ……ゴホン。

 容姿、環境、全てがあなたの望むままに、生まれ変わることが出来ます。ただし、残念ながら、これまでの意識――いや、記憶だけは引き継ぐことは出来ません。

 わたくしは暫く姿を消しておりますので、ゆっくり、時間をかけて考えてください。そしてあなたの望みを、選択を、私に教えてください。

 それではまた後程、お目にかかります」



 大神父たちには、新たな七人の事情ことを伝える手段が無かった。

 それでも、さすが大神父というべきか。三人・・は、それぞれの感性で全てを察してくれていたのだった。

 カインは、謎世界のことを何も知らない筈の七人が、それぞれ真っ先に転送した各国の神父を頼った、という事実から。

 コリーとキィは、直感なんとなく



 熟考を始めた少女から少し距離を置くと、キィはその姿を消した。

 フタバに組み込まれた機能は、触れたものの姿を消すことも出来るのだ。

 少女には見えない仮想モニターで、少女には聞こえない声で、キィは実に一三〇年振りに、管制室との会話を始めた。



 先ずは、これまで謎世界で起こった出来事が、キィの口から語られた。


 先発調査隊のゴロウが、変異種に寄生されたこと。記憶と共に機能も失い、黒髪の一人に成り変わってしまったこと。

 ミドリは、自らの意思で変異種に寄生されることを選んだ。記憶を失い、恋に落ち、妊娠し、お腹の子供に残滓が宿り、出産直後に命を失い、その直後に時を止められ、今は残滓のお腹の中。


 あまりの衝撃的な事実に――というよりも、全くをもって意味のわからない話に、「ゴロウが主人公の異世界小説……さて、タイトルをどうするか……」と、一人脳内が異世界おはなばたけのヤマダタロウを除き、言葉を発する者は居なかった。



 次に、管制室からは、これまでの経緯が説明された。ほとんど為す術も無かったため、話はすぐに次の対策へと移る。

 当然ながら、次に出来ることも限られている。

 議論すべきは、機能を取るか、力を取るかの二択。


 機能を組み込めば、力は宿らない代わりに、謎世界において比較的にだが平穏に生きることは出来る。

 ただし、そんな七人には、謎世界の攻略は一切期待出来ない。

 何故に、巻き込まれたのに、何も出来なかった無能な人達のために、自分たちが何かをしなければいけないのか――七人いずれも、心の声が訴えていたのだ。



 機能を組み込まなければ、特殊な力を宿すことが出来る。

 なんとか生き延びようと、ひっそりと謎世界に生きる者もいるだろう。自らの数奇な運命を呪い、自分の置かれた状況をなんとかしようと動く者もいるだろう。

 透明な壁を通り抜ける力が現れるかもしれない。女神を復活させる力が現れるかもしれない。


 どうせ何も出来ずに、たった一人の生き残りしか助からないのであれば――



「タコさんのしたいようにすれば良いよ。得意でしょ? 誰も思い付かないような、面白いことするの。ねっ!」


 ズッ友のキィらしく、ひどく軽い、だが思いのこもった言葉に、ヤマダタロウは応えた。


 出来る出来ないじゃなく、やるかやらないか。そして、どうせやるなら楽しくやるに限る。

 口を尖らせてにやけるタロウは、とある提案をした――




 大型モニターのカウントダウンが消えると、暗転した画面には何も映っていない。

 今回、過去の時代の誰一人として、機能を組み込まなかった。

 謎世界に視界が無い今、情報を得る手段は存在しない。


 次に何かを知るのは、生き残りが世界の始まりに立ち入ったとき。

 あるいは、また五十年後か、誰かが透明な壁を通り抜けたとき。

 はたまた、誰かが謎世界を攻略した、そのとき――



「――良いこと思い付いた!」


 タロウの提案。

 特殊な力は、七人が死ぬ間際に願ったもの。ならば、願い得ればいい。

 想いを、願いをコントロールして、好きな力を得ればいい。


 おそらく、一度に同じ力は二つ存在しない。七通り考えて、過去の時代の意識体に願ってもらう。


「一つは、壁を通り抜ける力だよな。あとは蘇生と……願いを叶える力なんてのも良いかもな。

 あぁ、忙しくなってきた。いや、楽しくなってきたぜ!」



 ――結局のところ。

 タロウの思惑どおりにいくことは無かった。

 強制転送の対象となる七人は、死にゆく直前、間違いなくタロウ達が考えた願いをもっていた。

 タロウ達が十数年という歳月を費やして考えた、七つの願い。


 だが、死にゆくその瞬間、七人だけは、本当の思いを、願いを持ったのだ。


 それでも、たった一つだけ。たった一人だけ、タロウ達が望んだ力を有した男が居た。

 偶然か、はたまた必然か。その男は生き残りとなった。


 口にした願いを叶えるという力を有し、だが一切口を利くことが出来ない。

 男は、世界の始まりで口を利くことを許され、そして、願った。


 人の願いを叶える力を持ち、元の世界に戻りたい、と。

 それは、二つの願いだった。

 男の力で叶った願いがどちらなのか、選択として受け入れられたのがどちらだったのかはわからない。


 だが、それらは叶った。

 男はまた、四百年前の意識世界へと戻った。

 それは、百年前の出来事だった――

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