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171話 世界の始まりで何が出来るか

 ――今から三〇〇年以上も前のこと。

 人工意識体である八人は、先発調査隊という重要な役割のもと、謎世界へと送られ実体化した。

 八人に組み込まれた様々な機能のうちの一つが、活動限界――所定の時が経過すると、全ての機能が停止するというその機能は、謎世界で実体化し、寿命へと変わった。


 永年を除くと最も長い、十年の寿命を持ったという二葉フタバが、何故、三百余年が経過した今も生き続けているのか。

 その理由は明白。世界の始まりが意識世界だったから。



 八人の異なる活動限界を考えたのは、ヤマダタロウだった。その中から、人工意識体の八人が、各自が好きな期間を選んだ。……若干一名は、たったの一時間という残りものを押し付けられたようだが。

 八人は、選んだ活動限界を、自身の体に自分自身で設定した。意識世界内であれば、いつでも、何度でも好きな期間に設定し直すことが可能。


 謎世界で実体化することで寿命へと変わったそれは、だが、再び意識世界へと立ち入ることで、再度設定することが可能となったのだ。

 



 謎に浮かぶ二つの球体と、静寂しか存在しない世界の始まり。

 其処で一体何が出来るのかはわからなかった。それでも、謎世界の鍵を握る場所であることには違いない。

 フタバは、独りになると直ぐに、自身の活動限界を永年へと変更したのだった。


 

 次にフタバは、眼前に仮想モニターを出現させると、管制室の面々と顔を合わせての作戦会議を始めた。


 世界の始まりで何が出来るか。

 一つ、世界の始まりを隅々まで――それこそ空中から地中の全てを調査する。

 一つ、次に立ち入った者との接触に備える。

 一つ、仮想意識体『タロウくん』を出現させて八つ当たりする。


 最後のそれは、本当に何もすることが無い時に、満を持してやることだと片付けられた。

 二つ目も、次の機会がいつになるかも不明なため、さて置かれることに。

 

 一息吐くと、「面倒ね」と呟くフタバだったが、組み込まれたあらゆる超高性能な機能を駆使し、たったの一日で世界の始まりの調査を終えた。



 わかったこと――世界の始まりを囲う透明な壁が、直径一キロメートルの球体であること。

 透明な壁には、空中にも地中にも、どこにも僅かな隙間すら無いであろうこと。

 どんな機能を持ってしても、透明な壁と二つの球体には一切の干渉が出来ないこと。


 これらは全て、予想どおりの結果だった。

 つまりは、最早、次に誰かが立ち入るまでは何も出来ることは無い。

 フタバは、仮想タロウをいじめるのも、管制室の誰かとおしゃべりして過ごすことも選ばなかった。


「じゃあ、何かあったら起こしてね。出来ればシンジーの声で!」


 最後に小さく微笑むと、透過機能を発動させてその姿を消し、そして、全機能を停止させることを選んだ。

 管制室からの呼び掛けがあったとき。あるいは何者かが立ち入り、気配を察知した、そのときまで――




 そのときは、およそ二十年後に、唐突に訪れた。

 生き残りとなった伊君イキミ伊蔵イゾウが、大神父カインの導きにより、世界の始まりに立ち入ったのだ。


 あまりに急な出来事に、管制室の呼び掛けよりも先に、気配察知機能により目覚めたフタバ。


 姿と気配が消えていようが、間違いなく、この意識世界をつくった誰かは、フタバの存在などとうに認識しているだろう。その誰かから、大神父四人にも情報が入っているに違いない。

 それでも、万が一にも知られていないことを考えて、フタバは透過機能を発動させたまま、二人の様子を伺っていた。


 結果は――フタバ、そして管制室のレイチェルが激昂しただけ。その怒りを仮想タロウくん、そして現実いしきタロウくんにぶつけて終わっただけだった――



 それから、およそ三十年後。

 過去の意識世界から七人が、そして先発調査隊の八人が謎世界にやって来てから五十年が経過する直前のこと。

 それは、意識世界の運営開始から百年が経過する一時間前のことだった。


 管制室の大型モニターには、百年の経過が大きくカウントダウンで表示されていた。

 まさか、百年記念を祝うものなど誰一人としていない。

 もしかしたら、百年経過と同時に、またも最悪の事態が起きるかもしれない。

 過去の世界の誰かの意識が、謎世界へと強制転送させられるかもしれないと備えてのことだった。


 管制室、そして集中管理意識体の備えは、一日前から始まっていた。

 厳密には五十年前から始まってはいたのだが……具体的な動きを始めたのが二十四時間前だった。


 その時点ではまだ、『干渉不可能な存在』は確認されていなかった。

 出来ることは、二十四時間後に命を落とす可能性のある意識体を見つけること。

 対象は、過去の意識世界の日本人。移住している意識体、そして人工意識体も漏れずに厳重な体制で監視していた。


 当然ながら、寿命を全うする意識体以外の、突発的な死を事前に知ることは難しい。

 その体制がほとんど無駄なものであることは知りながらも、何かをせずにはいられなかったのだ。


 結局、残すところ一時間と迫ったそのとき。

 管制室の呼び掛けで目覚めたフタバも、仮想モニターで状況を確認していた。



「時止めを開始する!」


 ヤマダタロウの合図で――厳密には発声直前に、集中管理意識体により、過去の世界全ての時が止められた。



 もしもまた、誰かが強制転送させられるのなら。それは、百年経過のその瞬間に命を落とした誰か。

 それなら、それを防ぐには、その瞬間に誰一人として命を落とさなければいい。

 とはいえ、やはりそれは不可能に近いほど困難なことだった。


 それならばと、確実にそれを防ぐ手段として考えられたのが時止めだった。


 過去の意識世界でも、現実と等しく同じ時間が流れた。

 例え一時間でも、止まった時間――空白の時間を認識する意識体は多くいることだろう。

 そのために、全ての意識体の空白の一時間を埋めるための情報が事前につくられていた。


 では、何故に一時間なのか。

 特に意味はないが、余裕を持ち、不測の事態にも対処し得る最低限の時間と考えられた。



 そして、まさに不測の事態が起こった。


 過去の意識世界の時は、間違いなく停止していた。

 ただ一つ、四百年前の意識世界を除いては――

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