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162話 転送の結果

「――何か、さらっと、しかも自分で自分のことを『アンドロイド』って言ってたよね?」


 世界の中心では、アオイに引き続き、糸結イトキチ心結ミユウも頭を抱えると、その場にしゃがみこんでしまった。


「あらあら……あくまでもあっちのミュウさんの話で、あなただとは言っていませんよ?」

「そうだよ、こっちのミュウたん。じゃあさ、ちょっと笑ってみて、僕が好きな笑顔ならミュウたん確定ってことで! ほら、笑ってみて!」


 いや、この状況ではとても笑えませんけど?

 キィの言葉にさらに塞ぎ混むミュウはさておき、ミドリの話は続くようだ。



「本当は、わたくし自身のことをもっと掘り下げたかったですが――」


 その場の誰もが、ミドリの掘り下げにも興味があった。

 ただ、それ以上に気になることがあったのだ。


「最後のズッ友枠がミドリなのはわかった。でも――何で、ミドリまでこっちに来る必要があったんだ?」



 他の三人――カイン、コリー、キィは、何故だかそれぞれが同じ名前のズッ友の内に宿っていた。

 そして、ミドリだけは何故か一人、人ではない観葉植物に宿っていたのだ。

 大神父をこちらに転送するには、宿主ごと転送する必要がある。それなら、宿主は植物のままでも良かったのではないか――


「みなさんが考えていることはわかります。でも、もしも植物を転送していたらどうなっていたでしょう?」


 皆が想像を開始した。

 こちらに戻った大神父たちは、本来のからだを取り戻しているようだ。

 さらには、これまで接した感じからは、表に出ていた意識は常に大神父のもの――とは思えるが、そこは定かではない。


 ただし、おそらくだが。今ここ、世界の中心に立ち入ることで、内にいる意識も自由に出入りが可能となるのだろう。


 そんな内に宿る意識たちは、外の世界では、内から出ずとも大神父とあらゆる感覚を共有しているのかもしれない。

 さらには、意識同士で会話のようなものも可能なのかもしれない。


 と、すると――


「ミドっちだけ、植物と共に生きる……にゃっはっは! それはそれで面白いよね。僕、植物転送案に一票入れてたんだよ!」

「あなたとあなたと、コリーとコリーが票を投じたであろうことはわかっています。

 でもね、キィさん。私たちズッ友の役割は、大神父様たちをこの世界へと戻すこと。そして今は、共にその目的を果たすこと」

「わかってるよーん。だからさ、植物はミドっちを内から癒す。すっごい役割じゃーん? って、思ったんだけど――」


 ため息を一つ吐くと、ミドリはキィに会話への出入り禁止を命じ、話を続けた。



「……タロウ博士たちは、大神父のミドリが本来宿るべき先が私であった筈、と考えました。他の三人同様に、名前が同じ、そしてその中身も似通っていたようですね」

「そうそう。大神父のミドっちは、美を司る。このとおり、超絶な美人さん。そして、ミドっちも、手違いでミス日本になりかけるほどの美貌の持ち主だったんだよ」

「その話は忘れてください……というか、出禁にした筈ですが?

 ――植物に宿ったままの転送も可能だったでしょう。でも、それだと一人だけ、何だかアレだよね――ということで、私もその場に呼ばれていたのです。

 大神父様が宿った植物を携えることで、おそらく、植物ではなく私が転送の媒体へと成り代わる」


 結果、それは思惑どおりとなった。

 ミドリが転送したその場所には、植物が植えられた鉢だけがひっそりと残っていたのだという。


 そして、転送の結果にはまだまだ続きがあった。


 ズッ友たちのからだに組み込まれたあらゆる機能は、やはり転送後に機能することは無かった。

 やはり、からだが大神父のものに成り代わったのだから、仕方の無いことだった。


 ズッ友たちは、大神父の内に宿った。

 しかも、一切表に出ることは敵わない。ただし、それも大方の予想どおり。

 そもそも、大神父たちも、ズッ友の内に宿ってから五十年余りは表に出ることが出来なかったのだ。


 そこには何かのきっかけが必要、ということだろう。

 ちなみに、そのときのきっかけは『内に宿る大神父たちの意識の存在が確認された』だった。

 こちらの世界では、何ともどうしようも出来ないきっかけだが――


 ただし、世界の中心に立ち入ることで、その意識も自由に表現出来るようだ。

 本性を現したキィ、そしてミドリはいまいち違いがわからないが、これらが内の意識なのだろう。

 なお、組み込まれた機能たちは、世界の中心に立ち入っても復活することはなかったという。


 

 大神父たちが内に宿っていたときとは異なることもあった。

 まず、初めから、大神父とズッ友の意思疏通が可能であったこと。

 ただ、それは『内に宿っていることを知っていたから』と結論付けられた。


 さらには、大神父たちのあらゆる感覚を共有可能。

 キィが憧れた、ギューブーの肉を焼いた匂いも、噛み締める感触も、溢れ出る肉汁の味すら、まるで自分が食したかのように感じるのだという。


 しゃあ、それならば……と、その場の誰もが思った。

 それなら、内に宿ることで、大神父たちの全てを知ることが出来たのではないか?


 この世界の成り立ち。

 見えない壁の正体。

 女神を復活させる手段と――世界の終わらせ方。


 ただし、誰も、口にする者はいなかった。

 わかっているのだ。

 およそ三百年前に、大神父たちはこの世界へと戻りやって来た。

 でも、まだ、この世界は在り続けているのだから。


 大神父と真の共有を図ることは出来ないのだろう。

 それこそ、何かの『きっかけ』を得ない限り――

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