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160話 現実とは異なる世界

 意識世界内に新たにつくられたのは、真なる空想の世界。

 過去でも未来でもない、現実とは真になる世界。

 過去の時代の意識世界と違うのは、移住を目的としていないこと。

 定住ではなく一時的な、仮の日常生活を楽しむだけの世界としてつくられた。



『現実とは異なる世界で、日常とは異なる生活を送ってみませんか?』



 そんな謳い文句で宣伝がされたのは、異世界の運営が開始される三か月前のことだった。

 ナビゲーターを務めたのは、世界保存機関の副総統兼看板イケメンと、最高顧問兼看板美少女の二人。


『舞台は、日常とは全く異なる空想世界。四色の草原が織り成す幻想的な世界は、何を為すにも自由。さぁ、君は、何をしたい?』

『はいはーい。自由とは言っても、制約が二つありまーす。しかも、大きな制約でーす』

『うん、アオちゃんの言うとおり。一つは時間的制約。そしてもう一つは、他の転送者との接触に関する制約だ』

『まず、あなたたちが異世界に転送出来るのは、一日につき八十分に限る。あまりにのめり込みすぎて、現実と見境が付かなくなるのを防ぐのが目的でーす。常に脳内が異世界おはなばたけなうちの父……を名乗る不審者のようになってほしくないのです』

『でも、八十分はちょっと短いんじゃない? そう思った君、安心してくれ! 実は』

『現実世界の八十分が、異世界での二十四時間に相当するの』

『そ、そう。アオちゃん、僕の分まで説明してくれてありがとう』

『それ、ただ時が早く流れるだけじゃね? そう思ったあなた――正解です。でもね、異世界に転送したあなたの意識は、そうは感じないでしょう』

『そう。一分一秒が、現世と同じ長さだと感じる仕様になっているんだ。だから、八十分でも十分に楽しめる――というか、有識者たちと議論した結果、これがギリギリの転送時間だと判断したんだよ』


 シャカシャカ……カリッ。


『アオちゃん? 何でこのタイミングで飴玉を口に入れたのかな? しばらくは僕に任せる、そう受け取って良いのかい?』

『ガリッ(無言で頷く)』

『オーケー。じゃあ、二つ目の制約だ。君たちは、初回転送時に様々な設定をすることになる。名前、そして、先ずは大種別を選択する。それは』

『ヒトと、魔物の二択なの』

『アオちゃん、飴玉舐めるの早くない? そういえばガリガリ音してたから、噛む派なんだね』


『ヒトは、人間・獣人・鳥人・魚人などなど。そして、魔物は……ロールプレイングゲームのモンスターをイメージしてもらえばいいかな。スライムとかゴブリンとか、あんな感じ』

『ヒトは共通の言語で自由に会話が出来る。魔物たちも、魔物間ではコミュニケーションが可能だ。でも』

『ヒトと魔物は相容れない関係なの。会話が出来ないってのが大きいけど、一番はその存在意義だよね』


『うん。異世界ではね、レベルという概念が存在する。だから、これは異世界への転送というよりは、ゲームをプレイする感覚に近いかもしれないね』

『レベルを上げるには、様々な要件を満たす必要があるの。通常のゲームだと魔物を倒して経験値を得る。でも、ここでは経験値ではなくてポイントを貯めるの』

『そう。例えば、アイテムを何個集めるとか、素材を何種類集めるとか。あと、友達を何人つくるとか、何人から高評価を得るとか』

『ヒトなら、魔物を何体討伐したとか、魔物の巣をいくつ一掃したとか。魔物なら、ヒトを何人、あるいはヒトざとをいくつ襲ったとか』


『前置きが長くなったけど。二つ目の制約というのは、ヒトと魔物は相容れない関係だということ。そして、同じ大種別間では物理的接触が不可能だということ』

『握手とか抱擁とか、そんな真似をすることは可能。でもね、実際には触れていないの。だから、例えば剣で切りつけることも、弓矢を突き刺すことも、炎の魔法で服を焼くことすら出来ない。回復させるアイテムを使うとか、補助魔法をかけることは可能だけどね。』



『――と、言うことで。あとは色々な仕様があるけれど、基本的には何をするにも自由だ!』

『ヒトと魔物でり合う――なんて恐ろしくも刺激的な世界なの?』

『いやいや、アオちゃん? それはあくまでも出来ることのうちの一つだからね。しかもかなり極端なやつ。――君たちは、転送者と楽しいだけの異世界生活を送ることだって出来る』

『ぼっちなら、一人寂しく世界を見て回るのも良いね』

『一人楽しく、だよね。あとは、色々な素材を集めてお店を開くも良し。レベルを上げまくるも良し』

『ヒトで世界征服を目指すも良し。魔物で世界を滅亡させるも良し。あ、ヒトと魔物が仲良く暮らせる世界を目指すのもアリじゃない?』

『それはハードル高いけど、不可能じゃないね。要するに、何でも出来るってことだね!』


 アオイ、カンペ確認中。


『そんな異世界に、いつから転送可能なのー?(棒読み)』

『良い質問だね。それは――』

『三か月後かぁ。待ち遠しいよー(棒)』

『う、うん。でもね、一か月前には事前登録が可能となるんだ』

『えー。でも、登録だけでしょー?』

『それが、実はね、じ』

『スゴーい! 事前に転送準備が出来るんだね。大種別、種別、ステータス、スキル……選んでるうちに一か月なんてあっという間に過ぎちゃうね』

『そ、そうだね。事前登録からは君たち一人一人に専属ナビゲーターが付くから、じっくり準備してくれよな!』

『わー、楽しみー(棒)。じゃあねー』

『ちょっ、確かに話は終わりだけど、終わり方――』




 異世界への転送、そして、異星への第二期移住を終えたその時代。

 世界人口はピーク時の約三割にまで減少していた。とはいえ、元々の人口が多すぎたのだ。

 あらゆる面で本来の余裕を取り戻した人類は、過去に自然災害がほとんど発生していない『七の地域』に大都市をつくり、移り住んだ。


 不自由無く生を謳歌出来るようになった反面、人々は刺激を求めるようになった。

 異世界はまさに、そんな人々の意識を刺激するものなのか。

 あるいはナビゲーターの人気に依存しただけなのか。

 事前登録者は、優に一千万人を越えた。


 そして、一か月という長くも短い準備期間の後。

 三千万を越える人々が、日常とは異なる世界へと旅立った。




『シンジさん、ごめんね。あんな終わり方でもしないと、本当のこと喋っちゃいそうだったから』

『わかってるよ。異世界をつくった本当の目的なんて、絶対に言えないからね』

『うん。まさか、たったの四人を選別するためだけの世界だなんて――』


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