159話 本題
――大型モニターに映し出されているのは、幸せいっぱいに笑うタロウのモノクロ画像。
まるで遺影にも見える画像。その目下では、元気いっぱいに文句を垂れるタロウと、威圧感たっぷりに応えるレイチェルの姿があった。
異世界の大神父とやらが、身近な三人の内に宿っていた。
そんな、超が付く程の特異な事実を知った後だというのに――よくもまぁこんな、超が付く程の日常茶飯事な言い合いが出来るものだ。
逆に感心してしまうアオイだが、目の前で小さな焦りを覗かせる三人を目にすると、思考を切り替えることにする。
一刻も早く本題に入るべき。そう思いつつも、急いだところで事態が大きく変わるとも思えなかったのだ。
それに、その議論をするには、少なくともあと三人の存在が必要。
おそらく、父風の男かレイレイから緊急の連絡がされているだろうから、そろそろやって来るのではないか。
茶番を繰り広げる二人も、おそらく同じことを考えているに違いない。
楽しそうに言い合いを続けつつも、出入り口をチラチラと高い頻度で窺っていた。
アオイも、ふと出入り口を見た、まさにその瞬間――扉が開き、思い思いの言葉と共に入室する三人の姿があったのだった。
「お、今日も仲良くやってるね! ……もしかして、模葬式?」
「年に一度の風物詩ですな。いやはや、一年が経つのは早いものです」
「毎年お疲れ様っすね、模父さん。それより、アオは何をそんなに険しい表情してんだ? また便秘か?」
――三人のうちの二人はタロウ博士のズッ友、シンジウェルさんとマサフスキーさんでした。
そして、もう一人はロッキーさん。
こちらはズッ友ではなく、アオイさんの婚約者で――
「ちょっ! ちょーっ!!! うえぇぇーっっ!!?」
碧の絶叫が、世界の中心に漂っていた静寂を切り裂いた。
一同が両手で耳を覆う一方で、アオイだけは両手で頭を抱えている。
「嘘……でしょ? ……よりにもよって、何でこんなゴロツキと婚約なんかしちゃってるわけ!?」
「こんなゴロツキとか言うな! 俺はゴロツキでも、ゴキでもないからな。あと、惜しいけどロッキーでもないぞ!?」
頭を抱えたまま、アオイはその場に蹲ってしまった。
ロキといえば、それを苦い顔で見下ろしつつも、心なしか嬉しそうに見える。
「これで、ようやく全員の名前が出たね。でも――」
「えぇ……一人、足りませんね」
「そ、そうだよ。私だけまだ出てないから、既出にしないでよ!」
「いや、足りないのはズッ友だろ? 俺……じゃなくて、タロウを除いて六人の筈だから……カイン、コリー、キィ、シンジウェル、マサフスキー。やっぱり、あと一人だよな」
「じゃ、じゃあそれが私なんだよ。まさか、アンドロイドなんかじゃ……」
「ミュウ、残念だけど――たぶん、残るズッ友枠は……」
蹲るアオイ、それを見下ろすロキを除く五人の視線が、一人へと注がれた。
太陽の光も相まってか、輝くように佇むその人物。
薄らと笑みを浮かべた口元からは、綺麗な声が漏れ出た。
「うふふ。さて、どうでしょうか。言えるのは、長かった話もいよいよ終わりに近づくということ。何よりも、ようやく……ようやく、私も登場するのです!」
「ミドっち、ずっと居たじゃん。部屋の隅に」
「それは植物の緑で、あと、大神父のミドリでしょう? 私は緑でもミドリでもなくて、翠……あぁ、ややこしいですわ!」
ミドリとキィのやりとりから、その場の誰もが確信していた。正確には、蹲るも耳だけは機能させていたアオイを見下ろすロキを除く六人、だが。
大神父四人の意識は、この異世界から意識世界へと転送した。
うち三人はタロウのズッ友に、一人は植物の内に宿った。
そんな大神父たちはまた、この異世界へと帰ってきたのだ。
今度はタロウのズッ友を、その内に宿して。