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158話 意識世界2

 アオイのその言葉に管制室が静まり返った――と、思われた次の瞬間。

 管制室内には『ブヒィッ』という、まるで豚の鳴き声のような音が響いた。

 室内のメンバーは聞き慣れたものなのか、特に反応する者はいない。それは、タロウが興奮したときに発する鼻息だった。


 雰囲気を汚されたと感じるアオイはただ一人、まるで虫でも見るかのような目線を送る。


「せめて、豚を見るような目で見てほしいものだが……まぁ、いい。そこの、娘を名乗りたがらない鉄面皮の憶測は、かなり面白いものだ」


 興奮を抑えると、タロウは少し口を尖らせて、アオイに代わるように話を続ける。


「もしも、あっちの世界――俺たちの現実世界が意識世界だとしたら。じゃあ、ここは意識世界でつくられた意識世界……意識世界2とでも呼ぶか。つまりは」

「未来の意識世界から、過去の意識世界に干渉することは容易。それは、私たちが過去の意識世界に干渉出来るのと同じことだから。

 当然、過去の意識世界を経由して、意識世界の意識世界に干渉することも可能」


 タロウに憶測を横取りされたのがよほど不快だったのか。

 手入れせずとも整った眉をしかめたアオイは、タロウから主導権を奪い返すと、今度は早口で話を進めた。




 ――実は私たちも、いずれは過去の時代の誰かが『新たな意識世界』をつくるだろうと予想している。

 それはおそらく五十年前の時代の誰か、だろうけど……かなりの時間がかかると思われる。


 知ってのとおり、現代から過去の意識世界は、同じ時間軸でつくられている。

 そこでは同じ時間が流れる――というのは、コンマ一秒の狂いがなく同じ時が経過する、ってだけ。


 さっきのイメージでいうと、同じコンピューターの中にいくつかの時代の意識世界がつくられているとする。

 いくつかの時代を一斉にスタートさせると、全ての時代で、コンピューター内蔵の時計と同じ時が経過していく――みたいな感じ。


 過去の時代の、始まりのその瞬間は、表面的な情報を似せた想像の世界。

 そこに住む意識体は、元々は現実世界に暮らしていた移住体だから、本来のその時代には存在しない意識たち。

 そんな時代たちが行き着く未来は当然、現実世界が歩んできた時代とは異なっていく。


 現に、五十年が経過した今でも、五十年前の時代では未だ意識世界が始まっていない。既に、私たちが意識世界を始めた時代を経過したというのに。

 それどころか、そこでは意識世界の構想すらまだ出来ていない……。



 その理由は明白。

 過去の時代には、後ろ指を指されても、変人扱いされても、全身の毛と歯を抜かれても、それでも意識世界を夢見るバカな意識が存在しないから。

 そんなバカをバカにするやつらを覇気時々物理的な接触で黙らせて、人生を共に歩んでくれるパートナーがいないから。

 一緒にバカしてくれるズッ友がいないから。

 あとは後継に任せて安らかに永眠すればいいのに、という強い圧をかける私がいないから。


 それでも、いつかは誰かが意識世界をつくるでしょう。

 私たちのこの時代、異世界を熱望する、実の父を名乗りたがる人がつくりだしたように――



「じゃあ、でも……なんで、未来の誰かは急に、過去の意識世界に干渉したと思う?」


 アオイは憶測を疑問で締め括ると、室内の三人――異世界の住人である大神父をその身に宿す、カイン、コリー、キィに目線を送り、答えを求めた。



「意識世界を管理運営するコンピューターに何らかの不具合が生じたのでしょうか。例えば……レイレイさん好みの超絶イケメンが現れて、オーバーヒートしてしまったとか?」

「きっと、超武闘派なやつらに管制室ここを乗っ取られたんだろう。さては、俺の留守を狙いやがったな? いや……もしかして俺の謀反か?」

「きっと、意識世界をつくった一番偉い人のご乱心だよ。いや……タコさんが狂ったとしてもストッパーが即死級の殴打療法を施す筈だから……じゃあ、レイちゃまのご乱心?」



 アオイも同様に『未来の誰かが自分たちだったなら?』という憶測を立てていた。

 ただし、その場合は、元凶となる人物はただの一人しか思い浮かばない。


「そもそもあの異世界って、誰かさんが熱望する異世界そのものじゃない?」


 アオイのその言葉に、室内全員の視線が『誰かさん』へと注がれる。

 話の流れから、自ら元凶が未来の自分かもしれないと思っていたのだろう。タロウは、落ち着いた様子で皆の視線に反論する。


「でも、例え俺が狂ったとして――そんなこと、実行出来ると思うか?」


 タロウの反論は至極当然のもの。キィが言ったように、そこにはストッパー――関門が、二つも存在するのだ。

 皆の視線が、今度は第一関門レイチェルへと注がれる。


 いつの間にかタロウの背後に立っていたレイチェル。その手には愛用の物騒な棒を携え、何やら考察している様子だった。

 まるで、『せめて楽に逝かせるための最適な殴打角度、強さ』を模索しているかのような。

 まるで、元凶を今のうちに排除してストッパーの役割を全うするかのような、恐ろしくも美しい様相を呈していた。



 そんな第一関門を見る面々は、次の瞬間――その場には決して馴染まないメロディを耳にする。

 最初に気付いたのは、アオイだった。


 大型モニターには、何やら一人の男性の静止画と、その男性が歩んだ軌跡のような文章が映し出されていた。


『ヤマダタロウ――幼い頃から平常とはなる世界に憧れる。大学へと進学したタロウは、一生涯を共に歩むことになる運命の女性との出会いを果たす……』


 まるで故人を偲び、別れを惜しむような映像が、およそ三十秒ほど流れる。

 軽快ながら何故か落ち着きを与える音楽が止むと、次には移住体本体の仮死状態を維持し保管する設備が一つ、映し出された。

 正面から映し出された設備の、個体名を示すその位置には『ヤマダタロウ(笑)』と、愛情たっぷりの直筆で書きなぐられていた。


 次の瞬間――その映像の上から画面いっぱいに、『10』と表示がされた。

 その数字は、一秒が経過するごとに『9』『8』と数を減らしていく。


 まるで、元凶を意識体だけでなく、本体そのものから排除するかのような。

 第二の関門――レイレイがストッパーとしての役割を全うしようとする意志が強く感じ取られた。



 残り五秒。背後のレイチェルが物騒な棒を振り上げる。


 残り一秒。背後のレイチェルが物騒な棒を振り下ろす。


 果たして、ヤマダタロウの命運やいかに――

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