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157話 アオイの憶測

 ――問い掛けへの答えが得られないことなど、タロウにもわかっていた。

 高らかに鳴らされたシンクロ舌打ちを聞くなり、タロウは次の言葉を続ける。


「何故、宿主と大神父たちが同じ名前なのか。しかも、何故かお前らは人格もそっくりだ。ミドリの件は置いておくとして――これらの事実から推測するに、やっぱり」

「あの異世界は、未来でつくられた世界に違いない」

「ちょっ、アオイちゃん?」


 いつものごとく憶測を横取りされるタロウだが、の娘には甘いのか――それとも、アオイの憶測への期待からか。その顔はどこか嬉しそうにも見えた。



 ……えぇ。あっちのアオイさんは、タロウ博士とレイチェルさんのの娘です。

 あっちのアオイさんも、こっちのアオイさんと同様に、自身が養子であることを信じてやまなかったそうです。

 ですが、遺伝子情報という確かな証拠により、タロウ博士を実の父と認めざるを得なくなったのです。

 管制室で一人嘆き涙するアオイさんを、わたくしは植物の内で目撃しておりましたので、間違いありません。

 ……ということで、続けます。



 ――アオイは、憶測立てることが大好きだ。

 その憶測がいかに非現実で夢物語であっても、想像出来る限りは、いつかは事実となり得ると考えていた。


 感情の起伏をほとんど表に出さないアオイだが、憶測立てるときだけは、いち早く頭の中から出力したいのか、決まって早口になってしまう。

 その表情も、本人は無自覚――というか死んでも認めないと言っているが、父親のタロウのように、気持ち程度だが口を尖らせる癖を持っていた。


 そんなアオイが、今回は話す前から、明らかに悲痛な表情を浮かべていたのだ。

 そして、その表情のままゆっくりと、憶測を口にした。



 ――今、私たちが生活しているこの世界は、現代の意識世界で間違いない。

 この現代は、現実世界を地球まるごとスキャンし続けることで、表面的な情報を複製するとともに、同じ時間が流れる仕組みになっている。

 とは言え、あくまでも複製された仮想の世界であることには違いない。


 意識世界には、現代の他に過去の時代がある。過去の世界は、それこそ資料を参考につくりだした、想像が主の世界に過ぎない。

 私たちが未来の意識世界をつくらないのは、それこそ完全に、想像の世界でしかないから。そこの、父を名乗るオッサンが熱望している異世界と何ら変わりがないから。



 ここで、意識世界への干渉の可不可について考えてみる。


 まず、イメージとして持ってもらいたいのは……そうだね、オフラインのコンピューターかな。とりあえず、ノートパソコンをイメージしてみて。

 意識世界とは、そのパソコンの中に蓄積されたデータだとする。


 勿論、本物はそんじょそこらのちゃちなコンピューターじゃなくて、世界最高のスーパーコンピューター内部につくられた、膨大な情報からなる世界だけどね。



 では、意識世界に――オフラインのパソコン内のデータに干渉する手段は?


 考えられるのは、パソコンに何らかの記憶媒体を接続するか、別のパソコンとケーブルで繋ぐか。


 なんだ、簡単じゃないか――などと思うなかれ。

 我らがレイレイ……スーパーコンピューターに干渉することは不可能と言ってもいい。

 レイレイの超絶的な排他体質……じゃなくて、超厳重なセキュリティを破るのは、現代の技術では絶対に不可能だと断言出来る。


 あくまで憶測の、仮の話だから、百歩譲って干渉されたとする。


 そもそも、干渉されたことに気付かない訳がない。対処出来ない訳がないの。



 じゃあ、今回の場合だけど。

 明らかに外部からの干渉によって生じた事態といえる。

 でも、その干渉は一方通行で、こちらからは一切の干渉が不可能。

 そんなことはあり得ない筈なのに、干渉が出来ないのは何故?



 唯一考えられるのは、その干渉が、未来からの行為であること。


 じゃあ、未来からどうやって干渉しているか。

 さっき言ったとおり、干渉するにはオフラインのノートパソコンに接続する必要がある。


 でも、未来ってことは同じ時間軸の世界なんじゃないの?

 それなら、未来からならいくらでも干渉できるんじゃない?

 同じ時間軸――つまりは同じパソコンの中のデータなら、未来の誰かが、そのパソコンを操作するだけで、いくらでも干渉が可能。

 そう考えることは出来る。



 でも、それだけじゃ説明出来ない事象も発生している。

 ――そう、現実世界に顕現したアレ。あの、謎の空間は一体何なのか。


 同じパソコンを未来で操作して、中のデータをいじることは出来る。

 でも、それはあくまでも過去の意識世界への干渉が可能というだけ。

 過去の時代の現実世界に干渉するなんて、出来る訳がない。

 ――それこそ、タイムトラベルでも出来なければ、ね。



 遠い遠い未来では、時空間の旅行なんてのも可能になってると思う。

 私はそれを信じているけど、今はまだ本当の夢物語であって、あまりにも非現実的な話。


 私がこれから話す憶測も、かなり非現実的。

 だけど、時空間旅行よりはいくらか現実的。

 ……でも、信じたくはない。絶対に、そうであってほしくない。


 あくまでも憶測だけど。

 でも、今のところ……これまでの情報からは、私はこの答えしか導くことが出来ない。



 私たちが現実世界だと思っているあの世界が――私たちが生まれ育ったあの世界が――実は、意識世界だったとしたら?

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