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156話 小休止

 ――世界の始まり。

 四色の草原が始まるその場所には、静かに浮かぶ二つの球体、そして、それを取り囲むように座る九人の姿が在った。


 ミドリの話が小休止を迎えると、その場は完全な静寂に包まれる。

 人の住む世界から隔離され、虫の鳴き声も、鳥のさえずりも何も聞こえない。誰も微動しないためか、衣擦れの音すら聞こえなかった。


「……んぅう……あぁ…………んぉ? 話、終わったのか……?」


 あまりの静けさが逆に、鋭意睡眠学習中だったトドロキ露輝斗ロキトを起こしてしまったようだ。

 残りの六人はといえば、一斉に大きく深呼吸を始めた。

 話を聞くのに夢中のあまり、呼吸すらしていたか覚えていなかったのだ。


「マジ、かよ……そこで話を止めるか?」

「なんか、途中からはツッコミも出来なかったね……」

「この世界がまさかの現実で……でも、この世界の始まりは意識世界……ってことだよね」


 序盤こそツッコミやら憶測を口にしていた小山田オヤマダ小太郎コタロウ澪川ミオカワレイ白石シライシアオイの三人。すっかりと、大神父ミドリの語りに耳を傾ける行為に集中していた。

 とある話題だけは意図的に避けつつ、状況の整理を始めた。


「僕たちの登場はもう少し先かな……? 残るズッ友は三人いるみたいだし」

「ですね。わたしたちのものと思われる意識は、調査隊に使われたみたいですけど」

「ねぇ……私の名前、というか製品名っぽいの出てきたよね? ……私だけ、アンドロイドなのかな……」


 まだ自分たちと思われる存在が登場していないと言う、真田サナダ慎治シンジ日暮ヒグレ昌晶マサアキ糸吉イトキチ心結ミユウの三人。

 ロキも同じ状況の筈なのだが、何故かコタロウたちの会話に耳を傾けている。



「ミドリの話が事実で、今の俺たちの状況に繋がっているとする。先ずは――俺、すごくね?」

「なんかわたし、ただ狂暴なだけの女じゃない? 巨乳なのは嬉しい……かな」

「私は、美少女要素を除けばほぼ変わらないかも」

「ねぇ、私だけアンドロイド……だよね?」


 思い思いを口にする面々だが、特にコタロウ、レイ、アオイの三人はやはり、ある話題には触れようとしない。

 だが、命知らずのロキが、ニヤニヤ顔で口を挟む。


「お前ら三人、なんか、家族っぽくね? ウケる!」


 その一言に、レイが頭を抱え、アオイは虫を見るような目をコタロウに向ける。

 コタロウも、まさかどうやったら狂気マシマシな女との共同生活などを望むのか――と、顔色を青くして、眉間にシワを寄せていた。



「ま……まだわからないぞ? な、名前が似てるだけで、ただの遠い遠い先祖なのかもしれないし」

「そ、そうだね。まさか、わたしが金髪美女なわけないもんね」

「そうだよ。実の娘だなんて言ってなかったもん。私はきっと、養子なんだよ」

「やっぱり、アンドロイドなのかな……私」


 ミドリの話は、全てが事実だと信じている。それでも三人は、未だ自分たちとの関わりが明確ではないことを言い訳に、その関係性だけは受け入れようとしない。


「でもよぉ……」


 突如現れたミドリの「おかえりなさい」に続いた名前は、語りの中に登場した人物のそれだったじゃないか?

 それを口にしようとしたロキだが、恐ろしく鋭利で攻撃的な二つの目線に制される。



「にゃーっはっはっ! タコさんたちはねぇ、すっごく面白い家族だよ。……まぁ、もうちょい聞かないと、事実としては受け入れられないよねぇ」

「えぇ、そうでしょうね。なんといっても、わたくしもまだ登場していないのですから。はぁ……」


 仲良く並んで腰を掛けている、大神父のキィとミドリ。

 内の人格が出ていると思われるキィは、見ている方が疲れるくらいに元気いっぱいだ。

 一方でミドリは、未だ傷心中だと自分で言うとおり、溜め息の数が多い。


「ぐふ……にゃっはっは! しっかし、ミドっちだけ観葉植物に宿るって――ミドリだけに!? にししし……」


 キィの大爆笑に、ミドリが不満顔で溜め息を吐き応える。


「はぁ……私だって、好きで宿ったのではありません! ……癪ですし、話を続けるとしましょう」



 キィを一睨みすると、緑の芝生から立ち上がり、お尻を軽く叩くミドリ。

 美を司る大神父は、そんな所作でさえも美しい。

 改めて見惚れている男性陣だが、それを見る女性陣の目はやけに冷たい。


「私たち大神父と、宿主であるタロウ博士のズッ友たち。何故、名前が同じなのか」

「何故、ミドっちだけは植物に宿ったのか」

「さらには、皆様はこうも思ったのではないでしょうか。『なんか、人格も似てないか?』と」

「こうも思ったのではないでしょうか。『肉食系のミドっちが何故、植物に? まさか、植物自体は肉食系の性格を持つのか? そ、それは、世紀の大発見じゃないか!?』と」

「私のどこが肉食系なのです!? ていうか、いい加減五月蝿いので黙ってもらえます?」


 可愛く小さいお口にチャックするような仕草で、キィは押し黙る。

 ただし、あまりに締まりの悪いチャックなのか、笑いがダダ漏れしているのだが。



「全く、このキィたちは……。話を戻しましょう――とは言っても、タロウ博士の問いに対する答えは、皆様にも予想が付いていることでしょうね。

 そう。それこそ、答えなどは誰にもわかりようがなかったのです――」

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