153話 初期設定 その二
――あんたのことだから、どうせまた「すっげぇ強ぇスキル一択に決まってんだろ。がはは!」とか言うんでしょうね。
……違う? 素早さをすっげぇ上げるスキル!?
何よ、あんた、ちゃんと考えてんじゃん!
うんうん。オークが素早くなったら、それこそ最強だよ!
でもねぇ……素早さを上げるスキルって、発動系だと元の素早さを一時的に、爆発的に上げるやつしかないのよね。
常時発動系も、そう。レア度が高いのでも、元の素早さを最大で四倍に上げるとかだから……初期値に依存するんだよねぇ。
一つの能力値を最大で一〇〇上げるってのもあるけど……それこそ、レベルを上げることで上昇していくやつだから。
あんたの場合、きっと、初期の素早さが低すぎてレベル上げ自体が難しいよ。
……待て、俺の脳みそコンピューターをフル稼働させてる?
あぁ、ごめん。情報量多かったよね。
……って、うん? 何がわかったの?
……行動ポイントの割り振りを変える、と。
……行動ポイントを五十消費するのは変えない。でも、力と体力に二十五ずつ、素早さに五十振り分けることにする――!?
そ、それで、固有スキルはどうするつもりなの?
……常時発動系の、二つの能力値を最大で二倍まで上げるやつ。それで、力と体力を最大で二倍上げる――
なるほどね!
正直、それだと初期値でもかなり強いよ。
力と体力がそれぞれ七十五で、素早さが五十だもん。そもそも能力が五十を超えれば、現実で言うところの達人の領域だからね。
肉弾戦なら、初期値でも間違いなく最強だよ。
あとは精神系のスキルに注意すれば……ふふっ。実はオークって、頑丈な上に異常耐性も高いんだよね。
あぁ、それが種族スキルってやつ。あとは索敵能力も持ってるみたい。まぉ、鼻が利くってやつかな。
……俺はもともと鼻が利くって? あ、そ。
――さて、と。じゃあ、決めることはあと一つ。それは、拠点だよ。
説明不要だって言うあんたには説明してないけど。
この世界には四つの国があるの。赤、青、黄、緑の四つ。
それぞれ、草原の色が国名そのままの色をしている。草の色の他にも様々な特性を持ってて……って、うん。興味無いよね。
でも、一つ注意してほしい。種族とかと違って、最初に決めた拠点を変えることだけは出来ないの。
なんでやねん! そう思うかもしれないけど……このゲームのプレイヤー数は十万人は軽く越えるだろうと予想されている。
混線するとか、そんな問題ではなくて、単純にプレイヤーの混雑を心配してるみたい。
プレイ時間の制限も、混雑を分散させるための一策ではあるんだけどね。
まぁ、その他は、ほぼほぼ自由だから安心してね。
とにかく、拠点もじっくり考えてよね。
まぁ、あんたのことだから……うん。モンスターが一番多い国、だよね。それか、モンスターが一番強い国。
うん、知ってた。
それなら、赤の国一択だね!
……うん? それと、おっとり美人が多い国も捨てがたい?
――はいはい。おっとりが多いのは黄の国だよ。でもね、モンスターが一番少ないのも、黄の国なの。
さぁ、あんたはどっちを選ぶ?
ちなみに、赤の国に多いのは血気盛んな美女だよ!
……そうそう、アタシみたいな狂気マシマシの美女――って、はぁ? あんた、死にたいの?
……もう、俺には赤の国しか見えねぇ?
いや、あんた、まだどの国も見てないからね?
ま、いいや。
とにかく、今日の八十分間……いや、あんたには三十分しかないんだったね。
先ずは体験してみることだね。
きっと、明日のプレイ前には「やっぱ三十分じゃ足りねえわ。がはは!」って言ってるでしょうね。
アタシじゃないレイチェルが優しく対応してあげるから、安心しなさい。
……明日も会えるのか、って?
うん。プレイ前には必ずここ、導きの間を通るの。
毎回、アタシたち案内人が異世界に転送してあげるってわけ。
ちなみに、ここでの時間はプレイ時間には含まないからね。
……じゃあ、もうちょい話しようぜ?
ふふっ。あいにくだけど。今日はアタシがそんなに暇じゃないんだよね。……嬉しいけど。
まぁ、明日からはアタシそっくりの意識体がいくらでも相手するから。ご自由にどうぞ。
初日だし、先ずはNPC――じゃなくて、異世界人と話をするのが良いかもね。モンスターの生息地とか教えてくれると思うよ。
あと、酒場の掲示板にはモンスターの討伐依頼が……うん。とにかくモンスターをぶっ倒してくるぜ、と。
――せいぜい頑張りなさい。
じゃあ、転送するけど。他に、ここでアタシに聞いておきたいことは無い?
……アタシの、連絡先?
ばーか。これから毎日会えるんだから、必要無いでしょうが。……嬉しいけど。
はい。じゃ、転送するからね。
異世界には痛覚が無いからって、くれぐれも無理はしないように。
死んじゃったら行動ポイントが減るんだから。
……俺が死ぬわけねぇだろって?
いや、あんたのことまだよく知らんし。
じゃあ、またね!
――はぁ。全く、何なのあいつ?
終始訳がわからなかったけど……でも、ただ者じゃないことだけはわかったわ。
あいつなら、もしかすると、赤の国のマスターに……なんてね。
あーあ、楽しかった!