151話 導きの間
ようこそ、導きの間へ!
アタシがあんたの意識の案内人、レイチェルよ。気軽にレイって呼んでね、よろしく!
早速、あんたの名前と性別をおしえ……うん? なんか、思ったのと違う?
アタシたち案内人は、あんたらプレイヤーの希望を聞いて選ばれる。
希望が叶うのは三つまで。それは理解してるのよね?
……している、と。じゃあ、あんた、何を希望したわけ?
……金髪で、グラマラスな、おっとり巨乳美女、か。
うん、ちゃんと三つだね――なわけあるか!
最後のだけで、おっとり、巨乳、美女って! 三つも入っとるやん!
しかも、グラマラスに加えて巨乳って……どんだけ胸部への憧れが強いわけ?
――まぁ、巨乳は残ったわけだし。おっとりは諦めなさい。
そんなことより、さっさと話を進め……え? 見た目はともかく、レイチェルと全然キャラ違うじゃねぇかって?
ふん。人格のベースにアタシ……じゃなくて、自他共に完璧美女と称する、あのレイチェルを選ぶなんてね。
……そうそう、あの名高い、化け猫ナイチンゲール――って、誰が化け猫だ!
ていうかコイツ、見た目も中身もアタシそのまんまを希望してるのよね。しかも、たまたま暇をもて余してたアタシ。
だから、まさかまさか、本人が来てやったってのに……。ちっ。
あんた、何が文句あるわけ?
……この前観た、ドキュメンタリー番組のレイチェルに一目惚れした、と。メチャクチャおっとりしてて、可愛かった、と。
…………あぁ、あれか。
若手のディレクターが「いつもより狂気マシマシで!」とか、わけのわかんないこと言うから、気分悪くなったわけ。
だから、「うふふ」「良くってよ」「あらあら」「まぁまぁ」の四パターンだけしか喋らなかったやつか。
――って、全っ然話が進まないんだけど!?
ほら、さっさとあんたの名前と性別を教えなさい。
……コリー、独身男性、と。
いやいや、独身て。誰に何をアピールしてるわけ?
……なんか、これはこれでありかもって?
いや、あんた、おっとりが好きなんじゃなかったの? あんたの一目惚れは何処行ったのよ! ……嬉しいけど。
――はい、じゃあ、次は種族を選ぶよ。
かなりの選択肢があるから、ここはゆっくり時間かけていいからね。
スタンダードなのは人間、獣人だけど――でもね、獣人にも種類がものすごくあるんだよねぇ。
とりあえず選択肢を絞るから、どんなのが良いか適当に希望言ってみて。
……最強一択?
なる、ほど……はっきりしていてよろしい。
でもね、あんたにとって、強いってなに?
……とにかくでかくて、頑丈で、力が強い、以上。うん、わかりやすい。
それだと、竜種、巨人、オークあたりかな。
でも、竜種はリザードマンから進化しないとだし、巨人になるのもかなり難しい条件があるから……。
うん、オークは最初から選べるよ。でもね、素早さが最低値だから、初心者にはおすすめ出来な……うん? もう、俺の目にはオークしか映らねぇって?
いや、あんたの目にはまだ何一つ映してないからね?
あんた、おっとりをあっさり見放したように、すぐ他のやつに目移りしそうだよね……。
まぁ、とりあえずオークでいっか。
転送するまでなら何回でも変更出来るし。今後も一日に一回までなら変更出来るからね。
――よし。じゃあ、ここからは改めて『異世界』の説明をするよ!
この世界は、四色の草原が織り成す幻想的な世界……って、説明要らんとか言わない!
……俺は攻略本を見ない派? そんなの知るか!
ふん。まぁ、わかったよ。じゃあ、最低限の情報だけ教えたげる。あと、いくつか質問するから、それに答えてくれれば良いわ。
――異世界では、広大なマップをただ探索するもよし。アイテムを収集するもよし。モンスターを討伐するもよし。友達百人つくるもよし。
聞くまでも無さそうだけど、あんたは何がしたい?
……異世界最強の男になる。だよね。
だとすると、強いモンスターを討伐して名をあげるとか。武闘大会に出場して優勝するとか、そんなとこかな。
……そんな面倒なことしないで、プレイヤー全員ぶっ飛ばせば良いんだろって?
あのね……この世界ではプレイヤー同士、危害を加えることは出来ないの。
正確には、危害を加える行為には及べるけど、ダメージ判定がゼロになるってこと。
たとえダメージが無いとしても、そんな物騒な行為を繰り返すやつ、即出禁だからね?
じゃ、制限の話が出たところで、次はプレイ時間の説明をするよ。
プレイヤーには、一日に一回、初回転送時に行動ポイントが『八〇』付与される。
現実世界で一分が経過すると、一ポイントが消費されるの。つまり、一日にプレイ出来るのは、最長でも八十分ってこと。
人によっては短いと感じるかもしれないね。でも、これは異世界にのめり込み過ぎないようにするためなの。
ほら、子供の頃、ゲームやり過ぎて親にアダプタ隠されてたりしなかった? それか、充電器とか、ハードそのものとか。
……野山を駆け回りすぎて靴を隠された?
教育上問題がありすぎて友達を隠された?
武勇伝が凄まじすぎて事実を隠蔽された?
ちょっ、あんた、何者!?
只者じゃないのはわかるけど――果たして異世界に放って良いの、コイツ!?