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14話 緑の国 3

 ――「こいつらを研究施設に連れて行くんですよね? 僕も、連れて行ってくれませんか?」


 銀色の素材で全身を覆った三人は、武器を手にじりじりと近付いて来る。

 おそらく、ギャたちと話すことができる自分は、それだけで珍しい存在なのだろう。

 お願いなどしなくても連行されそうだが、痛い目を見たくは無かったのだ。

 両手を挙げて懇願すれば、縄で縛られるくらいで済むのでは無いだろうか。


「……無理矢理にでも連れて行くつもりだった。自分の意思で付いてきてくれるのなら、こちらも助かる」


 思いの外、こちらも話のわかる連中のようだ。

 三人は武器を仕舞うと、今度はギャたちを捕獲するのであろう丈夫そうな大きな網のような物を、三人がかりで構え始めた。

 だが、三人が二メートルほどの距離に近付くと、


「ギュー……ギャ?」


 食休みの睡眠が終わったのか、ギャたちは一鳴きすると、その大きな一つ目を見開いた。


「ちっ……寝込みを襲わないと厳しいんだがな……」


 リーダー格の一人が嘆くように呟いた。

 網を一旦地面に置くと、三人はその手に武器を持ち直した。

 ギャたちは寝起きの目を擦りながらゆっくりと起き上がり、地面に置いた石斧に手を伸ばす。



 一度見ただけだが、ギャたちの戦闘力の高さは相当のものだ。

 武装しているとは言え、人間三人では無事に済まない可能性が高い。

 ここで全滅してしまえば、人間がいるであろう研究施設とやらに行くこともできない。


 「俺のために死んでくれ」と言うのはさすがに心が痛いが、何度でも生き返るのだから、ここは我慢してもらおう。


「痛い思いさせるのは辛いけど……お前ら、大人しく捕まってくれないか?」

「ギャ?」

「大人しきゅ、するギャ!」

「網に入れば良いのキャ?」


 やはり、素直で従順な生き物のようだ。

 話せばわかるはずなのに、だが、そもそもギャたちとは話ができないのだと言う。


「おい、こいつら何て言っているんだ?」

「大人しく捕まってくれるってさ。あんたたち、言葉がわからないのか?」

「わかる訳無いだろ! 気色悪い『ギャ』って鳴き声しか聞こえねぇよ」


 なるほど……ということは、やはり『ギャ語』がわかる自分は、何か研究の役に立つかもしれない貴重な存在なのだろう。

 それならば、丁重に扱われるはず……とは言い切れないだろう。


 良いように使われて命を落とす可能性だって考えられる。

 自分は、このまま大人しく研究施設に行っても良いのだろうか。


「教えてほしいんだけど。なぜ僕を連れて行く? あと、僕が研究施設に行ったとして、どんな扱いをされるんだ? 殺されたりしないよな?」


 大人しく地面に置かれた網に入って行くギャたちを横目に聞いてみた。


 通訳という、手に職を得るか。

 あるいは全身を調べられ、いじられて、最終的にホルマリン液にドボンか。


 それこそフィクションの世界ような話だが、そんな生物が目の前にいる以上、そんな可能性も十分にあり得る。

 本当のことを教えてくれるかは怪しいが、聞いみてその反応を見るだけでもしたかった。



「我々は、国王の命を受けてインプの捕獲にやって来た。だが、その任務とは別に『とある人間を連れて帰れば、大金を与える』という御触れも出ている」

「とある人間? こいつら……インプ? と話せる人間、てことか?」

「それは違う。聞いているのは『黒髪の人間』だ」


 黒髪の人間? ということは、この世界には黒髪が存在しないと言うことだろうか……


「おそらくお前は、インプの生態を調べるためにドクターに良いように使われるだろう。殺されることは無いと思うが、おそらく二度と外には出ることが出来ないだろうな」

「やっぱり、行くのやめようかな……って。もはや無理か、あはは……それと、インプって、こいつらの名前か?」

「なんだ? わからないで話をしていたのか……まぁ、知ってたら近付かないよな。今、この世界に現存する四つの変異種のうちの一種。不死のインプだ」

「……こいつらを定期的に捕まえて、不死の研究でもしてるってことか。何度殺しても、この森で復活する……」

「そうだ。こいつらは二十日間に一回食事をして、その後ちょうど一時間睡眠を取る。その間に捕まえて、研究施設に連れて行くんだ。俺たちは……国はそれを、百年以上続けている」

「百年!?」


 わかったのは、ギャたちは際限無く復活するし、何より不死の研究が進んでいないということ。

 しかし、体内時計正確説は合ってたけど……こいつら、百年も同じように捕まっては殺されているってことか?

 話していて、そこまで頭が悪いとは思えないから、対策くらい練りそうだが。

 それとも、体内時計、習性には抗うことができないと言うことか。

 そう言えば『最後の晩餐』とか、難しい言葉も使っていたのだ。

 もしかすると、謎の翻訳機能が勝手に現代人のそれに変換しているのか……


 いずれにせよ、まずはその研究施設に行ってみよう。 

 珍しい存在であるのなら、ひどい扱いはされないはずだ。何より、僕は不死ではないのだから。




 網の中ではしゃぐギャたちと一緒に、馬の体に狼の頭が付いたような、謎の生き物が引く荷車の荷台に乗った。


 銀色のヘルメットを外した三人は、いずれも年齢は二十代前半だろうか。

 日本語を話しているが、その顔立ちは彫りが深く鼻筋が整っていて、まるでヨーロッパ圏の人間に見える。


 さらに、その髪の色が独特で、一人は水色、他の二人は緑色をしていた。

 こんな調子で、この世界には黒髪が一人もいないのだろう。


 『気付いたらあの森にいた』

 そんな嘘を信じてくれた三人は、この世界のことを教えてくれた。


 四つの国から成り、ここは緑の国だという。

 向かっているのは、城下町のキュリーというところらしい。


 緑の国は研究国家で、各国から仕入れた素材を使い、様々な製品を開発、製造している。

 表向きには、滋養強壮の薬、病気を治す薬、魔力を高める薬などの研究開発。特殊な効果を持つ武器や防具の開発をしているというが、その実、怪しい薬や軍事兵器などの研究開発もしていると言う。

 その一つが不老不死の薬で、ここ百年、国王が替わってもその研究は続けられている。


 この三人、聞いたらホイホイと裏の事情も教えてくれるのだが、良いのだろうか。

 どうせ二度と研究施設から出ることが出来ないのだから、教えても平気と言うことなのだろうか……




 荷車で揺られること約二時間。

 キュリーの町に到着するなり、眼前に広がったのは中世ヨーロッパのような、どこかの観光地のような光景だった。


 石畳の通りには、レンガや石造りの建物が軒を並べている。

 それ以上に衝撃だったのは、道を歩く住人の姿だった。


 一枚布の簡素な格好をした人間は、街並みとよく似合っている。顔のつくりは三人とよく似ており、色が白く鼻筋が整った、明らかに日本人とは異なるもの。

 そしてその髪の色は、青や赤、緑、紫など、やはり色鮮やかだった。

 瞳の色も、髪の毛と同色のものが多いようだ。


 さらには、人間では無い生き物も二足歩行をしていた。

 獣人という種族らしく、犬や猫、狼や虎などを人型にしたような見た目だ。

 体毛やつくりがやけにリアルで、可愛さよりもまず恐怖を抱いてしまう。



 荷車は石畳の道を進み、奥にそびえ立つ大きなお城のすぐ目の前、こちらもそびえ立つという表現がふさわしい建物の前に止まった。

 その建物は、現実世界では当たり前の、鉄筋コンクリート造りのビルだった。

 窓にはガラスがはめ込まれ、それが普通のはずなのに、異様に感じてしまう。


 荷車を降りると、網を手に持つ三人とともに、出入り口の厳重な警備を抜けた。


「エレベーターに乗れるギャ!」

重力じゅうりょきゅを感じるギャ!」

「でも、すぎゅきょろされるギャ!」


 人間の会話から学んだのだろうか。

 やはり、とてもホイホイ捕まり殺されるような頭の悪いやつとは思えない。


 ギャたちの言うとおり、少し古臭く見えるエレベーターに乗ると、一人が『B3F』と書かれたボタンを押した。




 どうやら目的の階に到着したらしく、『ガシャン』と鳴りエレベーターが止まった。

 だが、正面の扉は開かず、リーダー格の人間が壁に設置されたカメラのようなモノを見た。


 虹彩認証機能でも付いているのか、あるいはどこかで誰かが監視しているのか。

 しばらくすると、扉が開いた。


 目の前に広がる部屋は『ザ・研究室』だった。

 真っ白な壁と床。学校の教室ほどの広さで、謎の円柱状の何かが地面から四本生えている。

 そこには何も入れられていないが、まるで人造人間などをつくりそうなアレだ。


 エレベーターの扉以外にも、部屋の三面には一つずつ扉が設けられており、おそらく同じような部屋がいくつか続いているのだろう。


 すると、右の扉から一人の白衣姿の人間が姿を現した。

 五十代前半くらいだろうか。やけに毛量が多い『白髪』の男性だった。


「ご苦労様。今回は思わぬ収穫があったようだね」

「はい、ドクター。まさか、黒髪の人間が見つかるとは思いもしませんでした……」

「このことは、わたしから大臣に報告しておくよ。約束どおり、一人一千万カラーを受け取ってくれ。じゃあ、下がって良いぞ」

「は、はい!」


 カラーというのは、この世界の通貨単位だろうか。

 日本円と同じ価値だとしたら、かなりの金額だ。

 それだけ、黒髪の人間がレアだと言うことなのか。


 三人は目を輝かせて、だが最後に僕を見て何か申し訳の無い表情を浮かべ、エレベーターの扉の中に消えた。

 部屋には残されたのは、僕と、網の中で「ギャッギャ!」と人生を振り返るギャたち、そしてドクターと呼ばれた謎の人物。


「さて……」


 ドクターが、あごに蓄えた立派な、こちらも白いひげを触りながら口を開いた。


「君も、転生者だろう? いつここに来た?」

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