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143話 干渉不可能なナニか

 亀神父の話をただの昔話だと、その信憑性を疑う者などはいなかった。

 そもそも疑い始めたらきりがない、正解のわからないことだらけの謎世界に直面している。要は、大事なのは信じる信じないではなく、あり得るかあり得ないか、なのだ。


 神父の昔話に出てきた『大神父』は、十分にその存在があり得る。

 そもそも、神父の言う大昔というのがただの設定なのか、はたまたそこが本当に、千年から万年単位の時間が経過した世界なのか。

 現時点でそれを知るすべはないが、ただ一つわかること。それは、突如意識世界に出現した時間軸の異なるその世界も、意識世界で間違いないということ。


 そうなると、大神父が神に与えられた役割、そして力とやらを説明することも容易に出来る。

 まず、触れた者を世界の始まりへと導く力――それは転送機能と同等のものと考えられる。しかもそれは、つい最近になってようやく開発された、個体に組み込む単独式のそれだ。

 不老の力も、人工意識体であるゴロウに組み込んだ、永久的な活動限界と同等のものだろう。

 それならば、大神父という存在は、謎世界の神が……管理者がつくりあげた、特別な役割を持つ意識体だと考えることが出来る。



 しかし、そんな大神父たちは厄災の残滓とやらとの決闘により、残滓もろとも謎世界から消えてしまったという。

 はたして、この昔話から読み取れる手掛かりとは何なのか。

 そんな中、タロウがどや顔で口を開く。


「もしかすると、謎世界ってのは未」

「未来の、別の時間軸の意識世界……なのかも? そうか……だとすると、干渉が一方的なのも説明がつく、かな……」


 憶測を娘のアオイに上書きされたタロウは、どや顔を苦い顔に変えつつも、どこか嬉しそうだった。

 顎に手をやり、時折目を閉じながらアオイの憶測は続いた。


「わたしたちの意識世界は、現世と同じ時間、そしてそれ以前のもの。時間軸を一つにしているのは、現世をもとにその時間を遡ることで過去の世界をつくっているから。つくるのが比較的楽だったってのもあるけど、一番はやっぱり管理面かな。

 別の時間軸をつくることも可能だし、時間軸なんて関係の無い世界をつくることも出来る。

 わたしの父を名乗るキモい人が、憧れのファンタジー世界をつくりたいなんて、夢のある……いや、キモいことを言ってたらしいけど。それは、みんなに反対されて実現しなかった。

 未来をつくることだって出来るけど、でも、それはファンタジー世界と何ら変わりのない、想像の世界。


 それで、今回の謎世界だけど。別の時間軸の、今よりも未来の誰かがつくった意識世界じゃないかな?

 時間軸が異なっても、相互の干渉は可能な筈。でもね、未来の時間軸とは干渉が出来ない……んじゃないかな? だって、それが出来ちゃったら、それこそ何でもありの世界になるもんね。


 ――と、いうことで。謎世界は未来でつくられた意識世界だとする。そこは、一冊の童話が攻略の鍵を握る、謎解きファンタジーみたいな世界かな? 挑戦者は一度のタイミングに七人。一人一つ、各人が希望するものか、あるいはランダムで力が与えられる。

 でも……はぁ。ここから先が全然わからないんだよね。 

 そんな世界が何故か、わたしたちのつくった意識世界との繋がりを持ってしまった。何故か、こちらの意識世界の移住民が強制的に転送させられてしまった。何故か、その世界の一部がこちらの現実世界に顕現した……」

  


 やはり憶測の域を出ない話に、ため息と共に口を閉じるアオイ。

 そんな中、タロウの顔だけはまたも、どや度を増していた。


「ふふっ。娘よ、俺の中では繋がったぞ? 全てのきっかけが謎世界の『大神父たちの転送』だとしたら?

 ものは試しだ。少しくらい時間をかけて、捜索してみるくらい良いだろ? もしかしたらこの意識世界の何処かに……」

「見つけた。それも、ちょうど五つ」


 またも、今度は集中管理意識体に話を上書きされたタロウ。

 だが、まさか本当に憶測がその域を出るとは思わず、目と口を大きく開けて続きを待つ。



「この意識世界には現代から過去まで、およそ一千億人の意識体が生活している。でもね、そんな中に例えたった五つの意識体が入り込んでも、例えそれが誰かの身に宿ったとしても――私がそれを見逃すなんてあり得ないの。

 だけどね、もしもその意識体の存在に気付くことが出来なかったとしたら? 私からの干渉が一方的に遮断されていたとしたら?


 ……複製体のイゾウがその身に宿す、謎の力。それを解析することは出来ないし、モノとして認識することは出来ない。でも、干渉不可能なナニかが、そこには確かに存在しているの。イゾウのおかげで、そんな存在を認識することだけは可能となった。

 それで、ものは試しに、そんな干渉の出来ないナニかがこの意識世界に無いか探してみたの」


 勿体ぶるような集中管理意識体の話に、誰もが息を飲み押し黙る。

 すると次の瞬間――管制室の、大型モニターの画面が切り替わった。

 そこには、五分割された映像が映し出されていた。


「ちょっと、待ってくれ……まさか……そこに大神父たちが宿っているとでも言うのか?」


 五分割されたその画面に映るのは、四人と一つの物体。

 タロウは画面から目を離すと、斜め向かいのソファに腰掛ける半永久社畜仲間ズッともに目を向ける。


 何が起こっているのかとまばたきを多目に、説明を求める様な顔をする三人とその目が合う。

 そして、タロウが目を戻した画面には、全く同じ様子の三人が映し出されていた。



「五つの意識体は、その四つが人間に、残る一つは植物に宿っているみたい。そのうちの三つの行方は、奇しくも此処にいる三人みたいね。もう一つは過去の時代の、一人の移住民に。そして残る一つ、その植物は……タロウ、あなたが昔から大切に育てている、そこの観葉植物の中に在るみたい。

 さて、と……。じゃあ、説明してもらっても良いかしら? 植物は喋れないから……そう、勿論、あなたたち三人。

 ねぇ。コリー、カイン、そして、キィ?」

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