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139話 三つの事象

 世界の中心――四色の草原が交わる『始まりの場所』に在ったのは、浮遊する二つの球体。

 童話からは、金色に光る球に女神が、黒く澱む球に厄災が封じ込められていると推察された。

 触れたモノを解析する機能ちからを持つ二葉フタバが、恐る恐る金色の玉に触れるも、『見えない壁と同様、一切の解析が不可能』という結果に終わる。



 結局のところ、世界の中心で目の当たりにしたのは二つの球体だけ。

 目の前で何かが起こることは一切無く、あらゆる期待が裏切られた――ことはなかったのだった。

 中心に立ち入ることで起こった事象が、三つもあったのだ。


 ――まず一つ目。人工意識体フタバにかけられていた、あらゆる意思表示への制約がなくなった。

 元々、管制室とは心の声での会話が可能だったから、意思の疏通には特段の変化はない。

 立ち入りに協力してくれた『霧島キリシマツトム』に対し、これまでの全ての経緯を説明することが可能となったのだ。

 とは言え――四百年前に移住していたツトムにとって、そもそも想像すら出来ない話ばかりで、終始首を捻っていたのだが。



 ――二つ目。現世の保存装置内で息絶えていたツトムの本体が、仮死状態へと戻った。

 仮死状態の本体が息絶えるなどあり得ない。それは一年が経過した当時でも同じ考えだった。

 それならば逆に、いつかまた仮死状態に戻ることもあるのではないか――そんな願望にも似た推察から、謎空間に強制的に転送させられた七人の本体は、息絶えたまま保存装置内での安置が継続されていたのだ。


 そもそも何故、七人の本体は息絶えたのか。

 それも憶測の域を出ていないのだが、当時の、即日中にそれは推察されていた。

 

 過去の意識世界に移住していた七人は、その意識体のまま、記憶がリセットされたその意識のままに謎空間へと転送された。

 そのからだ、意識と共に、生命までもが実体化することで、本体へと成り代わったのだろう。

 結果、保存装置内の本体は生命を失い、本体へと成り下がり、全ての機能及び役割を失った。

 はたまた、現世に同じ生命いしきが二つ存在してはならないという、自然の摂理なのかもしれないが――


 仮死状態へと戻ったのは、実はツトムだけではなかった。

 管理不足と言われてしまうとそれまでなのだが、その数日前に見えない壁の外側へと旅立った『西野ニシノアカネ』の本体も、仮死状態へと戻っていたのだ。


 そんな二人の共通点は、ただ一つ――見えない壁を通り抜けた、ということ。

 それを踏まえ、すぐに一つの考えへと至ることになる。



 外側の壁の外、内側の壁の内。そこが、意識世界だということ。



 意識世界には突如、時間軸の異なる謎の世界が出現した。

 管理下にないその世界は未だに、全容も何もわかっていない。その大きさすらわかりようがないのだ。

 ただ言えるのは、現世に顕現した謎空間が、その世界の一部であろうということ。


 その原理は不明だが、あの見えない壁で囲まれた範囲がスキャンされ転送されることで、その部分だけが現世に顕現したのだろう。

 スキャンされていないのは、見えない壁の外側。そして、壁で囲まれた中でさらに壁で囲まれた、世界の中心。

 つまり、見えない壁は現世と意識世界とを隔てる壁だったのだ。


 見えない壁を通り抜けたツトム、そしてアカネは、意識世界へと立ち入った。

 その瞬間に、現世に実体化した筈のその本体が、またも意識体に成り下がることになる。

 宿り先を失った生命は、元あった場所へと戻り――元本体が本体へと成り代わった。



 それでは、この推察が合っていたとして。

 保存装置の電源をオフにすることで、二人は現世で目覚めることになる――筈なのだ。

 意識の転送先は不明だが、本体が仮死状態に戻った以上、意識本体はその中にある。

 おそらく、謎空間に転送した後の情報が無いままに目覚めるだけだろう。


 現世に戻るかどうか、それは二人の判断に委ねるところが大きい。

 ただしそれは、特にツトムの帰還に至っては、よく考えなくてはならないことだった。

 ツトムが現世に戻ることで、『あらゆる壁を通り抜ける力』が失われてしまうのだ。


 世界の中心に立ち入ることが出来なくなる。それは即ち、残る五人を現世に戻すことが出来なくなるということ。

 先ずはツトムへの状況説明を終えると、その判断を問うことに。

 すると、ツトムは快く、残る五人を世界の中心に連れ来てくれることを約束してくれた。



 しかし――ここで、残る三つ目の事象。

 ツトムの通り抜ける力が使えなくなっていたのだ。これにより、二度と世界の中心から出ることが叶わなくなったのだった。


 童話には、神は『力の選択を見守る』と書かれていた。

 導くという意味は不明なままだが、もしも選択出来る――使用出来る力の数に制限があるのだとしたら。

 

 ――人工意識体を転送してみてわかったのは、意識世界で持たせたその機能が、謎空間では『力』として宿っていたこと。

 解析機能は解析する力に、永続する活動期間は不老の力へと変わっていた。


 ただし、フタバの解析する力は依然として使用することが出来ていた。管制室との交信も相変わらず。

 しかしそれは、フタバが意識世界に立ち入ったことで、力が機能に戻ったためと考えられた。

 だから、フタバが金色の球を解析したのも、力の使用にはカウントされなかったのだろう。


 ただし、金色の球を直に触れて解析してみるために、ツトムの力を使用してしまっていたのだ。

 結果は、やはり何もわからなかったのだが……。




 結局のところ、出来たのはツトムを現世に戻すことだけ。

 やはり謎空間での記憶を有しないツトムだが、無事の帰還を果たしたのだった。


 そして――世界の中心には一人、フタバが残された。

 活動期間を九年弱も残したフタバの恨み節を聞きながら、タロウはさらなる開発に励み――


 半年後には、意識の情報化、転送を可能とする装置の個別化に成功。

 さらにはそのサイズを縮小化し、人体への組み込みをも可能としたのだった。

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