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136話 線でつながっていると考える

 移住開始当時の、タロウの年齢は五十五歳、レイチェル四十九歳、アオイは二十三歳だった。

 関係者の特権として、いつの時点から年を重ねないか、その年齢を選ぶことも出来た。

 さらには意識体だからと、その見た目すらも自由に操作可能という最高の権利が与えられていた。


 自他共に絶世の美女と認めるレイチェル。自称母の血だけを色濃く受け継いだ、誰もが美少女だと認める容姿を持つアオイ。いずれもその年齢だけを設定した。

 レイチェルは、自身の肉体最盛期とする二十二歳、アオイはスキンケア等々が楽という十六歳。

 ちなみにタロウも、自身が最も渋く格好良いと思う三十四歳に設定したのだが、謎のナニかのごとく、誰からも何の手応えも得られなかったという。



 ――本来なら憶測も、総統の立場であるタロウが話すべきところだが、娘のアオイに任せるのには理由があった。

 タロウは過去の、理論を提唱した際の出来事を未だにトラウマとしていたのだ。


『わぁ、面白い!』と漫画やアニメといったフィクションへのそれに似た評価をする者。鼻で笑う者、無関心な者、やれ『戯れ言だ』やれ『時間を返せ』などとのたまう者もいた。

 技術が伴わない当時、そんな反応は目に見えていたから、その場は深いため息一つで済む筈だったのだが――


 ここで乱入者のごとく登壇し、千人を超える聴講者に面と向かう人物がいた。


「私、この場の全員の素性と顔を記憶したから。もしも意識世界に移住が可能になっても、あんたらは出禁ね」


 ギラギラとニヤニヤを併せ持った、恐ろしい笑みを浮かべる金髪の美女。

 当時はタロウのただの恋人――二十二歳、最盛期のレイチェルだった。


 命知らずの怒号が飛び交う中、レイチェルはさらに聴講者を煽り始める。


「もしも実現出来なかったら、全身の毛と歯を全部抜いて、全裸で、世界中の人の前で謝ってあげるわ。こいつが」


 実現させなくては、陳謝よりも先にこの世から抹消されそうだ。そう悟った『こいつ』は、その二十五年後に見事、移住計画を開始させたのだった。


 ……こいつ、何で毛も歯も生えてるわけ?

 ……そいつが計画を成功させたからだろうが?

 ……わたし、こいつが失敗する時間軸に生まれ変わりたかったな?

 いや、あなたたち、そもそも親子じゃないでしょう?



 ――トラウマを抱えるタロウは、人前で根拠の無い話をしようとすると、未だに足が震えて目が泳ぐ。

 レイチェルは、その当時既に医学界の権威と呼ばれていた。だが、自称――絶世美女覇気レイチェルパウワー、他称――威圧感おどしが邪魔をするために、迂闊に人前に出ることを自重していた。

 我関せずのズッ友はさておき、残るのがアオイだったのだが――実はアオイ、IQが200を超える天才だった。


 十五歳時点で物理学、考古学、心理学といったあらゆる分野に精通し、学会で賞を総なめにするほど。

 アオイは大きな猫目で画面越しの有識者たちを一睨みし、黙らせると、憶測を口にした。



「結局、父の……さっきの、なんかオタクの人が言うとおりに、三つの事象は訳のわからないもの。

 でもね、それはそれぞれの事象を点で捉えるからなの。それぞれが線で繋がっていると考える。さらに、同時に起きたそれらに時系列を設けてみると、とある考えへと至るの。


 先ずは、意識世界に正体不明の世界が出現した。

 一体何が起きたのか。さっき、オタクの人は報告しなかったけど、実は保存された意識情報が使用された形跡があった。それも、およそ百万人分の意識情報。

 ……何でさっき報告しなかったのか? あぁ、あの人はマゾだから、後で罵られたかったからでしょ――というのは半分冗談で。

 この憶測と合わせて報告した方が混乱を避けることが出来る、そう判断したから。


 一先ず安心してもらいたいのは、使用された意識情報は、データとしてちゃんと残ったまま。

 知ってる人も多いと思うけど、現実世界の媒体に出力されると同時に、そのデータは管理下から消えて無くなるの。

 残っているということは、意識世界の中で何かに使用されたということ。


 可能性として考えられるのは二つ。

 一つは、何らかの条件下で抽出した百万人分の意識情報を使って、正体不明の謎世界がつくられた。

 もう一つは、謎世界の発生源は別として、その世界に存在させる意識体に宿す意識情報として使われた。



 じゃあ次に、意識の行方がわからなくなった七人だけど……なんとなく、想像出来ない? 

 七人は、謎世界が生まれたのと同時に命を落とした。全移住民の中で、たまたまコンマ一秒の誤差もなく、まさにその瞬間に意識が途絶えたのがその七人。

 その意識は、選択の場に導かれるよりも先に――そう、謎世界に導かれてしまったんじゃないかな?

 管理外の、一切の干渉が出来ない謎世界に入った時点で、意識は消息を絶った……。



 最後に、現世に顕現した謎の空間だけど。

 なんかあれ、やけに綺麗な直方体だなーって思うわけ。まるで、もっと大きな何かから切り取った一部分みたいな――ってことで、とある仮説を立ててみたの。


 あの謎空間は、意識世界に出現した謎世界の一部を切り取ったもの。スキャンして転送したもの、って表現した方がわかりやすいかな?


 意識世界をつくるときは、先ず現実世界の地球をまるっとタロウ棒……KDくそダサ棒でスキャンする。

 次に、情報化したそれを意識世界に転送して、顕現させる。

 今回はそれと逆のパターン。


 つまり、意識世界でスキャンした情報を現実に転送して、顕現させた……なんて、ありえへんやろがーい!

 って、つっこみたくもなるよね?

 うん。わたしもそう思う。


 だから――確かめてみよう!

 わたしが居るこの意識世界でスキャンした情報を、現実に向けて転送してみるだけだもんね。


 実は、今まで考えもしなかった。だって、意識世界に存在する時点で、全てのものは初めっから情報なんだもん。わざわざスキャンして情報化なんてする意味無いでしょ?

 でもね、もしもそんな一手間で、意識世界のモノを現実に顕現出来ちゃうとしたら……?


 試してみて成功したら、この説は立証。しかも、意識世界でつくったモノを現実に持ち込めることになる。

 それって……世紀の大発見じゃない!?


 懸念事項もあるけど……まっ、それは立証されてからでも良いかな。

 もしも間違ってたら――あの、オタクの人が全身の毛と歯を全部抜いて、全裸で責任取るってさ。以上!」

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