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129話 思ったとおり

 黄色い草原に背を付き、笑い悶絶するキィ。

 コタロウはそんな美少女猫を見下ろし、一人考え事をしていた。

 他の六人は、とある重要事項を確認するため、見えない壁へと急ぎ向かっている。


 激変を見せたキィからの言葉で、俺はすぐに三つの憶測を立てていた。

 この世界が異世界か、あるいは意識世界かどうかは特に関係しない。

 憶測の大前提となるのは、キィたち大神父が厄災に支配されているかどうか。

 そして、キィが言う『思ったとおりの行動』とは何なのか――その二つ。



 まず、大神父が厄災に支配されている場合。

 その存在意義は、女神を復活するためではなく、厄災を解放するためへと上書きされている。


 おそらく厄災は、目の前に浮かぶ黒く禍々しい謎の球体だろう。

 これまで、女神の復活だけに目を向けてきた俺たちは、厄災を解放する手段については当然ながら考えたことがなかった。

 では、解放するのに必要となるのは一体何なのか。


 これまでの俺たちの行動が、キィの言う『思ったとおり』であるならば――『見えないナニかを切り取る力』と『変異種の一新による力の強化』ではないだろうか。

 厄災は、見えない壁と同じようなナニかの中に封印されている。そのナニかは、ゴーストが宿していた本来の力では切り取ることが出来ない。

 だが、変異種が一新し強化されることで、それが叶うのだとしたら―― 


 まさに、俺たちは思いどおりに行動したことになる。

 そしてそれはいつの時点からかと言うと……百年前に現世に帰ったという墓男が、自身の墓に『願いを叶える力』を宿した時点、ではないか。


 俺たち七人は現世で、それぞれの強い願いをその胸に秘めていた。

 そしてその願いにより得た力は、ゴーストの討伐、変異種の一新を実現可能だと考えられた。

 俺たちは、まんまと眉唾なパワースポットツアーに参加し、まんまと墓男の墓前で願った。

 そして今、厄災の解放に必要な力を持ったアオイが、自分の足で中心ここにやって来たのだ。


 それは、キィも可笑しくて仕方ないのは頷ける。

 キィが女性陣を見知っている様子なのも、現世にいる頃からその行動を管理し、その人となりを一方的にだが熟知しているからではないか。

 それも女性陣だけでなく、七人全てのことを、もしかすると親よりもよく知っているのかもしれない。



 とは言え、この憶測が合っていたとして――俺たちは、大人しく厄災を解放する気などない。

 何より、最狂女子がこれ以上思いどおりに動くわけがないのだ。

 それでもキィが『思いどおり』だと笑い転げているのはどういうことか……。


 それは即ち、中心ここに立ち入った時点で引き返すことが出来ない。

 もはや厄災を解放するしか選択肢が無い、ということなのではないか……。

 先ずは引き返すという選択肢が残っているかを確認すべく、六人は見えない壁へと駆け出していたのだった。


 だが俺には、確認などする以前から、引き返すことが出来ないであろうことはわかっていた。

 ――無いのだ。常に自分の斜め上方に表示させていた視界画面が消失し、表示させることも出来なくなっていた。



 気付いたのは、壁の中に立ち入り、程なくしてからのこと。

 試しに自身の力を使って出入りが出来たアオイと同様、壁に立ち入ってすぐは、俺の力も使用可能だった。


 ここは、あらゆる力を阻む壁に囲まれた空間。

 もしかすると黒髪の全ての力が無効化されるのではないか――そんな予想が外れ、自由に使えることに驚いていたから間違いない。

 では何故、暫くすると使えなくなったのか。

 そもそも、目の前の画面が消えたのは、キィが中に立ち入った瞬間ではなかったか……。


 大神父と共に世界の中心に居るという今の状況は、大神父に導かれたのと同じものではないだろうか。

 つまり、黒髪は自身に宿す力が使えない状況下で、何らかの選択をするということなのか……?


 言えるのは、今の俺たちが出来る選択は、厄災を解放することしか無いということ。

 それ以外には、不死の力も無効化されるこの空間で、ただ死を待つしかないのではないか。

 どうせ死ぬしかないのなら、厄災を解放して世界の滅びと同時に死ぬのと変わりがない。

 それが、厄災に支配された大神父たちが思い描く結末に違いない。




 ここで三つの憶測に戻り、一つ目。

 最悪なそれは、この世界が滅びるも、無に還らないというもの。

 世界は混沌の中で在り続ける。二十五年後には、また新たな七人の転生者がやって来ることだろう。

 本来の五十年という周期は、神がつくった理なのだから。

 結果、神が黒髪に望むことには『厄災の封印あるいは討伐』が追加されるかもしれない。


 二つ目の憶測。この世界が滅んで、全てが無に還るというもの。

 現時点でここにいる俺たち黒髪が犠牲になるだけで、今後は新たな転生者がやって来ることが無くなるのなら――これは、捉え方によっては良い結末とも言える。

 勿論、この世界が終わって、尚且つ俺たち七人が無事に現世に戻れることが最高の結末なのだが。



 もう一つの憶測の前に、大前提に戻る。

 一方で、キィたちが厄災に支配されていない場合――ここで言う本当の『思ったとおり』とは、女神の復活を叶える黒髪がこの世界にやって来ることだろう。

 ただし、そんな力が都合良くやって来る望みは薄い。

 そこで、次に期待するのは『黒髪が、そんな力を持つ変異種を討伐すること』あるいは『黒髪の力が強化されて、そんな力に育つこと』だろうか。


 内側にやって来る変異種は、比較的にその力が弱いものだという。

 望む力を持つ変異種は、おそらくだが一新を繰り返さなければ現れないだろう。

 即ち、いずれにせよ変異種を討伐し、一新を続けるのが絶対条件となるのだ。

 そんな俺たちは、先ずは思いどおりに変異種をたったの一度だが、一新させた。


 イゾウの『時を戻す力』も強化されたが、ただ寿命が一年延びただけという……いや、それはミュウの毒ボケだったか。

 本当の強化は何だったか……とにかく、女神の復活にはほど遠い強化だった。



 ここで、俺が立てた三つ目の憶測。

 キィが笑っているのは、当時の変異種を一新するために選んだ七つの力が、思ったとおりに一新したことを、ただただ嬉しく思っているから。

『これからも頑張ってね!』

 そんなキィの可愛い一言で、七人はただ外へと戻される。


 ただ、それだけの、だが俺にとっては最高の結末だった。


 何故なら、目の前で無邪気に笑う美少女猫を疑うことなく済むのだから。

 他の六人にはとても言えないが……俺の憧れた異世界で、これからも生き続ける明確な理由が生まれるのだから。

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