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128話 疑惑

「……く……くくっ……」


 遂に笑いが漏れ出したキィ。

 黄色い草原に背中を付くと、両手足を振りながら笑い転げ始める。


「にゃーっはっはっは! ひ、ひぇーっ……も、もう……我慢出来ないよぉ!」

「き、キィ……? お前、まさか……レイの金玉発言がそんなに面白かったのか?」

「はぁ? ――切り取るよ?」

「切り取ってくれるな! 言っとくけど、金の玉は目に見えないナニかではないからな!?」

「にゃはははっ! にっひっひ……も、もう……夫婦めおと漫才で追い打ちかけないで! ――はぁ。ボク、こんなに可笑しいの三百年以上振りだよ! ――もう、隠し事しなくて良いんだもんね!」

「ボク……? 隠し事……? キィ、お前やっぱり……」


 これまでの可愛く清楚な笑いから一変し、幼く無邪気な笑顔を見せるキィ。

 口調も、いつものかしこまったものとは全く異なっていた。

 容姿は変わらずの美少女猫だが、まるで中身だけが別人に変わったかのように見えてしまう。

 そんなキィを、いつにもない神妙な面持ちで見つめるコタロウ。


 そんな二人を交互に見つめるレイは、胸に秘めていた疑惑を膨らませていた。



「ねぇ、キィ。隠し事しないって言うのなら、答えてくれる?」

「にゃーん。レイちゃまの質問ならボク、何だって答えちゃうよ!」

「レイ、ちゃま……? じゃあ、聞くけど。あなたたち大神父の――」

「ちょっと待った!」


 レイの発言は珍しく、コタロウによって止められる。

 これから聞こうとしているのは、コタロウが以前キィに直接確認をしたこと。

 ここはコタロウから問い質すべきかもしれないと、レイは言葉を止め、真剣な眼差しを送る横顔を見つめた。



「キィ、お前――ボクっだったのかよ! 美少女で猫で大神父で、ボクっ娘? 異世界の要素てんこ盛りじゃねえか!」


 女性陣は、まるで漫画のように脚を挙げて後転しそうになるところを何とか堪えると、コタロウへの罵倒を始める。


「タコロス、あんたはアホか!」

「バッカじゃないの!?」

「……アオイ、切り取ってくれる?」

「にゃーっはっは! アオちゃまも相変わらずだねぇ。でも……まさかミュウたんも最狂そっち側に加わるのは予想外だったけどね」

「アオ、ちゃま……?」

「ミュウ、たん……? わたしだけ『たん』なの? なんか、ミュータントみたいで……ありかも」


 『ありなんかーい』というツッコミを秘めつつ、コタロウはなんとか興奮を抑えると、冷静に状況把握を始める。


 レイとミュウの二人は、およそ一か月前の同日にキィと出会った。

 アオイに至っては、昨日初めて対面したばかり。


 それが……キィは三人をまるで以前から見知っていたかのような、さらには親密な様子を見せているのだ。

 そっち側というのは理解出来ないが、やはりよく見知った仲ということなのだろう。


「ちょっと待って……いろいろと理解が追い付かない。どんどん気になる情報ことが出てくるけど、一旦はタコロスに邪魔された確認をさせてね? ――キィたち大神父の、本当の目的は何なわけ?」

「あらら? それは前にタコさんに答えたけど……まさか、報告受けてないの? ダメじゃーん。ホウ・レン・ソウはどの世界でも重要でしょ?」

「タコさん呼びはそのままなんだな……って、俺はちゃんと皆に話したぞ。それでもなお疑惑が浮上したのは、お前のその変貌のせいだろうが!」


 もしかしたら自分の呼称も変わるかと期待したコタロウ。

 そもそもキィのその呼び方は、タコロスという呼称が出る前から変わらないのだ。

 でも、それなら何故に自分だけは愛称のようなもので呼ばれていたのか……?


 どうでも良いことを考え始めるコタロウを余所に、レイは話を続ける。



「大神父が存在するのは、『女神を復活させたい』という神の願いを叶えるため。そのために、黒髪を中心ここに導く力を与えられた。――でも、それは私たちの憶測にすぎない。だって、童話にはあなたたちのことは一切書かれていないから」

「うそーん、ボクたちを信じてくれないの? 前にタコさんに言ったとおりだよ。ボクたちを産み出したのは、この世界を創造した神さまで間違い無いんだからね!」

「……うん。あなたたちは、嘘は言わない。それは、今でも信じてるよ。でもね……この前、緑の国でミドリさんの話を聞いて、あなたたちの存在に対して疑いを持つようになった。

 ミドリさんは大神父なのに、変異種に寄生されたでしょ? さらには、お腹に宿した子供には厄災の残滓が乗り移ってしまった」

「うんうん。ミドっちってば絶望的な悲運スキル持ちだからね。――えぇ、仕方の無いことです。だね!」


「ミドっち……。いや、まずは話を進めるよ。――大神父は、この世界への干渉が大きく制限されている。逆に、私たちも大神父には干渉出来ない部分がある。とは言えこっちの制限は、大神父が持っている情報を詮索するような力が及ばないだけ。ほら、ゴロウの昔話に出てきた同僚……あれはコリーで間違い無いけど、黒髪の力で封じ込められて、圧縮までされてたでしょ?

 つまり、私が言いたいのは――あなたたち大神父は、神によって産み出された後に、厄災に支配されている可能性があるということ。例えば、インプみたいな残滓が四つに分かたれたか、あるいは別々の四つの残滓が大神父の身に宿っているか。見た目とか意識はそのままに、その存在意義を支配しているんじゃない?

 その結果、大神父の目的は、女神の復活から厄災を解放することへと上書きされてしまった――」




 相変わらず無邪気な笑顔を見せるキィは、レイの話を楽しんでいるかのようだった。

 そんなキィを睨むように見つめるレイ。

 レイのこの考えもまた、憶測の域を出ることはないもの――こればかりは間違っていて欲しいと、切に願うもの。


「にゃはーん。流石はレイちゃま! ――えぇ。あなた方は本当に、思ったとおりに行動してくれました。まさか、アオイさんがゴーストを討伐してすぐに死んでしまうとは、それは予想外でしたが。

 でも結局、まさか全員でこの場にやって来るとは……うまくいき過ぎて、おっかしいよ! にゃーっはっはっは!」


 キィは再び笑い転げ始める。

 否定することを待ち望んでいたレイたちは、その様子をただ悲観することしか出来なかった――

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