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11話 神のネーミングセンス

 この異世界で、六人が紡ぐ物語を読むことができるが、物語に干渉することは出来ない。

 それが、俺の物語りスキルだ。


 自身はもちろん、他の六人が異世界人であること。さらには願い得たスキルを口外することもできないのだろう。

 とすると……


 え? 俺、せっかく自分から何かをやろうって思ったのに?

 ちょっと、空気読んでよ、神さま……


「何ですかな?」


 山羊の神父が首を捻り、あごひげを触りながらこちらを見つめている。


 それなら、どうにかして干渉せずに事実を語ることができないだろうか。

 試しに『結果予知』と口にするも、やはり声にならない。

 だが、『自分の頭が割られる光景を見た』と、予知の結果を口にすると、その声は神父に聞こえたようだ。


「なんですと!? まさか、わたしの心を読んだのですか!?」

「え、お前、俺を殺す気だったのか!?」

「ふぉっふぉ! 冗談に決まっていましょう」


 全くこの神父は……って、そんな冗談がすぐに思い浮かぶものだろうか。

 なんだか、目の前でふぉっふぉと微笑む山羊が恐ろしい生き物に見えてしまった。

 だが、今は信じるしか無い。

 頭を割られるのはもちろん嫌だが、別に再度リタイアしても、あの空間に戻るだけなのだから。


「ある者が拳を振ると、目の前の真っ赤な草原が抉れていく、『――』……のを見た。

 またある者は、まるで衝撃波のようなそれを『――』……が、目の前でそっくりそのまま跳ね返るのを見た」

「ほぉ。すごい人たちですな。まるで手品のようですじゃ」


 言葉にならなかったのは、『まるで衝撃波なものを放つことが出来た』『そっくりそのまま跳ね返すことが出来た』という部分だけ。


 つまり、六人のスキルを断定できるようなことは言えないのか?

 でも、さっき言えただけの内容でも、聞いたら容易に想像出来るよな……まぁ、聞く人によって答えが変わるから、断定ではないということなのか?


 俺は、あくまでも物語を読む者。第三者。

 見聞きした物事を、ただそのまま、事実として語ることはで出来る。

 そう言うことか。




「神の家って、人が集まるときはあるのか?」

「特に集まることも、集めることもありません。みなさんが好きなときに来て、祈る。そのためにある場所ですから」

「でも、掲げているのは王様だろ? 自分の家で祈っても同じじゃないか?」

「ふぉっふぉ! それはそうかもしれません。でも、ここは特別な場所。神のお導きを受けやすいのです」

「お導き……何か、声が聞こえたりするのか?」

「えぇ。何しろ今朝、わたしは『今日のラッキーアイテムは白豚!』という声を聞きましたからな」

「朝の占いかよ!」

「というのは嘘ですが」

「嘘かよ! ったく、このじじぃは……じゃあ、お導きって言っても、それはただそう感じるっていうか、気休めというか……いや、すまん。何でもない」


 人が信じていることに口を出すものでは無い。

 特にそれが宗教の場合、信仰の相違が戦争の火種となる場合もあるのだから。


「ふぉっふぉ! 信じる者は救われる。そんな気休めかもしれない。……それは、そうかもしれませんが。でも、あなたはここに運ばれて来た。そして、再び生を受けた。これは神のお導きでは無いのですか?」


 俺の場合は、じいさんが復活の呪文を……いや、もしかすると神の……あの墓に眠るやつの仕業かもしれない。


 俺を含む七人にスキルを与えて、この世界に転生させた。

 そこに何か意味があるのか、あるいは意味など無く、ただの神の戯れなのか。


 もしも意味があるのなら、俺たちに何かをさせようとしているのかもしれない。

 それなのに……俺は開始早々にリタイアしてしまった。

 神にとっても想定外で、『えっ!? 何こいつ、嘘だろっ!?』と目を見開いたかもしれない。



 勝手な推測ばかりだが、おそらく、神は俺たちの行動を操作することはできないのではないか。

 できたとしても、それはスタートラインに立つまで。

 つまり、目覚めるまでだろう、と思っている。


 真っ先に死んでしまった俺が生き返るように、いろいろと考えて、じいさんを最後に起こしたのであれば……


「そうだな。俺は、神のお導きを受けて、ここに生きている」


 そう答えると、神父は大きな口を目一杯に開いて、微笑んだ。




 ――俺は、『神のお導きで生き返った人間』として、町の有名人になった。

 その後、神父からいろいろと教えてもらったのだが、まず、俺が転生されたこの町。


 ここは黄の国の『オネショの町』というらしい。

 黄の国では、城下町を含むと三番目に栄えているという。


「ていうか、神のネーミングセンス!」


 いくつかの町の名前を聞いて、神につっこんだ。

 城下町の『レモーヌ』を初めとして、『バナーナ』『ヒマワリー』などなど。

 黄の国だから、黄色で思い浮かぶ名前を付けたのだろう。


 わかるけど、でも、オネショって!

 そりゃ、オシッコとかニョーとかストレートに言うよりはオシャレかもしれないけど……オネショって!



 ――三日後。オネショの町の中心部にある神の家。

 俺は今日、これからここで、物語を読み聞かせることになっている。

 『異世界名作劇場』『異世界不思議発見』いろいろと考えたが、結局物語のタイトルは付けないことにした。


 『神の子が面白いことを話す!』というざっくりとハードルを上げるチラシが、神の家に入ってすぐの掲示板に貼られていた。


 壇上の椅子に座ると、目の前に一つだけ大きな画面を表示させる。

 今朝までじっくりと時間をかけて、六人の昨日までの出来事をダイジェストとしてまとめたのだ。

 それを流しながら、語ることにしていた。


 実は、何度も練習しているうちに、物語に干渉するかどうかの判定基準がかなり緩いことがわかっていた。


 例えば、『この異世界、赤の国に転生したトドロキは、絶対的強者と呼ばれるスキルを得た。それは右拳を一振りするだけで全てを終わらせるもの』

 これは、全てがピーになる。


 これを、『とある異世界、燃えさかる炎の国に転生した少年は、ものすごい拳を手に入れた。少し振れば、そよ風が。大きく振れば暴風を起こすことすら出来る、すごい拳だ』

 と言えば、全てが声として出る。つまり、認められるのだ。

 残念な語彙力は大目に見てもらうとして、


「んんっ」


 喉を整えながら目の前の座席を見ると、既に十五人ほどの獣人が集まっていた。

 そこには、俺を神の家に運んでくれた四人もいた。

 あの後、俺が生き返ったことを知り、すぐに駆け付けてくれた。

 ボソボソとお礼を言う俺に、四人は泣いて喜んでくれた。


 全く、本当に良い国に転生したものだ。

 俺も、生まれて初めて『生の人』から、もらい泣きをしてしまった。



 二十人が席に着くと、神父は出入り口の扉を閉めた。

 人前に立つことなど記憶に無く、かなり緊張している。

 だが、高揚感がそれを上回っていた。


 経験は無いが、こんな状態だろう。



「来週末、車で海に行こうぜ!」

 ↓

「じゃあ俺、ナウい曲準備するわ!」

 ↓

『マイフェイバリットソング』とタイトル付けたイカすカセットテープが完成する

 ↓

「あぁ、当日が待ちきれないぜ!」



 たぶん、こんな高揚感。

 気を付けなければ、早口になってしまう。でも、語り禁止用語が出ないようにも気を使うから、自ずとそこはゆっくりになるはずだ。


 俺は、物語りを始めた。


「これは、ここではないとある世界に転生した、六人が紡ぐ物語――」




 ――初日の、俺が生き返るまでのことを約三十分で話し終えると、一旦休憩時間を設けた。


「桜の国の美男美女は無事なのか?」

「炎の国の少年少女、結ばれると良いな!」

「一日一回死んでしまうなんて……雪の国のおじいさん、彼女の復讐を終わらせてあげて!」


 オネショ特製の黄色い何かで喉を潤していると、ザワザワと続きを気にする声が聞こえてきた。

 思ったとおりの反応に、編集の甲斐があったとニヤける。


 間髪入れずに進めた方が良いと判断すると、すぐに再開した。


「桜の国の『見える人』。彼女の前に現れたのは、熊のような体に猪の頭がくっついた大男。オークだった――」

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