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117話 嫌な予感

『先ずは、変異種の習性についてお伝えしましょう。どうやら変異種は、壁に近いところを好み生息するようなのです。虫が光に群がるのと似たものなのか、微細な力を放つ壁に惹かれるようですね』


 これまでに討伐された変異種を思い返したレイ。

 黄の国の城下町に根付いていた変異樹へんいじゅを除くと、その全てが壁に近いところに生息していた……気がする。


『ただし、全ての変異種が壁に群がる訳ではないのです。比較的にその身に宿す力が弱いほど、壁の近くに生息するようなのです』

「……ちょっと、待ってね? ……何だか私、すごく嫌な予感がするんだけど……。ねぇ、ミュウ、タコロス?」


 レイの問い掛けに、ミュウの視界はずっとイケメンけんを映したまま、ウンともスンともワンとも言わない。

 まさか、同じタイミングで一緒に驚き嘆こうと、黙って待っているのではないか……。



『つまり――壁が動いたことで、比較的弱い変異種だけが消滅したのです。きっと、レイさんの予感と一致したことでしょうね。結果、壁の外には比較的強い変異種が残りました。今度は、その中でも比較的弱い個体が、壁の近くに生息することになるでしょう』

「あの……最後に僕たちが討伐した変異種は、緑の国のドクターに寄生していたやつ、ですよね? その時点で、他の国には三体、別の変異種が居たと思うのですが……まさか、その三体も……?」

『ワン! ――えぇ、それもあなたが考えているとおりでしょう。壁の内側の変異種は、まさしく一新したのです。最後の変異種が消滅したのと同時に、他の三体の力は壁に吸収されました。

 そして――移動後の壁に最も近いところに生息していた変異種が、各国に配置され直したのです! ――以上が、わたくしからお伝え出来る事実です』

「ちょっとちょっと……それって、つまり……?」


 世界の拡がりがもたらしたもの――レイが嫌なことを考えるよりも先に、コタロウが早口にその思考の先を口にする。


『ロールプレイングゲームで例えるとわかりやすいだろう。冒険を進めると、未踏の地にはより強い魔物が出現する。より強い装備を調達したりレベルを上げたりしないと、すぐに全滅してしまうんだ。

 つまり俺たち黒髪が得たのは、壁が討伐した変異種の経験値。経験値で、スキルレベルが上がったんだ。これをご褒美と言わずして何をご褒美と言うんだ?』



 ちゃうやーん!

 レイの頭の中では、グルグルとコタロウへのツッコミやら嘆きやらが渦巻く。


 いやいや、ご褒美なのかもしれないけど。でもね、よくよく考えてもみなさい。

 スキルレベルの上昇と変異種の強さの上昇度合いが合ってるのかって話よ。

 だって、前回の一新から三百年も経過してるんだよ?

 七人の転生者が六度もやって来たのに、一新も出来なかったんだよ?


 それを……なんでタコロスは楽しそうにしてるわけ?

 現実逃避?

 いや、そもそも異世界に憧れて私たちを巻き込んだのがこいつだった。

 そうか……レベルアップした力で、より高度な刑をお与え下さいってことね。


 レイが不敵に微笑むと、画面先の意気揚々としたコタロウは薄らと青ざめた……気がする。



「比較的弱いとは言っても……内側の変異種を一新させるのに、前回から三百年も経ってますよね……」


 シンジも、レイと同じ嘆きを口にする。

 レイが借りているミュウの視界画面では、ミュウ本人の表情を見ることだけが出来ない。

 だが、きっと、代わりにタコロスを睨みつけてくれているに違いない。

 何なら鋭利なナニかで一刺しくらいはしてくれていることだろう。


 レイとシンジが俯くも、その場に居るチナマッグ風の三人だけは変わらず意気揚々としていた。


「何が問題なんだ? 強くなった俺らが、強くなった変異種をやっつけるんだろ? これまでと変わらねえじゃんか!」

「おぉ、力比べなら俺に任せろや!」

「ぐふふ。安心しなさい! 内側にはこのアタシが居るんだから。変異種なんてちょちょいのちょいだぜ!」


 何とも力強い三人だ――と思いたいレイだったが、ここでふと、新たな疑問を抱く。


「ねえ、ワンワン? あのさ、黒髪じゃない人の……マツリたちの力は強化されたわけ?」


 黒髪のスキルが強化されたのなら、力を得た住人の身体能力が上がっていてもおかしくない。

 純粋な力を持つ存在は、今後の変異種討伐引いてはこの世界攻略にとって、文字どおり心強いのだ。


『カインとお呼び下さい。――えぇ。種類は異なりますが、壁の移動後に内側に存在していた全ての力が強化されていますよ!』

「そうか、やっぱり……。なんか、また胸が重くなった気がしてたんだわ」


 まさかあんた、本当にそのお胸も強化対象なわけ?

 ツッコミを入れたいレイだったが、非情に繊細な事案であるため、大人しく唇を噛むだけで済ませる。


「おぉ。なんか俺も、急に力が漲ってきたぜ!」


 いやいや、ビエニカさん?

 壁が移動したのは四日くらい前だし、あんたには関係が……ん?


「ビー団長、まさかあんたも力を持って……継いでるわけ?」

「誰がビー団長だ! ……おぉ。俺のご先祖様も壁の外側で変異種をったらしいぜ?」



 先ほど、犬神父は言っていた。

 住人が力をその身に宿すのは、壁の外側で且つ黒髪が居ない場合に変異種を討伐したとき。

 そして、おそらくそれは『初めてその身に宿す場合』ではないかとレイは推測する。


 アカネが壁の外に出たのは三百二十年くらい前のこと。

 おそらくその時点で、マツリの先祖が既に変異種を討伐して、その力を得ていたのだろう。

 そして、一度その身に力を宿すと、今後は黒髪が居てもその力は討伐した住人に宿る。

 マツリが変異種を一体討伐したと言っていたのに、アカネにそのスキルが宿っていないのがその証拠だ。


 そして、目の前で豪快に笑うビエニカだが――父親の出身が、前回の拡がりで内側に編入された村だと言っていた。

 つまりビエニカの先祖も、ずっと昔に壁の外で変異種を討伐して、その力を継いできたのだ。


 そう言えば……ミュウが『この世界の騎士団長、変異種の力を得てる説』を立てていた気がする。

 今頃は『よっしゃ!』と拳を強く握り、それをタコロスの鳩尾あたりにめり込ませてくれていることだろう。


「やたら強そうなオークだと思ったぜ。あんたのとこは何体だ?」

「俺んとこは二体だが、ほぼほぼ腕力だけの強化だからな、すげえつええぞ?」

「へえ。うちは四体で、バランス型なんだわ。まぁ、アタシの方が二倍強いだろうけどな!」

「おい、俺を忘れてくれるなよ? 俺の拳は絶対だぜ!」


 何やら盛り上がるチナマッグ風の三人。

 ロキだけズレているが、何故だか会話は成立しているようだ。



「盛り上がってるところごめん。話を戻すけど――反発少女の力は今、壁が吸収したままって考えて良いの?」

『ワン! ――えぇ。今はまだ、壁の中にありますとも。あなた方の強化に使われるのは、変異種の力のみと考えると良いでしょう』


 今は、という含みが気になるが、今はそれ以上のことを聞いても答えてもらえないだろう。

 望んだ答えを得たレイは、本来の目的を果たそうと腰を上げ――ようとしたところを、マツリに止められた。

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