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101話 アカネ様

 チマツリー村の住人が口にしたのは『アカネ様』という、おそらく女性の名前。

 奇しくも、レイとシンジがつい直前に聞いていた名前と一致していた。

 それは、二人がコタロウから借りている視界画面から聞こえてきたもの。

 画面の先では、その名を口にしたイゾウという新ヨボキャラへの聞き取りが始まっていた。

 とは言え、この件に関しては、こちらの方がより詳細な情報を得られそうだ。


 レイは、改めて目の前のシンジと村人のやりとりに意識を向ける。

 この場に居る村人の大半には、彼の言い聞かせる力の効果が及んでいた。

 私が問い掛けてもウンともスンとも言わないどころか、何故か怯えや焦りの類いを見せる村人。

 腑に落ちないことだらけのレイだが、こちらの聞き取りはシンジに一任していた。


「その……アカネ様というのは、黒髪ですか?」

「そうだ。あんたら二人と同じ、黒髪だ」

「んだ。最初におさんらを見たとぎは、そりゃおったまげたもんだべ!」


 二人というのが、彼とロキのことを言っているのはわかる。

 でも、それにしては……そのときよりも、私を見たときの反応の方が過敏だった気がするのだが……?


「もしかすると、アカネ様は何らかの力を持っているのでは? その力を奪うべく、チナマッグ村の住人が襲ってくる。違いますか?」

「そのとおりだ!」

「んだ! おさん、聡明だべ!」

「さっすが黒髪だ! そっちの黒髪は……なんわりもんでも食ったか?」


 何やらショックを受けるロキだが、何も変なことは言われていないと思うが。


「その、アカネ様の力というのは?」

「それは――」

「おいっ、おめえら! 何でこんなよそ者に教える必要があるんだ!?」

「そうだそうだ!」



 彼が言い聞かせる人数には、十人までという制限がある。

 力が及んでいない村人による反発が始まったのだ。

 力が及んでいるのは、守りの前線に立っていた十人。どうやら、その権力も強いらしい。

 反発していた数人は、直ちに十人のシンジ派によって鎮圧される。


「――アカネ様は、予言の力を持っている」

「んだ。一日に一度に限るが、予言したことがそのとおりになるだ!」


 口にしたことが現実になる力……?


 「何それ、すごくない?」


 思わず感想を口に出してしまうレイ。

 当然、そこには回数制限の他にも、現実となる予言の上限もあることだろう。

 さらに、何らかのデメリットもあるかもしれない。


「そんな凄い力を持つアカネ様を、チナマッグの人たちはこの村を襲ってでも奪いたい……」

「そうだ。でもな……その力、良いことばかり起こるわけじゃねぇんだ」

「んだ。良いことが起こっと、必ず、わりいこども起こっちまうだ!」

「必ず……対になるような出来事も起こってしまう……? じゃあ、一日一度とは言え、気軽に使える力では無いのか……」


「それが、そうでも無い。アカネ様がこの村にやって来てから今日まで、ある予言だけを続けてくれている」

「んだ。この村の人に良いこどもわりいこども、なんも起きねえでくれ! って、そんな予言だべ!」

「その対となる出来事は何も起こらない……? 変異種がウロウロしていたこの地で、良いことも悪いことも何も起こらない。そんな、平穏な日常を守り続けてきたのか」



 そんな平穏をもたらす力を、チナマッグの野郎共は喉から手が出るほど欲している。

 それは至極当然のことだと思われるのだが――


「でもさ、それならチナマッグのヤツらと一緒に住むとか、ヤツらの分まで一緒に予言するとかは出来ないわけ?」

「そ、それは……」

「ん、んだ……」


 やはり、私の問い掛けには言い淀む村人。

 はっきりと『お前には教えてやらない!』と断ってくれたらスッキリ出来るのだが……。


「――出来ないのか?」

「あぁ。そもそも、予言には上限があるようだ」

「んだ。この場合、予言がそのとおりになる範囲に限りがあんだべ」

「なるほど……このチマツリー村だけはカバー可能ってことか。でも……そう言えば、チナマッグの人たちはどうしてその力のことを知ってるんだ? そんなこと知られたら、争いになるかもしれない。それはわかってた筈だろ?」

「そ、それは……ハチベエんとこのご先祖様が、うっかり漏らしちまったんだ!」

「んだ! ご先祖様のおかげで、おらほむがしっがら、率先して危険な目に遭わされるんだべ!」


 どうやら、訛りの強いこの人物がハチベエというらしい。

 珍しく赤とは関係の無い、だがなんともうっかりしていそうな名前と容姿なのだが――


「ご先祖、様? ――ってことは、アカネ様はかなりの高齢なのか?」

「ん? いや、若いぞ?」

「んだ。むしろ幼女だべ」




 理解が追いつかないレイは、一旦頭の中を整理する。

 アカネ様の力を外に漏らしたのは、この村のうっかりご先祖様。

 さすがに親や祖父母のことをご先祖様などとは言わないだろうから、それは少なくとも三代以上前のことだと思われる。

 とすると、そのアカネ様という人もそれ相応の年齢の筈。

 なのに、幼女なのだという。


 うん――わからないことがわかった。


「わかったぜ! 歳取り過ぎるとよぉ、赤子に返るみたいなこと言うだろ? 幼女並みにボケちまったんだろ! なっ!」

「貴様っ、アカネ様を愚弄するのか!」

「んなわけねえべ!」

「幼児以下の知能のお前が言うな!」


 酷い言われようだが、何も間違ったことは言われていない。

 またもショックを受けたロキは、暫く置物と化すことを決めたようだ。

 武の団長のビエニカも、だいぶ前から威圧感が漂うだけの置物と化していた。

 残る団員二人はと言うと、置物たちの動向を厳しく見張る役目に徹しているようだ。



「だとすると――まさか、アカネ様は『自身が若返る』なんて予言をして生き存えている……?」

「さっすが黒髪だな!」

「んだ! さては、そっちの黒髪はつくりものだべ!」


 ハチベエが、ロキそっくりの置物の髪の毛を鷲掴みする。

 よほど黒髪だと認めたくないのか。

 でも――それはそうだろうと、レイは思った。


 自身を若返らせるという予言にも、必ず対となる何かが起きてしまう筈なのだ。

 それはきっと、アカネ様が若返った代わりに、村人の誰かが――


 アカネ様が、何故この村に留まり平穏を守るのか。それはわからない。

 ただ、一つわかること――アカネ様とこの村の人たちは、その命運を共にして、これまで歩んできたのだ。

 だとすると――


「じゃあ、そのアカネ様って人がこの村の長なの?」

「……」

「村長なのですか?」

「違うぞ。アカネ様は、村の大事な、大事な守り神だ!」

「んだ! んでも、村長はまた別の意味で守り神だがな!」

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