02 ルーレット
「いやいやいや!もっとあるだろやり方!」
「でも、実際これが一番早いですよ?なにせ今後の一生を決める話ですから、悩んで悩んで悩みまくって、きっと決まらないでしょうから、それなら運で一発やった方が」
「あんためんどくさがってるだけだろ!」
「ソンナコトナイデスヨ」
こんなもんで俺の一生を決めろと?この女、女神じゃなくて悪魔なんじゃないだろうか。
なにせピンク色の髪だ、悪魔っぽい尻尾が生えてたって俺は驚かない。
「安心してください、神の力でどんなど下手な投擲でも必ず刺さるようになってますし、当たりも多く入れておきましたから。まあ騙されたと思って一回投げておきましょう」
「ちなみにやり直しは」
「できません」
だろうよ。
畜生、完全にこの女のペースだ。
だが確かに、俺が優柔不断なのも事実。
とりあえず、ルーレットを見てから考えるのもいいかもしれない。
ルーレットはかなり大きく、俺と同じくらいの高さだ。
一番占めてる面積がでかいのが、五分の一くらいの広さで『人間(男)』。
次いで『人間(女)』………
「おい」
「なにか?」
「え、ちょ、なに?俺、TS転生の可能性もあるわけ?」
もはや敬語を使わなくなった俺だが、女神は気にも留めずにキョトンとした顔で頷いた。
「そりゃありますよ、魂自体には性別がないんですから。体が女性になる運命なら普通に女性になります」
「………そっすか」
俺、別に女体化願望はないんだが。
一度も使わずにムスコとお別れはあまりに切ない。
「他にも、男女ごとに分かれてるのが多いな。エルフ、精霊、ドワーフ、竜、人魚、魚人………」
やはりさっき強いと言っていた種族は面積が狭い。
「もう少し広げられないのか?竜のところ」
「それで精一杯ですね。神にもいろいろ事情有るんで。種族ごとの絶対数とか決まってて、それでも結構無理通したんですよ?」
マジかー。
だが、俺のために無理を通してくれているとは。実はいいやつなんだろうか、この女神。
「いや、転生をルーレットに委ねてる時点で」
「はい、ルーレットスタート」
「うぉい!?」
俺がツッコミを入れるより早く、女神が手拍子をしてルーレットをスタートさせやがった。
「おい、まだやるなんて一言も」
「あ、言い忘れてましたけどあと五分以内にここ出ないと、強制的に地獄生きですよ」
「なにいっ!?」
ち、畜生!
そんなん、もう選択肢ないじゃないか!
地獄で石積み体験も、天国で世知辛い思いするのも御免だ!
俺は仕方なく、ルーレットに向き直った。
せめてよく見ながら………と思ったけど駄目だ、回転が想像の十倍速え。扇風機みたいにグルグルしてやがる。
「はい、あと四分です」
「くっそおおお!てめえ、これでハズレ引いたら一生恨んでやるからな!!」
どこまでもマイペースな自称ナントカに暴言を吐きながら、俺は考えるのをやめた。
どうせ考えたって何もわからん。とりあえず投げて、それから考えよう。
「あ、これ矢です」
「どうも」
無駄に装飾の凝ったダーツの矢を受け取り、俺は勢い良く振りかぶる。
ダーツなどやったことないが、どこかには刺さるらしい。ならどんな姿勢で投げたっていいだろう。
「おるあっ!」
俺が投げた矢は、勢い良く飛び、的の横を通り過ぎそうになった。
しかし的が勢い良く動き、ギリギリで縁のところに矢が刺さった。
「………矢じゃなくてそっちが動くのかよ」
「こっちの方が手っ取り早いんですよ」
いや、わかる。
既にすごいスピードで動いてる矢より、回転部分以外は静止している的の方が動かしやすいという理屈は分かる。
でも、なんだろう。このがっかり感は。
「魔法がある世界の神なんだろ。もう少しこう、ロマン溢れる感じにできないのか」
「そんなこと言われても、無用な労働はしない主義なので。ほら、それよりルーレットが止まりますよ」
おお、本当だ。
扇風機のようだった勢いは従来の俺がよく知る回転ルーレットくらいの速度になり、それがやがて文字が読めるくらいの速度になり、それから数秒で停止した。
俺の矢が刺さっているのは………
『人間(男)』と、『人間(女)』の間。
「え?こ、この場合どうなるの?」
オネエ転生?ふた○り転生?
どっちにしろ、すさまじく生きにくいと思うのだが………。
「あの、女神さん。女神様?どうなるんですかね、これは」
「………………」
「え?あの、ちょっと」
「へ?あ、ごめんなさい。まさかここに命中するとは思わなくて。おめでとうございます、あなた一生分の運を使い切ったのでは?」
「男女どっちの性も兼ねた人間になるので運使い切ったって!?」
いや、たしかにどっちの性別も備えてるってある意味最強なのではとは思わなくもないが!
「……?何の話ですか?よく見てください」
ん?
言われた通りにルーレットを見てみる。
『人間(男)』と『人間(女)』の間に矢は刺さっている。やっぱり何も………。
いや待て。
二つの間に、一ミリくらい隙間がある。
俺の矢はここに刺さっていた。
何か書いてあるような気もするんだが、当たり前だが読めない。
「虫眼鏡とかあります?」
「どうぞ」
虫眼鏡を受け取って覗いてみると、それでも小さかったが、何とか読み取ることが出来た。
「よう、せい、ぞく。妖精族?」
「そのようですね。おめでとうございます」
「妖精族って弱いイメージしかないんですけど。当たりなんですか?」
「当たりも当たり、超極大当たりです」
え、マジで?
俺、そんなすごいのに転生できんの?
「とりあえず細かい説明を………っと、そんな時間ないんでした!今すぐあなたを転生させますので、準備しておいてください!」
「は!?い、いやいや、俺転生先の説明とか何も知らないんですが!」
「詳しいことは習うより慣れろです。それにここまで知識を持って転生できること自体、相当優遇されているものですよ!」
………言われてみれば確かに。
っていやいや、にしたってもうちょっと説明を、
「じゃ、第二の人生、頑張ってください」
「ちょっ………話は終わってない………」
俺が何かを言うより早く、俺の意識は何かに吸い込まれていった。




