21 駆け出し卒業
大変長らくお待たせいたしました。
少しずつ更新していきます。
「はい、今日の依頼も達成ですね。お疲れ様でした、ソノカさん」
「ゼヒュー………ゼヒュー………」
「あの、大丈夫ですか?」
「じ、じぬぅ………」
建設のバイトから始まり、鉱山採掘、モンスターにやられた箇所の修繕、重量物の配達。
ソノカはこの一週間働き続けた。
朝昼は仕事、夜は筋トレ、筋肉痛やオーバーワークも俺がいる限りすべて治癒できる。
おかげでたった一週間でソノカは随分と筋力が付いた。
「あ、それと。ソノカさんは依頼もしっかりこなしていますし、先方からの評判も良く、何よりまじめだということで、今回の依頼で見習いを卒業することが可能になりました。今ならば第八級冒険者に昇格可能ですが、いかがなさいますか?」
「お、マジか。なっとけソノカ、仕事の幅が広がるぞ」
「よ、よろしくお願いします………」
「はい、承りました。これで晴れて、ソノカさんも冒険者です。普通は見習い卒業に一か月はかかるのに、すごいスピードですよ!」
「そりゃ、こんな重労働………ゼエ、続けてたら、ゲホッゲホッ、そうなりますよ………」
その甲斐あって、見事ソノカは素晴らしい速度で見習いを卒業し、冒険者として認められる運びとなった。
さすが俺が鍛えただけのことはあるぜ、しかしソノカもよくついてきたもんだ。
「じゃあ、明日からまた、よろしくお願いします………おぷっ」
「おいおい大丈夫か?顔真っ青だぞ」
「ろ、労働のし過ぎで吐きそう………」
だがまだ課題は多いな、この程度で吐きそうになるとは。
「オロロロロロロ」
そして吐いた。
「おいおい、まだまだだなあ。この程度でそんなことになるとは」
「こ、この程度………?この程度と言いましたか?」
まあ、冒険者ギルドで吐かなかったのはいいが、トイレで吐くのも勘弁してほしい。
「一週間!か弱き乙女に肉体労働に休み無しで従事させて!夜は騎士も裸足で逃げだすような筋肉トレーニング!加えてあまりの疲れで食欲がない時に高カロリーな食事!格闘家の方だってこんなハードスケジュール組みませんよ、フィラはわたしをどうしたいのですか!」
「お、落ち着け。悪かったって」
『吐いたからまた食わせないとな』とか考えてた俺も、流石にちょっと反省した。
少々やりすぎたかもしれないな。確かに俺はソノカをプロレスラーにしたいわけじゃないんだ。
筋肉量が一般人以下だったソノカにはきつすぎたかもしれん。
「まあ今日まででノルマの身体能力は得られたっぽいし、次からはバイトじゃなくて冒険者の仕事だ。流石に明日は休みにしよう、うん。そして筋トレや食事も無理のない量に抑えよう」
「ほ、本当ですか?もうあんな地獄を見ないでいいんですか?」
「マジマジ。足りない能力を補填するための今日までだったからな。目標に届いた以上、控えめにするのは当然だ」
ソノカは安心したようにへたり込んだ。
その眼は希望に満ち溢れ、まるで俺を慈母を見るように見つめてきた。
あ、これ知ってる。鞭の後に飴を与えると、なんかその人がすげえいいやつに見えるっていう、一種の洗脳教育だ。
やべえ、無意識だった。ソノカを短期間で大成させるためとはいえ、さすがにこれは………。
「ま、まあ今日はもう寝ろ。明日は早起きする必要ないからゆっくりな」
「はい、寝ます!おやすみなさい!」
一瞬で元気を取り戻したソノカは軽やかな動きでベッドにもぐりこみ、二秒で寝息を立て始めた。
よほど疲れていたらしい。まあ当然だが。
「ふぅ」
ため息を漏らし、俺は夜空を見上げる。
綺麗な月だ。妖精界にも月はあったが、あれは『月』の妖精モムが作ってる偽物だから、本物の月を直で見るって経験は初めてだった。
日本に住んでいた頃のものとはずいぶん様相が違う。まず形が丸じゃなくて瓢箪みたいな形だし、何より色が緑だ。
日本風の月だった妖精界のものとは似ても似つかないが、眺めているとなんとなく皆のことを思い出す。
『水』の妖精レッタに「先っちょだけだから」と無理やりぶち込まれた温泉で体の一部がモンスターみてえになったり。
『剣』の妖精ソーナの剣をうっかり地上に落としてなます斬りにされかけたり。
『土』の妖精ダムの畑作りを手伝ったら、何を間違えたのか魔王級の巨大ミミズが出てきて慌てて吹き飛ばしたり。
あとは妖精王のコーラックさんに、いたずらされたりいたずらされたり、いたずらの後始末をしたり尻拭いをしたり。
「碌な思い出がねえな」
碌な思い出がなかった。
大体が俺かソーナか、その他比較的マトモな妖精がアホな目に合ってる思い出だ。
心が綺麗なものしか転生できない妖精とはいえ、記憶がない連中は前世で良いことした達成感やらも何もかもリセットされてるし、善性でもアホなことが大好きなやつはいる。
レッタしかりコーラックさんしかり、むしろ妖精はそういうタイプが多い。
まあ楽しかったことは認めるが、変化がない日常だったのも事実だ。
「うーん、もう持てないよぉ………鉄骨………」
「なんて夢見てやがる」
だけど、ソノカとの出会いが俺を変えた。
コイツを見つけた時の衝撃は、二度目の俺の人生で最も衝撃的だった。
「ちゃんと夢、叶えさせてやらないとな」
あんなに努力していたあいつが報われないのは、さすがの俺も看過できない。
だから、ちゃんと助けてやらないと、気が済まない。
必ず俺が、コイツを最強にしてやる。




