19 冒険者登録
俺の性別の問題を明らかにした次の日の朝、俺は再び(文字通り)空気と化し、ソノカを冒険者ギルドに案内していた。
「はえー………ここが冒険者の集う仕事場。思ったよりも大きいんですね」
「冒険者ギルドは大戦争以前から存在していた、各国にまたがる巨大組織だからな。戦争期にはほとんど傭兵ギルドになってたが、それを正してあるべき冒険者ギルドの姿に戻したのが、今のグランドマスターだ。まあそんな話より、とりあえず中に入れ」
木造、大きな二枚扉、上には剣士の像。
街の中心近くにあるギルドは、周りとは異質だが、どことなく荘厳な空気を感じる場所だった。
だが中に入ろうと扉を開けると、一気に中の大声が飛び出してくる。
乾杯をしながら朝から飲んでいるヤツ、怒号を飛ばしているヤツ、依頼を受けようと真面目に並んでいるヤツ、その他。
「わあ、色々な種族がいるんですねー」
「帝国はお前んとこの王国と違って、異種族文化推奨国だからな。そりゃいるだろ」
獣人、蜥蜴人、エルフ、ドワーフ、小人、その他にも多数の人間以外の種族。
これだけの種族が集まっているのは、冒険者ギルドくらいのものだろう。
中には自分たちの種族しか受け付けない、排他的な国もあるけどな。シャルティライト王国がその典型だ。
「とりあえず登録を済ませとけ」
「わかりました、そうします。えっと、でもどうすれば?」
「そこの受付行って、紙貰って説明受けて記入するだけだ」
冒険者たちの間を通り、受付のところに並び、順番を待つ。
「すみません、登録をお願いしたいのですが」
「はい、ご登録ですね?ではここに記入をお願いいたします!」
「えっと………フィラ、ここは本名を書くべきですか?」
「アホ、顔はともかくお前の名前は知れ渡ってんだっつの。冒険者の身分証は身分証としての格は低いが、偽名でも登録できるんだ。ソノカでいい」
「どうかなさいましたか?」
「い、いえなんでも!えっと、名前はソノカ………年齢は十五………使用武器は剣………出身はシャルティライト王国………その他?その他とは?」
「それは、例えば『こういう武術や剣術を使う』とか、『こういう魔法が使える』とかですね。あとは珍しいものですと、精霊や妖精の加護でしょうか」
「ここは記載しとけ」
「えっ、でもいいんですか?」
「いいんだよ。ただし、間違っても『契約』って書くなよ。あくまで『加護』ってことにしとけ」
その後も俺の言う通りにいくつかの事項を書き、提出する。
「はい、ソノカさんですね。種族は人間で………『風』の妖精の加護持ち!?」
受付嬢が思わず叫び、周りの連中が一斉に振り向いた。
「妖精の加護っつったか今?」
「マジかよ、しかも四大属性って、特二級の一人と同じじゃねえか………」
「どうせ嘘じゃないの?この後確認があるでしょ」
さっきからこっそりこっちを伺っていた連中は多かった。
その大半は顔がいいソノカへの下心だったが、これでソノカにそういう目的で声をかけるやつはいなくなるだろう。
「し、失礼しました。えっと、どこかに加護の文様があるはずなのですが、どこにありますか?見せにくい部分であればあちらで女性スタッフが」
「え、見えにくい場所に出ることとかあるんですか?」
「ありますね」
「あるぞ。イタズラ好きとか変わりものとか、妖精も十人十色だからな」
「へえ………あ、わたしは左手の甲なので大丈夫です」
「失礼しますね。………ほう、これは。かなりの力を感じますね。刺青などではありません、これは確実に妖精のものです。素晴らしい」
「あ、ありがとうございます」
まあ、契約の力はソノカ自身のレベルアップに依存するから、今はその程度の認識だろうな。
「はい、書類はこれで問題ありません。冒険者の説明はご必要ですか?」
「聞いとけ。俺の知識じゃ、穴があるかもしれないからな」
「はい、お願いします」
「わかりました」
冒険者。成り上がりを目指す者や、腕自慢が金を稼ぐために選ぶ手段として最も多い、何でも屋。
同時に死亡率が最も高い仕事でもあるが、その分のリターンは大きい。名を上げれば、国からボディーガードや騎士としてスカウトが来ることもある。
人間以外の種族にも幅広く選ばれる職業。実力主義で、そのランクは十一段階に分けられている。
***
見習い………読んで字のごとく。冒険者としてはまだ認められていない。
第八級………駆け出し。冒険者として認められ、命の危険が少ない簡単な依頼をこなせるレベル。
第七級………駆け出し卒業。ゴブリンなどの低級モンスターを狩れるレベル。
第六級………いっぱし。ウルフなどの中の下級モンスターを狩れるレベル。
第五級………熟練。オークなどの中の上級モンスターの狩りや、ダンジョン探索を許可されるレベル。
第四級………一流。はぐれ悪魔などの上級モンスターを狩れるレベル。
第三級………プロフェッショナル。上級モンスターを複数同時に狩れるレベル。ここで一つの区切りと言われている。
第二級………一流以上。単独で中小規模の街の危機を救えるレベル。
第一級………英雄。国家レベルの大事に対応できるレベル。
特二級………人外領域。国家の大事を単独で解決できるレベル。
特一級………人外の中の人外。世界の危機に対応できるレベル。
***
「見習いから始まり、そこから冒険者はランクアップを目指します。一番多いのは第五級冒険者で、それ以降は数が少なくなっていきます。多くの方々は第三級を目指して邁進していますね。勿論、まじめな冒険者に限りますが」
「え?そこは普通、特一級を目指すものでは?」
ソノカの当然の疑問に、受付嬢は苦笑。
「区切りを見ればお分かりになると思いますが、第二級以上はなることが非常に難しいんです。種族としての才能も関係してきますので、第二級、第一級は大抵が上位種、もしくは妖精の加護を持つ方々です。人間で、しかも加護もなく第二級に到達した人間は、今は五人しかいませんね」
「………え?」
当然、ソノカは驚く。
「………フィラ。あのリィという盗賊リーダーの方、第二級と言っていましたよね」
「ああ。だから言ったろ、アイツはかなり強いって。妖精の加護もないのにあそこまで強くなれるって、相当の努力をしたんだろうな」
最上位級モンスターである邪竜を相手にしたからアイツは簡単に負けたが、実際はアイツは人間としては異常の部類に入るレベルで強かった。
他の盗賊が恐怖であいつに従っていたのも納得できる。
なにせ、第二級は非常に数が少なく、たしか全世界で百人と少ししかいなかったはずだ。
「ソノカさん?どうかなさいましたか?」
「い、いえ!」
「まあ、それが原因で、第二級以上は目指す方はほとんどいません。第一級冒険者は三十人といませんし、尚更です」
「えっと、特二級以上は………」
「特二級以上の冒険者は、言葉が指し示す通り。『人の理を外れた存在、ゆえに人外。第一級冒険者すら慄く怪物たちです。特二級は世界に七人、特一級に至っては一人しかいません」
国が迂闊に手を出せないほどに強いと判別されるのは第一級以上。
そして、その中でも冒険者ギルドが手綱を握っていることそのものが感謝されるほどの怪物、それが特級の冒険者だ。
「特一級冒険者の戦いは見たことあるけど、俺でもてこずるレベルだぞ。あまり強くない妖精なら殺せるかもな」
「っ!?」
四大属性を司る俺が引くくらいの強さだ、その程度の実力はあるだろう。
「妖精の加護を持つソノカさんなら、第一級はもしかしたら夢じゃないかもしれませんね。………っと、こちら冒険者証です。再発行には結構お金ががかるので、無くさないようにお願いします」
「わかりました。えっと、もう終わりですか?」
「はい、これで受け付けは終了です。冒険者ギルドへようこそ。我々はアナタを歓迎いたします




