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01 カッコ悪い死に様

「蒼花光さん。あなたは本日、残念なことに死亡しました。短い地球人生活でしたが、どうでしたでしょうか?」


 現実感がない、一面真っ白な空間で、俺は絶世の美女にそう言われていた。

 着ているのは何故か就活生がよく着ているようなリクルートスーツ。しかし、染めたようにはとても見えない絹のようなピンク色の髪に、猫のような黄色の目。

 二十歳前後に見えるが、すらっとした体は美しい顔と合わさって、女神のように見えた。

 胸はなかったが。


「死亡?俺、死んだんですか?」

「ハイ、不幸なことに。死亡する寸前の数分の記憶をこちらでお預かりしていますので、記憶はないでしょうけれど」


 そうだ、俺は確か、クラスメートの女子に告白したところだった。

 凄く顔がよくて、天使のようだと思ってて。

 思い切って体育館の裏に呼び出して、それから………。


 ………?ここから思い出せない。

 俺はどうなったんだ?彼女に告白はできたのか?

 いや、それ以前に俺が死んだという話自体信用できないんだが。


「あの、俺が告白した」

「あなたが告白したあの子は死んでませんよ。今普通に友達とファストフード店で談笑しています」


 よかった。

 後は、俺が本当に死んだのかを確かめるだけだ。


「俺は本当に死んだんですか?死因は?」

「聞きたいですか?」

「それはもちろん」

「後悔しませんね?」


 しつこいな。


「はい」

「分かりました、では心の準備を」

「は?」


 心の準備?

 ああ、それはまあ、自分が死んだ時なんてショッキングな話、心の準備が必要か。


「端的に話すと、アナタの死因は脳震盪です。坂から転げ落ちて数度頭を打ち付け、トドメとばかりに電柱に脳天を打ち付けてほぼ即死」


 なんて格好悪い死に方だ、ある意味心の準備が必要だった。

 確かに俺の学校には、すぐ出たところに心臓やぶりと言っていいほどの角度の坂がある。


「あれ?でも、俺はあそこ使いませんよ?あの坂があるのは俺の家の反対側だし」

「告白して速攻フラれて、そのショックで校外に飛び出したんですよ」


 ゑ?


「あまりのバッサリな玉砕に涙して、校門を飛び越え、かばんも持たずに陸上部顔負けのスピードで校舎一帯を爆走。あまりのオーバーワークに思わず足がもつれ、転倒………」


 やめてくれ。


「そこで一度頭を打ち付け、思考能力低下。疲れも相まって、何とか立ち上がったはいいものの、そのままフラフラと家とは反対方向に行ってしまいました」


 マジでやめてくれ、それ以上聞きたくない。


「そして坂のところでほぼ気絶。坂に倒れこんで頭を打ち付けてそのまま一回転、これを何度も繰り返して、途中からアクロバティックに頭をガンガンと地面に叩きつけ、何度も何度も脳を揺らし、骨をぽきぽき折りながら坂を下っていき、そして放り出されるように電柱に向かい、凄まじい勢いで脳を」

「うわああああ、やめろおおおお!!」

「やめろと言われましても、あなたが言えと言ったんじゃありませんの」


 この女、絶対に性格悪い。

 というか何なんだこの女は?


「ていうか、あんた誰っすか」

「女神です」


 ………。


「今『痛い子だな』って思ったでしょう」

「こ、心を読んだ!本物!?」

「顔に全部出てましたし」


 そうか、さてはこれ夢だな?

 頬をつねって………あ、痛くない!やはり夢か!


「いや、死んでるんですから痛覚もないですよ、意味ないです」


 呆れたような声でそう言い放つ自称女神にイラっとするが、話が進まなそうなのでとりあえず黙ることにする。


「それでですね、あなたは不幸にも死んでしまったわけですが。どうやらあなた、輪廻転生の輪から外れてしまっているようなのですよ」

「は?なんだって?」

「あなたは本来、ギリギリで助かる予定だったんです。坂から転がり落ちても骨折で済むはずだったんですよ。しかしあなたのショックがこちらの予想より大きすぎたせいか、勢いや転倒角度に誤差が生じて、結果的にバタフライエフェクト的なあれであなたが死にました」


 そんな雑な説明で納得できるか!


「で、本来死ぬはずじゃなかったあなたを輪廻の輪に入れるわけにはいかないと、そういうわけでして」

「完全にそっちの問題じゃねえか!」

「あなたがフラれるとき、もう少し落ち着いて行動していれば、そもそも坂から落ちることもなかったんですよ」

「ぐっ」

「それをそっちの問題だと言われても、それは例えばコンビニで弁当を買って手を付けなかったお客さんが三日後に返品してきて、賞味期限の問題があるから無理だと言っても『それはそっちの問題なんだから返品させろ』というようなもので」

「俺が悪かったからもうやめてくれ」


 俺のライフはもうゼロだ。






「さて、じゃあ本題に行きますね?地球の輪廻の輪に入れなくなったあなたには、三つの選択肢があります」

「意外と多いっすね」

「ええ。まず一つが、地獄に行く」

「却下で」


 即答だった。

 しかし女神は、意外と食い下がってきた。


「本来はここに行くべきなんですよ?なにせあなた、親より先に死にましたからね。三途の川の石積みやらないと本当はだめなんですよ」

「とりあえず選択肢を全部言ってくれ」


 ハア、とため息をついて仕方ないとばかりに説明を続ける女神(仮)。


「二つ目が天国に行く」

「いきなり地獄が天国になった!?」


 もう、これでいいんじゃないだろうか。

 しかし女神は苦笑を浮かべて、


「あの、天国って言ってもそんな素敵なとこじゃありませんよ?世界中の善人や人のために貢献してきたような人たちが集まってるとこですから、すっごいボランティアとかやらされますし、縦社会なので新入りは百年くらいめっちゃ過酷な桃の果樹園で働かないといけなかったり」

「地獄並みにたち悪いじゃん」


 嫌だわそんな天国。

 却下だ却下。


「で、三つめは?」

「私が管理する異世界に行ってもらうこと」


 ………おお。

 王道展開キタコレ!

 で、チート能力とかもらえたりするんですかね?


「まあ、チートとは言いませんが、転生する種族としての力を少し強めたりしたりはできますね。多少はこちらの不手際もあることですし」


 うーん、さすがにチートは厳しいか。

 でも、異世界転生ってその響きだけで、年頃の俺は心がガンガン震える。


「魔法とか使えたりするんですかね!?」

「転生先の種族によりますね。人間や獣人だと使えません。竜とか精霊とかなら使えます」


 おや?

 もしかして、俺は人間に転生しない可能性もあるってこと?

 俺の心中を察したのか、女神おそらくが注釈を入れてくれる。


「種族はあとで決めることになります。あなたは属性が善属性なので、人間をはじめとするある程度人間に型が近い種族にはなれると思います。いきなりフジツボに転生とかはないので安心してください」

「人外転生か………」

「まあ、日本からの転生者でも前例がないわけではありませんし。この前、私の同期の女神の世界に転生した女の子は吸血鬼になったらしいですよ」


 吸血鬼かあ。いいな、ちょっと憧れる。


「ところで、俺が転生する世界はどんな世界なんです?」

「あなたが想像するような、剣と魔法のファンタジー世界に近いと思います。ただ、さっきも言いましたが人間は魔法を使えませんので、正直人間は外れ種族です。当たりだと、魔力がまあまあ高いエルフや、魔法は使えないけど身体能力がすごく高い獣人など。大当たりで竜や精霊、人魚とかですね」


 なるほど。

 その世界では、人間はランクが低いのか。

 そりゃそうだ、地球で人間が繁栄しているのは唯一の知的生命体だからだ。

 知的生命種が多数存在してて、人間よりハイスペックだったら、そっちに覇権握られるのは当然。


「ところで、さっきから当たりだの外れだの言ってますけど、俺はどうやって転生する種族を決めるんですか?やっぱり適正とか?」

「いえ、あなたどの種族にもなれるっぽいので、適性もなにもないですね。かといって適当に転生させるわけにもいきませんし」


 選択肢が多いに越したことはないが、さっき聞いただけでも結構多かった。

 何になろう。やっぱりエルフとか憧れる。

 いやいや、竜ってのもカッコイイ………


「というわけで、こちらをご用意しました」

「おっ、なにかおすすめ一覧表みたいな………」


 俺の言葉は最後まで続かなかった。

 だって、女神(たぶん)が用意したというそれは。

 どこからどう見ても。

 一昔前のバラエティ番組とかでお馴染みの。


「第一回。種族決定、抽選ダーツ大会~」

「ルーレットかよっ!?」


 グルグル回る的にダーツ当てて賞品決める、あれだった。

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