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18 変装

「見えて来たぞ。帝国の国境だ」

「ハアッ、ハアッ………よ、ようやくですか………」

「情けないなあ、たった六十キロでこれか?ちゃんとその辺も修行しないとな」

「そ、空を飛んでるフィラに、情けないとか言われたくない………」


 もっともな意見だが、だからこそ無視する。


「さて、じゃあ俺は隠れるから、言った通りにしろよ」

「は、はい。ですが隠れると言ってもどこに?」

「ここに」

「へ?………あれ?き、消えた!?フィラ、どこですか!?」

「ここにいるよ。能力で透明化しただけだ」

「と、透明化?」

「『空気に溶け込む』っていうだろ、俺の体を空気に紛らせたんだよ。アイビトのお前にすら見えないってことは、完全に隠れられてるみたいだな」

「空気に溶け込むって、そういうことじゃないと思うんですけど………」


 俺も出来た時は驚いたよ。


「ま、いざとなればお前にだけ声が聞こえるようにしてサポートするから」

「わ、わかりました」


 アリル………いや、もうソノカか。

 ソノカは、息切れしながらも国境の検問所にたどり着いた。

 二日近くかかったが、まあ妥当だな。


「す、すみません………通していただけますか………」

「お、おお。大丈夫か君?水飲むかい?」

「い、いただきます」


 衛兵から水を受け取ってクピクピと飲み干したソノカは、息を整えて、


「ありがとうございました。えっと、身分証がない場合はお金がかかるんですよね?」

「そうだな、仮の身分証が必要だ。重罪を犯している場合は通せないけどね」


 衛兵は後ろの宿所に入り、手形のようなものを取って戻ってきた。

 確か、手を当てた奴の記憶を読み取って、重罪を犯していた場合はブザーが鳴るマジックアイテムだったか。


「ここに手を当ててくれ。そうそう。………うん、犯罪歴はないね。じゃあ仮身分証発行のために三千セリル貰うよ」

「えっと、これでよろしいでしょうか?」


 やましいことが別にない清くまっとうなソノカは、普通に手形をクリアし、盗賊からスッた財布から金を取り出した。

 ………スリはほら、軽犯罪だし、そもそも死んだやつの金だから落ちた金を拾ったようなもんで、犯罪には抵触しないだろ、うん。


 この世界の金の単位は『セリル』。

 だが名前以外はほとんど『円』と同価値だな、印象的には。


「ひい、ふう、みい………うん、確認した。じゃあ発行するからね。………よし、これで完了だ。ようこそシオン帝国へ」


 門が開かれ、ソノカはシャルティライト王国から離れ、新たな国に足を踏み入れることに成功した。

 これで、ソノカが生きていると知られる可能性も減っただろう。


 門を抜けると、そこには大きな町が広がっていた。


「わあ、大きいですね!何のしがらみもなく、護衛も伴わずに自分の足で街を回るのは初めてです!」

「おい、大声でそう言うこと言うな、勘づかれるかもしれないだろ。極力、自分が王女だったことは忘れろ」

「あっ、ごめんなさい」

「ったく。あと、俺の声はお前にしか聞こえないようにしてるんだ、声を出さないか、小さく返事しろ。いいな?」


 ソノカはコクコクと頷いた。どうやら話を理解したらしい。

 口元を隠し、小声で話し始めた。


「えっと、まずはどうすればいいんですか?」

「今、財布にいくら入ってる?」

「検問所にお支払いした分を差し引くと、七万セリルと少しです」

「よし、それだけあればスタートを切るのは十分だな。まず宿をとれ。安いところでいい。そして服と染髪塗料、駆け出しにおすすめって出てる防具を買うんだ」


 今のソノカは、服装以外は王女の時のままだ。

 簡単な変装くらいはしておきたい。人は髪型や髪色が違えば、案外簡単に見分けがつかなくなる。

 そのために、まずは捕まった時に着替えさせられた質素すぎる服を普通の服に変えて、髪を染め、俺が風で整えてやれば、ある程度は別人っぽく変身させられるはずだ。


「武器はいいのですか?」

「まだいい。取り敢えず最低限の日用品を手に入れることからだな。明日には冒険者ギルドに行こう」

「はい、わかりました」







「おお、見違えたな!」


 その日の夕方のうちに、宿をとり、必要なものを調達して、俺たちは早速ソノカの変身に取り掛かった。


 服は奴隷一歩手前という感じの服から、動きやすくて軽い白と黄緑の服に。

 髪は薄茶色から、本人たっての希望で俺と同じ黄緑色にして、長かった髪は俺が散髪してショートにした。

 少なくとも見ただけでは、彼女を王女とは思わないだろうな。


「自分ではわかりませんが、これでいいのでしょうか?」

「いいよいいよ、完璧だ。これで怪しまれることはないと思う」


 美貌と相性も相まって、見ているだけで癒されるようだ。

 顔立ちはもちろん同じだが、元々質素に生きてきた影響か威厳とかそういうものもほとんど感じず、これなら冒険者として馴染めると確信した。


「じゃあ、今日はもう寝とけ。明日は早いしな」

「わかりました。フィラはどこで寝ますか?一緒にベッドに入りますか?」

「いや、窓辺で浮いて寝るよ。妖精は寒いとか暑いとか、あまり感じないからな」

「わかりました、じゃあ寝間着に―――」


 着替えてきます、と言おうとしたのであろうソノカは、ゆっくりとこっちを振り向いた。


「なんだ?」

「い、いえ、今更なんですけど、フィラって男の子ですか?女の子ですか?男の子だとちょっと、恥ずかしいと言いますか」


 ああ、そんなことか。


「見た目と声は女の子なんですけど、言葉遣いが殿方のそれですよね?もしかしてっ」

「あー、大丈夫だよその辺は。俺、無性だから」

「む、無性?」

「ああ、スライムとかと同じで、性別がないんだよ。だからお前に毛ほどもドキドキしないし、そもそも性器がないから何もできん。安心しろ」

「そ、そうなんですか。妖精って性別がないんだ………」


 今でこそすっかり慣れたが、転生当初はそりゃもう悲嘆にくれたもんだ。

 傾城の美女と呼ばれた美人でも、毛ほども心が揺り動かなかったからな。


「アイビトのお前には惹かれてしょうがないけど、あくまでそれは親心とか、妹を見ているような感覚だ。ほっとけないって心象に近い」

「なるほど」


 前世が男だという話はしないでおこう。

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