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15 空気と風

 妖精界を飛び出した俺は、即座に風を自分にまとわせて加速する。

 予定の場所より大分ずれた。なんでコーラックさんはこう、肝心なところが大雑把なんだ。

『ゴメーン☆』とか言ってる顔が目に浮かぶぜ。

 能力で追い風を起こし、音速を遥かに超えて、どんどん進む。

 大体秒速五百メートル。一分もあればたどり着くだろう。


「頼むから、間に合ってくれよ!」


 音より早く進んでいるから自分の声すら聞こえないが、とにかく急ぐ。

 これ以上スピードを出すとソニックブームで周囲一帯が破壊されかねないのでこれが限界だが、出来る限りの最大速で谷に向かう。


 降りた地点から五十キロほど離れたところに、彼女はいた。

 その場で生きていたのは二人と一体。邪竜と盗賊のリーダー、それにアリルだった。

 邪竜は何かを叫びながらアリルに襲い掛かっている。


「ちっ、間に合え!」


 俺は慌てて、谷に吹いていた風をアリルに集中させて纏わせて加速させ、即席の風のバリアを作った。

 アリルを守る強度にするために、どうしても盗賊リーダーがいる地点もバリアを広げて面積を広くするにする必要があったのは業腹だが、背に腹は代えられない。

 邪竜がバリアをパンチしたが、俺の風を突き抜けることはできず、血を吹き出して後退した。


 危なかった、間一髪だ。

 俺の加護を使った気配があったが、アリルに今与えている程度の力じゃあ、俺の能力の百分の一も引き出せない。

 それでは流石に邪竜を殺すのは困難だ。

 あと二秒遅れてたら、アリルはぺしゃんこになっていただろう。


「おい、無事か?」


 一応確認をとってみたが、大丈夫そうではある。

 ところどころ擦り傷はあるが軽症だ。むしろやばいのは後ろの盗賊リーダーだな、骨がバッキバキだ。

 まあどうでもいいんだが。


「妖精………」

『妖精だと?何故地上にいる?』


 俺の目的はアリルを助けることだ。

 そして、俺のアイビトであるアリルを身の程知らずにも食おうとしたこのトカゲに制裁を加えるためでもある。


「おいトカゲ野郎。てめー俺のお気に入りに何してくれてやがる、おかげでわざわざ降りてくる羽目になったぞコラ」

『お気に入りだと?その小娘が貴様(妖精)の?』

「そうだよ。二年前からずっと見守ってたのに、昨日今日で散々だぜ。盗賊には捕まるわ家族には裏切られるわ、早々に人生諦めるわ挙句の果て邪竜と遭遇。一生分の不幸使い果たしたって感じだろ」


 俺は邪竜の目の前まで移動し、睨みつけた。


「だから、ここからはコイツの幸運ボーナスタイムだ。俺がコイツを幸せな人生にする。どうせ妖精界にはしばらく帰れないしな。で、そのためにお前邪魔なんだよ。さっさと消えろ。俺だって弱い者いじめは嫌いだし、今消えて素行を改めるって言うなら命は助けてやる」


 本音を言えばこの場で斬り刻みたいが、ここで感情に任せて行動するのはよくない。

 妖精の俺は、地上にあまり干渉しない方がいい。この世界で邪竜は、ランクとしては上から二番目の危険モンスターの一種だが、妖精は正直、一番危険なモンスターより強い。

 そんな存在が過干渉すると、世界のバランスが崩れかねない。


「どうした、早く消えろ」

『………貴様、誰に向かってものを言っている』

「あん?」


 だが邪竜は俺のそんな胸中を知ってか知らずか、そんなアホなことを言い出した。


「まさかとは思うが、俺と殺り合う気か?正気か?いくら力を求めて邪竜化する頭のおかしい馬鹿とはいえ、妖精がどれほどの力があるのか知らないわけじゃないだろうに」

『ふざけるのも大概にせよ、小さきもの。世界最強種とはどんなものかと思えば、こんな米粒のような大きさの雑魚ではないか。殺すなという方が難しいほどだ』


 なるほど、こいつはアホじゃなくて、もう手遅れの大アホらしい。

 妖精と体の大きさだけで競う気になるとはどういう神経してやがる。


「はあ………頭が足りないやつの相手をするのが疲れるのは、どこの世界でも一緒だな。じゃあほらかかって来いよ」

『貴様を殺せば、我も妖精殺し。我が覇道の道に一歩近づけるというわけだ。いささか物足りんがな!!』


 邪竜(アホ)はその体を捻り、本気の一撃を繰り出してきた。

 なるほど、正当な判断だ。こっちをバリバリに侮っちゃいるようだが、世界最強種だってことは警戒して全身全霊の一撃を打ち込む。この場においては最善策だと言えるな。

 ただ、一つこいつの誤算があるとすれば。


「まあ邪竜の本気ならこんなもんだろ。そこそこ強いが本気出すほどじゃない」

『なっ………ば、馬鹿な!?』


 最善策で俺を殺せるわけじゃない、ということだな。

 邪竜の一撃程度、体表面を超高速回転させた風のバリアでいとも簡単に防げる。


「まあ、流石は邪竜とは褒めておくぜ。妖精の俺から()()も能力を引き出したのはな」

『い、一割、だと………?』

「世界最強種、一柱で大陸を滅ぼせるほどの力を持ち、四柱いれば世界を滅ぼせると言われた妖精から、それだけ能力をを使わせたってのは、冥途の土産話に十分すぎるよな?」


 バリアを維持したまま、俺は別の場所に風を発生させる。


「気づいてると思うが、俺の司る属性は風だ。風の刃、風のバリア、竜巻、そういったものを発生させて自在に操れる。

 だが、それだけじゃない。俺が出来るのは『風を発生させて自在に操る』だけじゃないんだ」

『!?』


 四大属性はその名の通り四つだが、広く知られているのは火、水、風、土の属性。

 だが本来は、その表記がわずかに異なる。


 火、水、土。

 そして『空気』。


「俺は、自分の一定範囲の空気、つまりは気体も操れる。酸素も、窒素も、二酸化炭素も水素もアンモニアも硫化水素も一酸化炭素もメタンガスもすべてだ。

 気体を全く別の性質に変化させたり、わざと腐らせて空気を汚染したりいろいろできるが、今からやるのは初めての技だ。百年くらい前に思いついたんだが、さすがに仲間に試すわけにはいかなくてな、付き合ってもらうことについては礼を言うぜ」

『ちょ、調子にっ』


 俺が能力を使った瞬間、邪竜の声は聞こえなくなった。

 邪竜を中心とする空間を真空にした。

 俺も範囲に入っているが、妖精は呼吸の必要がないし、まして空気を操れる俺には無意味だ。


「さて問題だ。気体を操れると言ったよな?つまり俺は空気だけじゃなく、周辺の()()も操作できる。狭い範囲であれば、一時的にだが大気を消失させることすら可能だ。

 で、生物の周辺で、大気を消失させるとどうなると思う?」


 邪竜の耳に空気の道を作り、声を聴かせた。

 既に邪竜の声は聞こえないが、何かを言っているのは分かる。

 少なくとも答えではないだろうな。


「ま、それは身をもって確かめろ」


 俺は気圧、温度、その他すべての気体の層を、邪竜の周囲から消失させた。

 すると、邪竜は声を上げることもできず、()()()()()()()


 これが問題の答えだ。

 大気消失に伴い、気圧も消失することによって、体内の空気が膨張し、肺が引き裂かれる。

 体内を巡る血管も煮え立ち、体が膨らみ、内臓が圧迫されてズタズタになり、いかなる生物でも死に至る。

 これで死なないのは妖精と、あとは一部の精霊くらいのもんだな。


「だけどグロいな。これはさすがに封印か………?」


 我ながら恐ろしいことをした。

 だがまあ、


「す、すごい………」


 後ろで驚愕の顔をしているこの娘を守れたから、良しとするか。

 終わり良ければ総て良しだしな、うん。

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