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09 捕縛

「は?」


 空いた口がふさがらなかった。

 アリルは何が何だか分からないといった顔で兵士に捕らわれ、部屋から引きずられていった。


「お、おいなんだよこれ!」

「ウチに聞かれても。これ以上は城の過去の水にも映ってないね。もう少し捜索範囲を広げてみようか」

「頼む」


 周辺の温泉から水を吸い上げて、それに映像を反映してもらう。

 これで、俺も一緒に探せるようになった。


「さっきの映像が三十七分前のだから、そこから逆算して………ああもう、雨さえ降ってればウチ無双なのになー」

「地面が全部お前の目になるからな」


 だが、見つからない。

 まさか、エルフあたりの力を借りて魔法でどこかへ行ってしまったのか?


「湖の水から捜索してもらえるように、他の妖精に声かけてみて。他にもウチみたいに特定のものから過去視できる妖精もいるし、力になってもらえるはず」

「わかった」


 もうなりふり構っていられない。

 俺は自分の能力を使い、妖精界中に俺の声を拡散した。


『俺が入れ込んでる女の子が消えた!四十分くらい前に誰かに捕まったみたいだ!探すのに協力してくれ、一番最初に見つけてくれたやつの言うことを一つ何でも聞いてやる!』


 妖精界中が大騒ぎになって、捜索が出来る能力の連中が全員地上を見始めたのが風に乗ってきた音で分かった。

 なんだよ。どんだけ俺に言うこと聞かせたいんだよ。


「ねえフィラそれウチにも適用される?」

「ああ、お前の超危険な温泉だろうが何だろうが実験体になってやるから、探してくれ!」

「ひゃっほう!頑張って探す!」


 俺もレッタの水から探し続ける。

 そして五分後、ついに見つけたという連絡が入った。

 声の主は直接温泉に乗り込んできた。


「見つけたぞフィラ君!さあ、何でも言うことを聞いてもらおう!」

「あんたかよっ!くそっ、一番厄介なのが先に見つけやがった!」


 嫌なことに、妖精王コーラックさんだった。


「はっはっは、僕の力をもってすれば他愛ないことさ」


 まあ、この人の力を期待していなかったと言えばウソになる。

 コーラックさんの能力は、こういった時にメチャクチャ便利だ。


「とりあえずまずは何をしてもらおうか、そうだな………」

「一つだっつってんだろ!てか、いいからさっさと教えてくれ!」

「ああ、そうだったね。しかしフィラ君、なかなか厄介なことになっているようだよ?」


 コーラックさんは手元に能力を集中させ、水晶のようなものを作り出した。

 そこには確かに、アリルが映っていた。


「なんだよ、これ………」


 だけど、そこには俺の知るアリルはいなかった。


 彼女は、馬車の中にいた。粗末で狭い、とても王族が乗るようなものではなく、しかも中にはアリル以外に四人の男が見張るように座っている。

 全員兵士の格好をしているが、その体系や手つき、仕草から、偽物であることが見て取れる。

 アリル自身もまた、綺麗な服をはぎ取られ、麻布で作られた小汚い服に着替えさせられていた。


「どうやら、彼女は嵌められたようだよ」

「は、嵌められた?」

「ああ、彼女の兄弟にね。ボクの能力で確認したんだが、どうやら彼女は自分の家族が行っていた不正を他国に告発しようとしていたようだ。だがそれを察知した彼女の兄弟が共謀した。

 だが、ただ殺すだけではメリットがない。そこで、隣国の奴隷商人と盗賊を高値で買収して、彼女を売り飛ばして自分の懐に入れ、公には病死にするという魂胆だ」

「なんっ………」

「なにせ元王女だ、顔も美しいし凄まじい金額で売れるだろうね。その後どうなるかなど、想像したくもないが」


 沸々と怒りがこみあげてくる。

 あんなに頑張っていた彼女が、奴隷として売られる?

 前世の世界もそうだった。

 正義だ悪だということをほざくつもりはない。だが、正しいことをしている人が人生を奪われる世界なんてものは、到底許されることじゃない。


「くそっ!」


 だが、このままだとアリルは本当に一生人間以下の暮らしを強いられる。

 彼女に魅入ってしまった立場として、それは看過できない。


「レッタ、ここにあの馬車を映してくれ!」

「どうする気?」

「加護をアリルに与えるんだよ!」


 なら方法は決まってる。

 俺の力、妖精の加護をアリルに与えて、あの場を脱出させる。


「ああ、わかった。でも大丈夫なの?加護を与えすぎるとやばいんでしょ?」

「問題ない、アリルはアイビトだ。俺の加護なら、今の段階でもそれなりに耐えられる」


 妖精の加護は確かにアイビトなら耐えられるが、それでも最初から力を受け入れられるわけじゃない。

 ある程度の強さが必要で、おそらく今の段階のアリルだと、俺が与えられる限界の十分の一程度しか付与できないだろう。

 しかし、あの程度の盗賊を退けるならそれで十分。


「王族として多少の武術や剣術も身に着けているみたいだし、ちょろっと見ただけでも才能を感じる。アリルなら使いこなせるはずだ」

「それならちょっと待ってね、今つなげるよ」


 レッタが能力で湖から移る光景をこっちに移動させ、アリルの今の状態が分かるようになる。


「よし、いくぞ」


 俺は手をかざし、能力を集中させる。

 俺の『風』の力を、地上に順応させ、そして漂わせる。

 加護は一番近くにいる適性が高い者を見つけて、その体に入る。

 つまり、アリルにだ。


「よし、上手く入った!」

「副作用などもなさそうだ、順応しているね。一瞬で体に定着するとは流石はアイビト、レベルが違う」

「はー、確かにウチもちょっと見てて惹かれる感じがするかも。ウチの『水』にも適性があるのかねえ」

「おそらくね。アイビトが受け入れられる属性が一つとは限らない。まあさすがに同時に複数の妖精が加護を与えることはできないが、四大属性繋がりでレッタ君が彼女に惹かれても何もおかしいことはないよ」


 アリルに俺の力の断片が宿り、人の身でありながら風の力を扱えるようになった。

 これで、どうとでもできるはずだ。


「さあ、逃げろアリル!………あれ?」

「動かないね。加護が与えられたことに気づいてないのかな」

「それはないね、加護は与えられた瞬間にその力の概要が一瞬で思い浮かぶようになっている」


 だが、アリルは少し驚いたような顔をしただけ。

 その顔すらしばらくすると途切れてしまった。

 そこには、国をよくしようと動いていた懸命な彼女はもういなかった。

 いたのは、暗い表情をして何もかも諦めたような、人形のような姿だった。


「ど、どうして………」

「これはまずいな、おそらくこういった状況になったことで、気力を失ってしまっているね。人間は脆い。まして酷い者たちだったとはいえ家族に裏切られ、金で売られたんだ。こうなるのも当然と言える」

「フィラの加護にも、気づいてるけど使わないってこと?どうせもう自分の居場所はないとでも思ってるのかな」


 俺は、どうしようかと思い悩んだ。

 見捨てるなんて選択肢はない。俺の本能が、それを絶対に許さない。

 理性でも、俺はあの子を助けたいと心の底から考えている。

 だが、加護すら受け付けないなら、どうすることも―――


「フィラ君、彼女を助けたいかい?」


 悩む俺に、声をかけたのはコーラックさんだった。


「た、助けたい。どうすれば!?」

「こうなった以上、方法は一つだ。本来はお勧めしないが、アイビトを見つけてしまった君なら仕方がない」

「前置きはいいんです、教えてください!」


 俺の言葉に、コーラックさんは意を決したように口を開いた。


「フィラ君。君、地上に降りる気はあるかい?

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