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【5th anniversary!】アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ  作者: SAI-X
【第13話】輝く絆とシケーダの殺しの叫び
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FILE087:なりふり構わぬコウモリ男


 ところ変わり、都内のとある一戸建ての家。その家に住んでいる年齢は40代手前でワイシャツにベージュの綿パン姿の男性は、リビングの机の上にて教材を並べ、腕を組んで、「どうしたものか……」と、真剣に頭を悩ませていた。苦労が多いのか白髪が混じってきており、容姿自体もよくいる同年代のタレントのような若さは見られず、順調に老け込んでいる過程にあった。


「あの子たちは、わたしの事を、やれガリ勉先生だの、最近厳しすぎるだの、カタブツでお肌もブツブツだの、ミンミンゼミ先生だのと言ってくるが……。まあ、そろいもそろって不まじめだが、あの子たちは勉強自体はちゃんとできるし、分野は違えどエキスパート顔負けのモノも持ってる。一癖も二癖もありすぎるが、将来を担う子どもたちだ。才能を開花させずに眠らせてしまうには、あまりにも惜しい」


 どれほど嫌われようとかまわない。彼らが持っている夢をこのまま埋もれさせることなく、叶えさせてやりたい。彼らを無事に卒業させなければならない。この男性教師はずっとそう考えて、ここまでやってきた。学校では冷たい人間だと思われがちで生徒からは、少なくとも表面上は煙たがられているが、一方で真摯に向き合う姿勢から教師陣からの評判は良い。そんな男だった。


「どうもーお邪魔しまーす」


 このままでいいのか、教え子たちのために何ができるだろうか、と、また葛藤を始めたその時、彼の家の中に突然何者かが上がり込んで来た。短髪でスーツ姿の、一応は美系の青年だ。カギはかけていたはずなのに――。


油田蝉丸(あぶらだ せみまる)さんでしたね?」


「だ、だだだ、誰だね!?」


「あなたが知る必要は無い。言うことを聞かない子どもたちは、操って言いなりにしてしまえばいい。これを使ってなぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~!」


 男は、歪んだ顔で叫びながら油田の首をつかみ上げるとその手に無理矢理、灰色に光る不気味な球体を持たせる。その表面にはセミのエンブレムが記されていた。


「で、できない! わたしは高校教師、そんな邪悪なことは……!」


「うるせぇ~! 知らねぇ~! ぼくが「やれ」と言ったらやるんだッ! このうすらトンカチがあ!!」


 恐ろしい事態になることを察した油田蝉丸が必死で抵抗したため、教材や家具を荒らすほどの取っ組み合いを繰り広げた末、スーツ姿の男・デリンジャーは声を荒げてまで彼を壁に叩きつけると彼の手をつかんで強引に動かし、グレーの球体をねじらせた。すると、油田の体は見る見るうちにグレーのおぞましいエネルギーに包まれていく。


「わ、わたしは生涯一教師……うっ、うわあああああああああああああ」


 家中に響いて揺れるほどの絶叫は、彼を変異させた元凶であるデリンジャーをも転ばせてしまった。しかもデリンジャーは自身がそうなるように仕向けたのに、尻もちをついたまま後ずさりしたのだ。


「ジュミョオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 教師、油田蝉丸は怪人と化した。セミのような顔で目は赤く鼻にあたる位置から鋭い突起を伸ばしており、口は裂けて歯牙がむき出し。全身グレーでところどころに、これまた血のような赤色の差し色が入った機械化された肉体を持ち、翅を生やし、胸にはスピーカーの意匠が見られ、両腕にはまるでセミの幼虫の前足を思わせる鋭い鎌を生やしていた。


「ぼぼ、ぼくには後がない。そうだ、生き残ってもっと出世するためなら、どんな手段だって使っていいんだああああ……ウワッ!?」


「ジュミョオオオオ!」


 ブルブルと震えながら、自分の今後を懸けた作戦を成功させんと意気込んでいるデリンジャーに、なんと怪人・『シケーダガイスト』と化した油田蝉丸が二重にエコーのかかった声を上げて、鎌を突きつけたではないか。


「悪い子は再教育だ……。体罰……だ。ジュミョーッ!!」


「ま、待て! ぼくは悪い子じゃない!? うぎゃあああああああああああああああああああ」



 ◆



「ふ、フッフッハッハッハッ! さささ、作戦はこうだ! しっ、シケーダガイストの発する殺人音波で、ま、街を破壊するだけでなく、ひ、ひ、ひっ、人々の精神を汚染して崩壊させ、きょきょきょ、凶暴な殺人鬼に変化させて、こっこっこっ、殺し合いをさせる! そ、そそそ、そうやって自分たちで首を絞め合って、おおおおおおっおっ、愚かな民衆は、ほっほっホアーッ! ほほ、ほほほ、滅びるの、さっさささ、さあ!!」


 デリンジャーは教師の蝉丸を怪人に変えて放置すると間もなく、暗雲が立ち込め、この世のどこにあるかもわからないヘリックスシティへと帰還。そして、玉座の間へと通ずるロビーにてほかの幹部たち――禍津蠍典(まがつ かつのり)やキュイジーネ・キャメロンらへ自慢げに話していた。ただし、口先だけは(・・・)立派だったが、興奮状態にあったシケーダガイストに切り付けられた傷が体中に残っていて格好がついていない。禍津は眉を片方吊り下げて「大丈夫かこいつ……」と疑問に思い、キュイジーネは腕を組んで乾いた笑みを浮かべている。


「それと高校教師を素体に使ったことと、何の関係がある?」


 彼を下に見て煽るような言い方で、禍津がデリンジャーに食い入るように顔を近付けて、にらみつけてから疑問をぶつける。更に彼は、右腕に持っていた松葉杖(・・・)を持ち上げ、老人が若者に説教するように突きつける。

 ――彼は、以前No.1ことエリスを連れて逃走していた蜂須賀蜜月を追い詰めようとしてオートバイ部隊と装甲車を指揮した際、返り討ちにされて装甲車もろとも大爆破され、そのダメージによってしばらく療養せざるを得なくなっていたのだ。しかも、まだ歩行に杖が必要ときている。

 

「が、害虫ヤロウが文句ばっか言いやがって! 日本の将来を担う子どもたちを凶暴にして、高校を憎悪と暴力が支配する地獄に変え、日本という国の未来と希望を木っ端みじんに打ち砕くのだアアアアアアア!!」


「ほーう。マヌケのデリンジャーにしてはよく考えてあるじゃないか」


「今に天地がひっくり返るわね」


 自信満々に、行き当たりばったりであることは明白ではあるが説明を行うものの、彼やキュイジーネからの反応はいずれも冷たいものだった。またも彼は顔を歪めて、禍津を乱暴にどけるとキュイジーネへと詰め寄る。メンチを切ろうとしたら逆に切り返された上、彼女の大きすぎるバストが少し当たってしまい、デリンジャーはひどく動揺させられた。


「な、なんですかミセス・キュイジーネ! あんたこそ、やろうと思えば熱海でNo.0も蜂須賀も始末できたのに、休暇中だったからってあいつらと遊びほうけちゃって……。うらやま、けしからん!!」


「あなたは単に仕事をサボタージュして、温泉でゆっくり遊びたかっただけじゃない。オンとオフの切り替えもできないようでは、ヘリックスの幹部は到底務まらないもの」


 ――ぐうの音も出ない。デリンジャーの根拠のない自信は、彼女の悩ましげな顔から繰り出された毒のある言葉の刃物とともに、粉みじんに打ち砕かれた。


「ま、せいぜい首を切られないように気を付けることだな。どうしてもと言うなら力を貸してやってもいいが、どうするね?」


「うるさい! にっくきNo.0は捕獲されて今度こそ組織に忠誠を誓い、うっとうしい蜂須賀がみじめに死ぬところを、お前らは特等席で労することなく見られるんだ。ぼくに感謝しろ……ふんッ!!」


 少しイキった口調で禍津の煽りに煽りで返してから、デリンジャーはヒステリックな態度のままにその場から去る。禍津は大きくため息を吐き、キュイジーネは腕を組んでその豊満なバストが弾むほど笑う。


「クックックックッ……。やはりあいつはバカだなあ。この俺様が黙って見ているわけがなかろうよ」


「へぇ、デリンジャーさんに協力してあげようと言うのかしら?」


「まさか……。『フリッツ』! フリッツはいるか!」


 デリンジャーが去ったところでキュイジーネと笑い合うと、禍津は左手の指をパチンと鳴らす。それに応じて黒服の男が1人、アクロバティックな動作とともに現れた。茶髪でサングラスをかけて、首には白いスカーフも巻いている。名はフリッツという。


「お呼びになられましたか、禍津様にキュイジーネ様……」


 直属の上司と上司の同僚へ、彼はお辞儀をする。「デキる男なのだ」、というオーラを醸し出してはいた。彼とは面識があったか、キュイジーネは肩に手を当て少し意地の悪い微笑みをたたえる。


「我が忠実なる部下フリッツよ。デリンジャーの作戦から目を離すな、隙を見てヤツの邪魔をするんだ」


「お任せあれ」


 禍津からそう命じられたフリッツは黒スーツの外ポケットからジーンスフィア……ではなく、ものを弾き出す(・・・・・)さまを描いた紋章が記された、紫色のマテリアルスフィアを取り出して握りしめる。そして笑う。


「彼はとっておきの部下だったはず。あなたも本気みたいね?」


「ヤツは我が組織のお荷物なのだ。遅かれ早かれ、誰かが始末しておかなくっちゃあ……」


 親が子を見守る時のような微笑と、自身より明確に劣る者を見下す嘲笑と、それぞれニュアンスは違えどヘビ女・キュイジーネとサソリ男・禍津は笑う。――「デリンジャー無能なり!」、と。

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