FILE072:報復措置の提案
ブルドッグガイストから助けたお礼ということで、芽依とその家族が暮らす江村家に案内してもらったアデリーンと蜜月。庶民的でどこにでもあるようなその家で、2人はまず、リビングにて事情を洗いざらい説明する。最初はもちろん、にわかには信じがたい顔をしていた江村一家であったが、あのようなことを実際に目の当たりにしたあとだったため、すぐに事実を受け入れた。
「公表するって本当ですか!?」
説明を受けていた中で、芽依の父である江村達哉が素っ頓狂な声を出す。
「ワタシたちとしては、その『ヘリックス』という組織のことを世間に知らしめて、好き放題悪事を働いているヤツらを少しでも追い詰めたいんです」
「キャンプ場に来ていた人たちの救助が間に合わなかったとはいえ、そのためにメイちゃんや、皆さんを利用するような形になってしまって本当にごめんなさい……」
今後どうするかを打ち明けて行く中、ポーカーフェイスで心の中を見せない蜜月とは対照的に、アデリーンは目を伏せて謝罪する。それを聞いていた江村家の者たちは少し、複雑な顔を見せたが――達哉の妻・靖子からの返答は、2人にとって予想外なものだった。
「いいえ。むしろ、構いません。お二方のお役に立てるのでしたら」
容姿・性格ともに平凡な主婦ながらも心優しい母親ではあった靖子だが、胸のうちに秘めた覚悟は強く――2人とも思わず瞳孔を閉じたほどだった。
「ですが、ワタシたちはあなた方を……!」
「私たちにも、ヘリックスに一矢報いたいだけの理由はあります。うちに良くしてくださった、芽依のクラスメイトや、そのご家族を目の前で殺されたわけですから――」
負い目を感じていたために謝罪しようとした蜜月だったが、そんな彼女を止めるかのように靖子は言葉を続ける。穏やかながらも、ヘリックスの非道ぶりを許せない怒りの感情がその瞳に宿っていた。彼女と達哉の娘である芽依も、塞ぎ込んではいるが、その表情に自身の今の心情を露わにしていた。江村家の者たちの思いを受け取ったアデリーンは意を決した顔で、重い腰を上げる。――別に深い意味はない。
「わかりました。……皆さん、先にお伝えしておきますが、私は皆さんから幸せを奪うヘリックスを打倒するにあたっては、手段も犠牲も厭いません。ですが、それはあくまでもそうせざるを得なくなった時の話。ここまでも可能な限り、そのような事態にはならないように努力し続けてきました」
極めて真剣な表情と口調のアデリーンの力説に、蜜月は黙々と聞き入っていた。――芽依もだ。幼いゆえ、難しいことはよくわからない芽依だったが、アデリーンが伝えたいことは一応わかっていた。あのような惨劇を目の当たりにして間もなかったため、少し怯えてはいたが、アデリーンは言葉を言い終えてからしゃがんで、芽依と目線を合わせて笑う。
「メイちゃん、大丈夫だからね。あなたとあなたのお父さんやお母さんのことは、私たちが責任をもって守るから」
「ほんと……? じゃあ、芽依と約束してくれる?」
「もちろん」
蜜月や達哉に靖子が見ている中で、アデリーンは芽依と指切りげんまんをする。どちらも、笑顔には笑顔で返した。
「悪い怪人は、私とミヅキお姉さんが必ずやっつけて、懲らしめるからね」
「えっ!?」
真面目な話をしていたアデリーンのすぐ隣で変な声を上げてしまったため、蜜月は気まずそうに口を塞いだ。――気を取り直して、蜜月は緩んでいた表情を凛々しくして芽依たちのほうを向く。
「さて、ワタシはこう見えて、少し前まではヘリックスにいました。なので、その気になればヘリックスをいくらでも不利な状況に追い込むことができます。今回あんなヒドイことをした怪人もヘリックスの息がかかった人間が変身したものでしたし、それを告発してしまえば一気に切り崩すことができます。……あのブルドッグの怪人は、エイドロン社のアンバサダーを務めている男が変身していたのです」
「エイドロン社って、あのエイドロン社ですか?」
「そうです。まっとうな企業を装って、実はヘリックスが恐ろしい兵器を作るための隠れ蓑にしていて……。あっ、芽依ちゃんにもわかるように言うとね、表向きではちゃんとした会社だけど、裏ではみんなにはバレないように悪いことばっかりやってたってことなんだよ」
「ひどーい! いい会社だと思ってたのに!」
「……ミヅキも人のこと言えないんじゃない?」
「う、うるさいし!!」
――アデリーンが話の途中で蜜月のことを茶化したが、これは蜜月の邪魔をしたのではなく、この場の緊張した空気をほぐすためである。
「芽依ちゃん、そんなわる~~~~い会社には、いっぱい仕返ししてやらないとねぇ……。ふ、ふふふふふふ」
「ミヅキ、メイちゃんが怖がっちゃうでしょ」
「おっほん!! ……ともかく、物事には順序がありますからね。いきなり「エイドロン社は邪悪そのものだ!」、「ママ友がヘリックスに殺された!」、「私の娘の友達はエイドロン社とヘリックスに殺された!」とか、いっぺんにそういう反対運動を行なってしまうと、世間に余計な混乱をもたらしてしまうわけですね。ワタシとしてはそれだけは絶対に避けたい」
「私も右に同じです。それに敵の攻撃から生き延びることができたということは、敵からマークされてしまっているかもしれませんから、私たちが皆さんを護衛する必要も出てくるわけですね」
「なので、ワタシか、アデレード……失礼、ワタシかアデリーンのどちらかがこのおうちに残って、皆さんの護衛を――」
蜜月が江村家に今後何するべきかの説明を続けていたその時、アデリーンが唐突に両手から冷気を発し、氷で自分そっくりの人形を作り始めた。
(はっ!? これは、カメレオンガイストの事件の時に作っていた……!?)
蜜月が以前のことを思い出す。そう、アデリーンの分身を作り出す特殊技能・『アイシングドール』である。
「心配いりません。私たちはあまり一緒にはいられないと思いますが、そうなった時でも皆さんのことは、この子が守ってくれます」
「ちょ、アデレード……」
「ミヅキは危なっかしいから、あまり任せっぱなしにはできないの。それに誰かを護衛しながら戦うのは苦手じゃなかったわよね?」
「できらあ! 護衛ミッションとか、なんちゃら防衛戦とか苦手そうだって決めつけて! ボディガードくらいやってみせるわよ!!」
「出たわね、ミヅキの貴重な女言葉!」
「芽依これ知ってる! パパと一緒によく見てたの。なんだっけ、パーマ〇のコ〇ーロ〇ット……」
「わーっ! 芽依ちゃん、しっ! しーっ!」
「……いろいろ言いましたが。個人でやるにはやっぱり、きついものがありますから、誰かにバックアップをしてもらいましょう」
「アデリーンお姉ちゃん、それって、パソコンとかの?」
「ううん、そっちじゃなくてね。頼れる人に後ろから応援してもらうのよ。たとえば大企業とか……」
少しごたついたが、それからも説明自体は円滑に進み――。達哉や靖子とも安全を確保することを約束したアデリーンと蜜月は、江村家に見送ってもらい、出発する。2人そろってバイクに乗る前に、缶コーヒーでも飲んでゆっくりと話し合うのだ。
「ねえ、安請け合いしちゃって良かったの? コ〇ーロボ〇トにお守りを頼んだのは良いけど、江村さんたちのこと守りきれる? あいつら何してくるかわかんないのよ?」
ヒーローをやる前に殺し屋として長らく活動してきた反動か、誰かを喪うということに対して蜜月は少し敏感になっていた。心なしか普段に比べて弱気なようにも見える。
「だから私たちが手を打つんじゃない。アイシングドールにも頼りすぎないようにしてね」
対して、アデリーンは明るい顔で威風堂々としていて、自信に満ち溢れている。慢心しているのではない、そうしてみせるという覚悟の表れだ。
「止めやしないけどさ~……。権二郎さんといやあ、自分が気に入らないものには何にでも食ってかかって、潰しにかかるようなヤバイやつだよ」
「心配しないで、ミヅキ。私たちは2人だけじゃないもの」
アデリーンからそう言われて、蜜月が頭に思い浮かべたのはシルバーホワイトの髪の社長令嬢こと虎姫・T・テイラーや、アデリーンの両親、浦和家の面々、女医の各務彩姫、『師匠』の孫にして自身とは知己である児童養護施設の園長や、殺し屋時代からの竹馬の友である『メロニー』――といった人々の姿だ。
「そだね。……アポとってみる?」
「ああ、それってヒメちゃんに?」
「おトラさんじゃなくて、『メロちゃん』。ワタシの友達で、喫茶バーのママやってるの。まだ会ったこと無かったっしょ」
アデリーンが興味深そうに頷き、缶コーヒーに口をつけて残った中身を飲み切る。
「おトラさんにアポとって、メロちゃんのお店で待ち合わせしよーよ。驚くなよ~?」
「そうね、そのメロちゃんとも会って、タツヤさんたちにお話したことをヒメちゃんにも相談しないと」
次に何をすべきか、これで決まりだ。




