FILE056:決着!人造人間アデリーン対暗殺者ミヅキ
「ふはははははははははッ……!」
またも蜜月が目にも留まらぬ速さでアデリーンに急接近し、斬りつける。それをビームシールド・ブリザウォールで防ぎ、アデリーンは剣戟を繰り返す。つばぜり合いへと持ち込んだ――!
「なんという気迫なの!?」
彼女は今までこういう顔をして私と戦って来たのか、と、思うアデリーンだったが、情に流されることなく押し通り、対峙している蜜月と力を拮抗させる。
「クッ……! うあっ!!」
つばぜり合いに勝ったのはアデリーンだった。踏み込んで素早く切り払うと、蜜月に連撃を叩き込むが、蜜月はその途中でアデリーンの攻撃を弾き返して反撃に転じた。喉元への鋭く容赦のないキックも放つ!
「くぅッ!!」
「はあ、はあ……」
喉を押さえたが、ZR細胞の回復力によってたちまちダメージは癒され、再び活性化したアデリーンはシールドアタックをかまして蜜月をのけぞらせる。やはりそのくらいで引き下がる彼女ではなく、ジャンプして宙で旋回して飛び越し、着地と同時にスライディングとターンでアデリーンを翻弄。
逆手持ちしてから十字剣を振り上げて衝撃波を地走りさせた。アデリーンは地面からツララや氷の壁を発生させてしのぎ、その壁を自ら粉砕して蜜月へと距離を詰める。そしてハイキックだ。
「ぐあっ」
蹴飛ばされた蜜月は左手で右肩を押さえ、疲弊とダメージの蓄積によって片目もつむって肩で呼吸し出していた。対するアデリーンはまだ、余裕がありそうだが決して蜜月を侮ったりなどしていない。
「ワタシも焼きが回ってきたか――?」
「アバランチダウンバースト! てやああああああああ―――――――ッ!!」
ごちた蜜月を見つめていながらも、力を溜めてからアデリーンはジャンプして蜜月の頭上まで移動し、ブリザードエッジを地面へ向けて急降下する。蜜月は間一髪で回避したが、アデリーンが着地した地点を中心に周囲に爆発と同時に巨大なツララが地中から発生して周囲を貫く。蜜月もその影響を受けて吹っ飛ばされるが、それでも立ち上がって歯を食い縛り、アデリーンへと十字剣を向ける。
「次で決める……。お前を殺していいのはただ1人。ワタシだけだ!」
「いいえ、私は死なない。あなた自身のためにもここで終止符を打つ!」
やがて、蜜月とアデリーンが互いに闘志や信念をたぎらせ、武器に全身全霊を込めた時、決闘は最終局面へと突入した。
「フリージングストラッシュ!!」
アデリーンが先手を打つ! 地面に雪の結晶をかたどる紋章を浮かび上がらせ、周囲に輝くほど冷たい吹雪を発生させてからの放つ、冷凍エネルギーを乗せた必殺剣だ。
「スティンガーアナイアレートッ!!」
蜜月も負けじと必殺奥義を繰り出す。両手でバズソードを持ち、黒く輝かせてから力の限り振るう凶悪なる必殺剣だ!
「終わりよ!!」
「いっけええええええええええええええええええええええッ」
両者の必殺技が激しくぶつかり合った末に、炸裂して周辺を激しく揺るがすほどの大爆発が巻き起こった。蜜月はバズソードとともに波打際へと大きく吹っ飛ばされ、爆炎が強すぎる冷気と吹雪によって鎮圧された時、その場に残ったのは――既にブリザードエッジの青い光の刃を納めていたアデリーンだった。自身に備わった再生能力で傷を治癒するも、著しく疲弊して顔や服についた煤を払わなかった彼女は――左手で右腕を押さえて倒れている蜜月へと歩み寄る。ブリザードエッジの光刃を再び展開させて彼女を討ち取る、かに見えたが、蜜月に手を差し伸べた。しかし蜜月は口元を緩め、それを断る。
「ふへへへへ、ははははははははは……。かなわないよ、お前には。ワタシの負けだ……。ひと思いに殺せ」
清々しくもすべて失ったような顔をして、蜜月がそう催促する。複雑な思いを胸に抱え、アデリーンは彼女を見つめている。
「ワタシはヘリックスという組織に背いた。帰れば処刑が待っている。最期くらいは――お前の手でワタシを殺してくれ!」
「――傷を癒して。私はいつでも相手になる」
瞳から輝きは失われ、死を受け入れたような口ぶりで願った蜜月だったが、アデリーンがそれに反対したとき――自然と輝きが戻ってきた。
「なぜひと思いにやらない? ワタシはお前の敵だぞ。生き恥をさらせって言うのか?」
「そうじゃない――」
アデリーンがそれを言おうとしたその時、彼女は第三者の殺気を感じ取る。そして――。
「ミヅキ、危ない!?」
「えっ!?」
とっさにミヅキをかばい、アデリーンは代わりに凶弾をその背に受けた。彼女を撃った者はすぐ、岩陰からその姿を現す――。
「グヘッ、グヘヘヘヘヘヘヘヘ! このアマッ! もう少しでこの世から排除出来たって言うのによォ……!!」
「お前か……? ほんと、キタない野郎だな……ゴールドバグ熊谷ッ!!」
「カーペンターだ! 俺をおちょくりおって……」
ゲスで邪悪な笑みを浮かべているそのいかつい男はカーペンター熊谷。かつて蜜月が組んでいた殺し屋だった。アデリーンは、悪態をつくだけの余裕がまだあった蜜月を抱いたまま振り向いて、険しい顔をして相手をにらむ。
「蜂須賀よォ! オメーに生きてられたら邪魔なんだよぉ~~ッ! それにオメーはもう用済みなんだッ! しぶとく生き延びやがって、早いとここの世からおさらばしろや!!」
「生き意地の汚いヤツ! あなた、それでも人間なの? ミヅキの相棒だったんじゃないの!?」
「そこのアマが俺の相棒だァ? ガハハハハハハハハ! 笑わせるなあッ!」
下劣なカーペンター熊谷が銃を構えたまま近付いて来る。それを激しく糾弾するアデリーンだが、すると熊谷は唾でも飛びそうなほど大笑いした。
「人間もどきのバケモンが寝言ほざいてんじゃねえや! 俺たち殺し屋には【仁義】も【美学】も、ましてや【信念】や【友情】もいらねえんだ! どんな手段を使おうが相手を殺せればそれでいいのだッ! うっとうしい蜂須賀を殺して、テメーも捕らえて一石二鳥……。いや、その功績で幹部に取り立ててもらって一石三鳥だな!」
アデリーンから品性のなさや非道さを訴えられても、カーペンター熊谷はまともに取り合おうともせずに嘲り、クマバチのエンブレムが刻まれた黄色のジーンスフィアを取り出してねじり、バンブルビーガイストの姿へと変身しようとした。しかし次の瞬間、ひとりでにクマバチのジーンスフィアが砕け散り、熊谷の左手も吹っ飛んで爆裂した!
「うがががががあああああああああああああああああ!?」
続けて、一転しておびえて逃げ出そうとする熊谷の足も撃ったのは――蜜月のジングバズショットを右手に持っていたアデリーンだ。蜜月を抱えたまま立つと、アデリーンはジングバズショットを握ったままカーペンター熊谷の急所に狙いを定める。これは傷付いた彼女の分も撃って、無念を晴らそうという意志をもってのことだ。
「――殺す。お前だけは……!!」
アデリーンは激昂していた。上目遣いでにらみを利かせながら、唇を噛みしめている彼女は自身の右手を蜜月の左手に寄せて、ともにジングバズショットをしっかりと握って――熊谷を撃った。確実にこの世から葬り去れるように、額や左胸、腹部に向けて3発だ。断末魔の叫びを上げる間もなく、カーペンター熊谷は岩場から海に転落し、海面で大きく水しぶきを上げるほど爆発四散してから死んだ。それを2人が見届けた時、アデリーンの顔から怒りは消え去り、いつもの冷静沈着ですました表情に戻った。
「ジッとしてて……」
蜜月をお姫様抱っこして少し歩いてから、アデリーンは満身創痍の蜜月をそこに寝かせて、止血や傷の手当てを行なった。自身の手のひらを見た蜜月は、自分がこうやって生かされたことが信じられないでいる。死んでも仕方のない、おかしくないことばかりやってきた自覚があったためだ。
「これで応急処置はできたわ。あとは好きにしなさいな」
気分の切り替えが早いアデリーンは穏やかな表情をして蜜月にそう告げる。ワタシなどのためにどうしてここまで? 元はと言えば、本性を隠して近付いて、ずっと騙し続けてきたというのに。怒りのままにこの世から消し去られても何も不思議じゃないというのに。――そんな風に困惑しながら、様々な感情が入り混じった顔をして、彼女はアデリーンにこう問いかけた。
「1つだけ聞かせてくれ。なぜワタシに情けをかけた」
「あなたには生きて罪をあがなってほしいからよ。それに――ミヅキが本当は優しい人なんだってわかってるから」
微笑むアデリーンからの思いもよらない答えを聞かされた時、蜜月は瞳孔を閉じて、今までにないほど動揺していた。すぐにでも否定したい気分だった。なのにそれができない。どうしてなのだ。断じて優しい人なんかではないのに、どうして否定できない――! ゆっくりと立ち上がった蜜月はアデリーンから目を背ける。それを心配そうに彼女は見ていた。
「ワタシはお前を怨むぞ、アデリーン……!」
言葉ではそう言っても、心では彼女に感謝している。そんな自分がいた。この矛盾に苦しみながらも蜜月はジングバズショットを返してもらい、口笛を吹いてイエローホーネットを呼び寄せるとそれに乗ってこの海岸を後にする。
「ミヅキ……」
豊かに実った胸に手を添えて、アデリーンは蜜月の身を、彼女に待ち受ける命運を案じた。――夕陽に照らされ、潮風になびく黄金色の長い髪が美しかった。




