FILE042:不可視の怪物?
「や、やめろ! やめてくれ! もう何もしねーから、助けてくれ!」
翌朝、都内のとある高校。生徒が突然惨たらしく死亡したため、騒然となる中、2年生の教室内にて今まさに更なる犠牲者が出ようとしていた。生徒・教員ともにほとんどが外へ逃げた一方で、取り残された者たちは皆死ぬか、姿を消してしまうか、そのどちらかであった。彼は自分を襲っている何かを見てひどくおびえきっていた。
「やめねーよ! お前らが僕をいじめるからこうなったんだんだろーが。わかったら、死ねぇぇぇ!」
少年の声だ。だがそれを発しているのは――黒と緑を基調とした体色をした、カメレオンのような不気味な怪人だった。2本のツノを生やし目は毒々しい紫色、腹はこれまた毒々しい赤色だ。やはりところどころ機械化されていて、とくに顔の左半分は完全に機械になっていた。なお、下半身はブツブツだらけの表皮に見立てた装甲付きでモスグリーンに染まったタイツ状になっており、黒いブーツも履いていた。
「ああああああ!!」
コードのように無数に分かれた舌を伸ばして絡め取った瞬間に、カメレオンの怪人は保護色を利用して周囲の景色に溶け込み――姿を消してから男子生徒を絞殺。透明になったままその部屋を出て他に校舎内に残った生徒も虐殺しようとし始めたのだ。
「生徒会長はどこだ……」
「し、知らない! 放してくれ!!」
「生徒会長の御子柴オサムはどこだって聞いてんだ! 答えろ! でなきゃ殺すぞ!」
「知らな……い……」
不運にも、次のターゲットにされた彼はカメレオン怪人の鬱憤晴らしのために舌で強く締め付けられ、窒息死させられた。カメレオンの怪人は、非情にも死体を蹴飛ばして笑う。
「きゃあああああ~~!?」
「ぐへっ、ぐへへへへ。女ァ、オマエ、気に入ったぞぉ~。確かC組で一番セクシーなエツコちゃんだったよな。こっち来いよ、僕が慰めてやらぁ……」
エツコという暗い色合いの茶髪で色っぽい体型の女子生徒を見つけて追い詰めると姿は消したまま彼女に掴みかかり、そのまま鏡に近寄り――その中へと入って行った。次の瞬間に同じ鏡から、何事もなかったかのように彼女は出てきた。ただし、その目に光は宿っていない。全体的に色も薄暗かった。
「レロレロレロロロロ! 死ね! ボクをバカにしたヤツらはみんな死ねェ。ボクの言うことを聞く人間だけいればいいんだあ……。ぐへへへへへへへへーッ!!」
鏡の中の世界――いや、正確には彼が自身の能力で作った『異空間』の中でカメレオン怪人は汚らしく笑った。その背後には、彼によって鎖で縛られた人々の姿があり、捕まったエツコもその中に混じっていた。そして彼はその手先をこねくり回すような動きで光らせて、捕らえた人々にそっくりな『コピー人間』を作り出していたのだ。
「う~~~~ん。我ながら結構クリソッツじゃあないか。レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ……」
◆◆◆
その頃、都内にあるクラリティアナ家。リビングに一家が集まっており、それぞれテレビを視聴したり、家事をしたり、洗顔や歯みがきをしていたり、それぞれ違う行動を取っていた。
『それでは次のニュースです。都内を中心に突然人が消え、その一方で突然人が死ぬという事件が多発しております……』
「怖いわね……」
そんな中、テレビで先ほどのカメレオンの怪人が起こした事件が報道され、父・アロンソも母・マーサも思わず手を止めて、お茶の間が凍り付く。
「父さん、母さん、どうしましたか?」
そこで歯みがきを済ませた娘・アデリーンがリビングへと戻った。彼女も能天気ではないため、両親の様子を見るとほどなくして状況を察し――目つきが変わった。
「いや、それがね……今ニュースでやってたんだけど、怖い事件だ」
まだテレビ番組は先ほどと同じ事件を報道している。その不可解な手口、残虐な犯行を知ると、アデリーンは何かに感付いた。険しい目つきのまま、こう口走る。
「まさかヘリックス!」
思い立ったら即行動に移るのだ。アデリーンは旅行カバンを持ち出して、パジャマから少しレトロな雰囲気の普段着に着替え、充電を済ませたスマートフォンを持ち出すなどして、速やかに準備を済ませた。あまりにもテキパキと動いたものだから、アロンソとマーサは目を丸くしてしまう。
「父さん、母さん、私行ってきます!」
「わかったわ。ディスガイストは何をしてくるかわからないから、気をつけてね……」
少し不安そうな母と父に笑顔を見せて安心させると、アデリーンは家を出てブリザーディアに乗り、超感覚を頼りに犯行現場へと急行。テレビで報道されていた某高等学校の校舎――は、既に惨劇の後であり、周りには野次馬や教師、守衛だけが残っていた。
「あの、封鎖されてるみたいですけど。この辺で何か……」
「知りません。それに何も起きてませんので」
守衛や教員らに確認を取りたかっただけなのに、相手の返事は実にそっけない。光の無い濁った目と言い、冷たい物言いと言い、まるで心がないような反応だ。血なまぐささは校舎のほうから漂ってきているというのに、見られたらそんなに都合が悪いというのか。明らかに、異常である。
「ちょっと怪しいけど、他をあたろう……」
これでは埒が明かない。アデリーンはその高校から離れて別の場所に移動する。だが、彼女は気付けなかった。野次馬の中にヘリックスの大幹部――キュイジーネが変装して紛れ込んでいたことに。
「ふふふふふふ、うっかり屋さんもいたものね」
アデリーンが去る瞬間まで巧妙に姿と素性を隠し通した彼女は不敵に笑い、いずこへと姿を消した。
◆◆◆
アデリーンが手掛かりを探し回っているその間にも、カメレオンの怪人は通り魔的に人を襲っては殺し、或いは鏡の中に作った空間にさらって閉じ込めて、コピー人間を作り出していた。次なる狙いは――銀行。銀行の中の鏡を媒介にして現れたカメレオンは保護色で姿を隠し、まんまと奥にある金庫まで忍び込むことに成功する。
「へへへへっ。あっさり目的を達成しちゃあ、つまんねーもんなー。僕はこの力を、復讐なんかよりもっともっと面白いことに使ってやる。たとえば……大金持ちになるとか!!」
なんと、口を開けて舌を伸ばすとその舌がケーブルのように変化し、金庫を管理するコンピュータにハッキングを行なった! 彼に好き放題いじられたコンピュータは誤作動を起こし、金庫のロックもセキュリティも解除されてすんなりとカメレオンを通してしまった。
「レロレロレロレロレロロロロ! やった! これで一生遊んで暮らせるぜぇ~~!!」
まんまと大金を盗んで脱走。姿は消したまま、去り際に目からレーザービームを発して爆破して行った! これだけでも相当な数の犠牲が出たことになる。
「レロレロ! たーのしーなーッ! レロロロローン!!」
「うッ……!?」
鏡の中に作った空間に大金を置いてきたカメレオン怪人は、また透明になったまま舌を伸ばして通行人を絞殺しはじめた。かと思えば、舌で乱暴に壁や地面に叩きつけてバラバラ殺人を起こしたり、時には左手に装着した丸ノコで惨殺するなど、やることなすこと、全てが不規則でブレブレだった。
「レロレロレロレロ! レロレロレロレロ!」
「だ、誰だお前は!?」
その魔の手は、ついに彼が一番殺したかった生徒会長の御子柴オサムのもとへと向けられた! 彼の家へと乗り込んだカメレオンはわざわざ姿を現し、舌で御子柴の首を絞め付けると左手から丸ノコを出現させてジリジリと詰め寄る。駆動して振動することにより発生した金属音が、御子柴の精神を削り取って徐々に弱らせていった。
「お前らにいじめられてきた、亀澤律夫だよぉ! レロレロ!!」
「か、亀澤だったのか……! ゆ、許してくれ! 先生と親に脅されて……!!」
「安心しろお、お前のお仲間のもとに送ってやるからよぉ~~ッ! お前らとグルだった先公とだって一緒になれるぞお! レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ!!」
切られた。御子柴は悲鳴を上げる間もなく、カメレオンが振りかざした丸ノコで左半身から切られて死んだ! スプラッター映画さながらのむごさがそこにあった。
「きゃーッ!? オサムちゃん、オサムちゃん!」
「せがれに何をした!?」
御子柴オサムの両親が現れたが、時既に遅しだった――。息子の惨殺死体と血しぶきを間近で浴びた、グロテスクな容姿のカメレオンの怪人がそこにいたのだ。
「レロレロ! クソオヤジ&クソババア! オメーらのバカ息子のオサムくんなら僕がぶっ殺してやったよ! オサムくんが悪いんだぜ! 僕にこんなことさせちゃったオサムくんがなあ! レロロロロ!!」
相手がショックで気を失ったのを見たカメレオン怪人は家を爆破し、簡単には殺さないと言うことで御子柴オサムの両親を半殺しにして放置して行った。放っておいてもどのみち苦しんで死ぬようにしたのだ。自分をいじめた復讐対象はほぼほぼ殺害した彼が次にすることは、もう無さそうに見えたが――。
「もっとだ! もっともっと好き放題暴れまくってやる……! レロレロレロレロロッ!?」
あろうことか彼は既に殺人と破壊、強奪に対して味を占め、快楽を覚え始めていた――! 民衆が逃げ惑う中、広場でそう息巻いていたその時、突然冷凍エネルギーのビームが彼の背後に命中。吹っ飛んだ。
「見つけたわよディスガイスト! これ以上あなたの好きにはさせない!!」
「ヒィィィィィ!?」
カメレオンガイストを撃ったのは、既に【氷晶】を行ない――雪の結晶とティアラをモチーフとした、青いメタルコンバットスーツを装着していたアデリーンだ。




