FILE034:ギョッと!する復讐者
アデリーン=アブソリュートゼロが北関東の危機を救ってから、1週間が経ったある日。東京都内のとある運河で遊覧船『シーライオン丸』が東京湾に向けて優雅に進んでいたところ、水中からその遊覧船を虎視眈々と狙う魚影――いや、怪人。金属化した鱗に鋭い牙と爪を持ち、そうした上半身とは対照的に下半身は黒いウェットスーツかタイツのような出で立ちでブーツも履いていて、背中からは鋭い背ビレを生やしたピラニアのような姿をしている。彼は水面に顔を出して狙いを定めた。
「ギョギョギョ……! あのクソ社長め、一生懸命会社に尽くしてきたオレを不当に解雇しやがって。ぜってー許さねー」
そして、その瞬発力からくる速さで水中を泳ぎ、遊覧船へと飛び乗った。操舵室横の窓ガラスを割って潜入する。舵を取っていた操舵手や後ろにいた船員たちが驚愕し逃げ惑う中、獰猛で粗暴で理性を感じられない動作を取って奇声を上げながら、彼らに忍び寄る。
「ギョギョギョギョギョギョ! どけ!」
「か、怪物!? うわあああああああああああああああ!?」
鋭い爪で引っかかれ、窓ガラスに操舵手の血がびっしりと――。狂乱の叫びを上げたピラニアガイストは船員にも噛みついて殺害あるいは危害を加え、そのまま客席へ赴いて雄叫びを上げた。その血まみれの半魚人にしか見えない異形の姿に、誰もが恐怖に震えて泣き叫ぶ。
「ギョギョギョ! この船はオレ様が乗っ取った! オレをクビにした旅行会社への復讐のため、お前らを乗せたままこの船を突っ込ませるゥ!」
前の席に乗っていた中年男性を引っ張り出し、爪を喉元に当てがう。見せしめにする気だ。少しでも逆らえば大量虐殺も辞さないだろう。そのくらいこのピラニアの怪人は精神的にイカレてしまっている!
「お前らは人質だ。そして逆らう奴は……こうだ! ぎゃははははははははは~~~~ッ」
男性を力任せに切り裂いて惨殺! 少し気に入らないことがあれば、そのたびに人質を殺して遊覧船を血の海にするつもりだ。少し上機嫌になったことにより、ピラニアガイストはゲスな高笑いをあげる。支離滅裂な思考はジーンスフィアを使ってこの姿に変身した影響か。
「ぐわーーー!?」
「いや……いやああああああ!!」
「ママ、怖いよお……!?」
「ギョギョギョ! 死ね~! どうせみんな、この船もろとも遅かれ早かれ死ぬんだ! このピラニアガイスト様と一緒にみんな死ねえええええええ!!」
その時、遊覧船の甲板に颯爽と誰かが飛び乗る。その誰かは――客席へと入った!
「ウギギギギ!? か、体が……つつつつつつつ冷たい!!」
船全体にひんやりとした空気が漂う。これは比喩などではない。客席や操舵室の窓ガラスについた血もやさしく凍りつき、その場で消え去った。
「零華の戦姫、アブソリュートゼロ! 悪しき者だけ凍らせる氷の風を漂わせた!」
これ以上事態が悪化する前に――。アブソリュートゼロことアデリーンが動き出す。その青白く光り輝く、雪の結晶とティアラをイメージしたメタル・コンバットスーツをまとって現れた彼女の姿は、この遊覧船に乗っていた者たちすべてを安心させた。テロをしかけたピラニアの怪人を除いて。
「あ……!? あ……!?」
わけもわからず立ち尽くすピラニアガイストをぶん殴ってひるませると、アデリーンは彼に殺された男性や操舵手を介抱しながら、初老の男性である船長や若手からベテランまでそろう船員たち、そして何より、乗客たちを安心させようと声をかけはじめる。
「船長さん! 私はあのピラニアを船から引き離します。操舵手さんの代わりに船を操縦できる人を手配して、早く安全なところへ避難してください!」
「わかりました! アブソリュートゼロさん、すまない!」
「いいんです。さあ、早く!」
アデリーンはうめき声を上げてもがき苦しむピラニアガイストを取り押さえ、外へと連れ出す。その間に船長は呼吸を整え、操舵手の代理をまだ無事な船員に任せると乗客全員へ促す準備をする――。
「みなさん! 緊急事態につき、このシーライオン丸はできるだけ安全な場所へ向かい、そこで停泊して救助隊を待つことにします。どうかご理解のほどをお願いいたします……!」
乗客の安全と笑顔のために。彼は残された勇気を振り絞って、大声で叫んで伝える。船長のその勇気ある決断に、乗客は拍手を送った。
◆◆
既に遊覧船・シーライオン丸の外から川の中へ移動していたアデリーンはピラニアガイストと交戦していた。水中を素早く動き回り、殴ったり噛みついたりしてくる相手だろうと、アデリーンは逃げも隠れもしない。
「ギョギョッ!?」
アブソリュートゼロ=アデリーンはピラニアガイストをつかんで離さない。そのまま瞬間的に凍結させ、川底から水上へ、そこから岸辺へと飛び上がった! そこは高架下の河川敷で、周りは舗装されブロックがいっぱいだ。泳げるピラニアガイストにとっては有利だが、ものを凍らせることができるアデリーンにとっても当然有利だった――。
「フッ! ハッ! ええーいっ!!」
「ギョギョギョ~~ッ!?」
凍らせたピラニアガイストにパンチとキック、チョップを浴びせて吹っ飛ばす。彼が有利になる水中に潜らせたりなどしないよう、同じ河川敷内にある埋め立て中の工事現場の方角にだ。
「ブリザーディア!」
周囲に氷の粒が飛び散る中、アデリーンは専用マシンであるブリザーディアを呼んで飛び乗った。やられる恐怖から身を守っているピラニアガイストへとそのまま突進し、ブリザーディアに乗ったままの状態で急旋回を繰り返すなどして引きずり回す。そうした容赦のない攻勢には、徹底して残虐非道な相手の好きにはさせないという意志があった。
「ギョッ!? ギョギョギョ……ギョギョーーッ!!」
バイクに攻め続けられた末、ダイレクトに跳ね飛ばされたピラニアガイストはビクビクと震えて倒れる。しかしアデリーンの快進撃は留まるところを知らず、今度はブリザーディアから降りて右ハンドルを引き抜き、専用の青いビームソードへと変形させる。ブリザードエッジだ。
「お、お前正気かあ!? そんなにオレの復讐を止めたいって言うのか!?」
「もっと他に真っ当なやり方もあっただろうに、よりによってジーンスフィアなどに頼るなんて。……やれやれだわ」
彼女は別に復讐を肯定することも否定することもしない。過ちを犯そうとする者がいれば止めるし、己の身を張ってでも正す。――それだけだ。
「はぁ――――ッ……!」
深呼吸して、彼女は自身の周りに雪の結晶型をした紋章を発生させた。半ば強制的にピラニアガイストの体も凍っていく。肩を引きつらせたままピラニアガイストが見上げた時には既に遅く、目の前に必殺パンチが飛んできた。
「マイナスフォーティーブロウ!」
当たった! 今回は左手から青白い閃光がほとばしるとともに放たれた、不屈の必殺パンチだ。当たれば強烈な冷凍エネルギーによって敵は吹っ飛び、倒しきれなくてもその場で完全に凍結して動けなくなる。
「フリージングストラッシュ!」
大ダメージは与えたがトドメには至らず、凍結したのみ。それならばダメ押し。輝くほど冷たい吹雪を刀身にまとわせて放つ必殺剣を見舞うのだ。力の限り振り下ろす!
「ギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョおおおおおおおお!?」
氷が砕けるとともにピラニアガイストは大爆発を起こし、その爆発も吹雪のエネルギーによって収束した。人間の姿に戻ったピラニアこと、魚沼の手元からピラニアの遺伝子を内包していた青緑色のジーンスフィアが転げ落ち、砕け散った。変身を解除したアデリーンはこれの破片を回収する。
「本当は、自分が間違っていることが頭では理解できていて、誰かに止めてほしかったのではないですか?」
「そ、そんなわけ無いだろ……!? ……い、いや……そうだったのかもしれない……」
「これで懲りたら罪を償ってください」
「う……ううッ……、取り返しのつかんことをしてしまった……!」
アデリーンがカードに罪状を書き残した時、あらゆるものが入り混じった複雑な感情からくる涙を流して魚沼は気絶した。アデリーンはカードを魚沼の額に投げてからブリザーディアに乗って去って行く。
【この者、極悪殺人兼遊覧船ジャック犯人!】




